【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
43 / 222
本編

42.権力でゴリ押しするおつもりね

しおりを挟む
 可愛い弟である叔父様の願いと、私とクラウスの婚約を大々的に広めたい思惑と。両方が重なった結果、お父様は荒っぽい方法を選んだ。

「守護する神々のご加護だろう。さすがはウルリヒ大神官殿だな。我が皇家に伝わる秘薬がここまで効くとは」

 とかなんとか。無茶苦茶な言い分で、回復したことにしてしまった。大陸最大勢力であるリヒター帝国の、前皇帝の言葉を否定できる人は少ない。その一人であるガブリエラ様も、艶やかな微笑みで追従した。これでほぼ決定ね。

「荒っぽい方法ですこと」

「こういう話はな、堂々と言い切った方が真実味があるものだ」

 お父様はからりと明るく笑い、盛大な嘘を正当化した。叔父様も、タイミングをずらして騒動を起こせばよかったのに。私やイングリットのことを優先し、己の命を天秤にかけるなんて、やめていただきたいわ。

 家族の集まる奥の宮で、額に手を当てて溜め息を吐く。私の政略結婚の不備が、こんな騒動に発展していくなんて。想像もしなかったわ。せいぜいが、あの忌々しいモーリスの爵位を剥奪し、平民として放逐する程度の計画だったのよ。

 後から後から、策略やら謀略やら……果ては国取りの話まで出てきた。お陰でどんどん騒動が大きくなるわ。ソファーに背を預け、行儀悪く体を預けた。

「前倒しになった婚約式ですが、衣装が間に合いませんね」

 エック兄様は淡々と事実を突きつける。その言葉の裏には、他国の王族や帝国貴族の都合は含まれなかった。呼んだら来い、間に合わなければ切り捨てる。そんな残酷な響きが含まれていた。

「宝飾品は間に合うのかしら?」

「それなら、私のとっておきを使うがよい」

 ガブリエラ様は微笑み、優雅に扇をひらりと動かす。頷いた侍女が動き、後ろの棚から宝石箱を持ち出した。どうやら事前に準備していたみたい。テーブルの上に置かれたのは、周囲に彫金が施された豪華な宝石箱だった。蓋に埋め込まれているの、真珠とサファイアよね。

「これなら不足あるまい」

 躊躇う私をよそに、ガブリエラ様はさっと箱を開けた。中から現れたのは、美しいティアラだ。中央に親指の爪ほどもあるサファイア、周囲にこれまた大粒のピンクの宝石……まさかこれもサファイアなの? それからアクセントのように、小粒のルビーが輝く。

「ガブリエラ様……これは、その」

「皇妃として、公式の場で使用するティアラだ。もう皇妃の座は退いたゆえ、義娘に渡してもおかしくなかろう」

「……そういうものは、私の妻が引き継ぐのではありませんか?」

 苦笑いしながら指摘するルヴィ兄様に、ガブリエラ様は首を横に振った。

「とんでもない! これは私の誇りであり魂も同然だ。よその王女などに渡せるか」

 今の言葉には、王国は帝国の付属品という意味が込められている。それと同時に、べランジェール王女は皇妃に相応しくないと言い切ったも同然だわ。まあ、私も同じ意見だけれど。

 ルヴィ兄様の妻としてなら、私達が口出しする必要はないの。でも、リヒター帝国の皇妃は別よ。ガブリエラ様にしたら、力量不足が目立つ上、ルヴィ兄様に逆らう姿勢も気に入らないでしょう。私が耳にした噂だけでも、皇妃として認める気になれないもの。

「母上がそう仰るなら、構いませんよ。トリアのほうが似合うのも事実ですし」

 ルヴィ兄様はあっさり引いた。これは……皇帝陛下の婚約者の座が、空きそうね。また争奪戦が始まるのかしら?

「兄上、面倒を起こさないでください。僕の仕事が増えてしまいます」

 ぼやくエック兄様の肩を、フォルト兄様が叩いた。力が強かったようで、エック兄様が嫌そうに顔を顰める。

「ルヴィ兄の妻じゃなくて、新しい皇妃探しだろ? 他の仕事は誰かに押し付けちまえばいいさ」

 脳筋なのに、意外といいところに気づいたわね。フォルト兄様の野生の勘は、実母だった側妃様譲りかもしれないわ。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

処理中です...