【完結】妻ではなく他人ですわ【書籍化決定】

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
63 / 222
本編

62.悪巧みは赤い花茶に揺れて

しおりを挟む
 家族四人が集うお茶会は、中の宮東側で行った。兄様達がイングリットに会いに来たから、そのまま部屋を用意した形ね。大きなガラス窓から光の入る、明るい客間を選んだ。

 赤い花茶を口元に運び、香りを楽しんでから一口含む。先日の襲撃犯の処理も含め、お互いの情報を報告し合う予定だった。

 デーンズ王国の王城近くに、大きな塔が建つらしい。そんな噂が流れてきたのは、アルホフ国王が『病に伏せって危篤』と発表された半月後だった。アルホフ国王の容体が急変し、王太子が跡を継ぐのはすぐでしょうね。

「何しろ、国王陛下が不在なのだから」

「正確には行方不明ですね」

 私の言葉尻を捉えて、エック兄様が訂正を入れる。こういう言葉遊びも久しぶりだった。

の保管は問題ありませんの?」

「もちろんです。氷室で保管していますよ」

 あれでも一国の王ですから、とエック兄様は笑った。フォルト兄様が持ち帰った情報と遺体は、現在『名もわからぬ死体』として扱われている。名前が判明すれば遺体、身元不明は死体と言い分けた。現在はあくまでも、拾っただけの死体よ。

「デーンズの工作もうまく行ったようね」

「私だってそれなりに仕事はしているさ」

 ルヴィ兄様が足を組み直す。隣のフォルト兄様は、まだイングリットが気にかかるみたい。自分を見て泣かない赤子は初めてで、夢中になっている様子だった。

「フォルト兄様もお疲れ様でした。雨の後、風邪を引いたりなさらなかった?」

「問題ない、俺の取り柄は頑丈さだからな!」

 やや大きな声だったので、むずがるイングリットが声を上げる。ベビーベッドの縁から顔を覗かせ、フォルト兄様が小声で話しかけた。

「すまん、寝ているところを邪魔した」

 イングリットは大きな目をぱちぱちと瞬き、欠伸を一つした。本当に大物の器ね。

「イングリットはこの部屋でいいのですか?」

 赤子に聞かせる話ではない。遠回しにエック兄様に退室を勧められるも、私は首を横に振った。

「リヒテンシュタイン家の皇女だもの。知らされないほうが悲しいわ」

 こういった世界に身を置く、未来の女帝なの。遠ざけて育てられない。宣言する私に、兄達は困ったような笑みを浮かべた。一人だけ、フォルト兄様がこてりと首を傾げる。

 意味がわかっていないのね。本当に可愛い人だわ。どうせ馬鹿を夫にするなら、このくらい愛らしい人なら良かったのに。元夫モーリスを思い出し、溜め息が漏れた。そういえば、フォルト兄様に預けたわね。

「フォルト兄様、モーリスはどうしていますの?」

「ああ、元気で体力が余ってるようだから、畑を耕す手伝いをさせている」

「……耕す」

「ああ、紐で繋いで畑に放すんだ。仕事しなければ鞭が飛ぶ。だが代わりにノルマをこなせば、料理に一品追加だ」

「家畜、ですね」

 エック兄様、皆が思ったけれど口にしなかった単語を……堂々と! ぷっと噴き出したのはルヴィ兄様だ。私はぎりぎり堪えた。本当に危なかったけれど。

「話を戻しましょう」

 わざとらしい咳をして、エック兄様は誤魔化す。モーリスの話は今でなくてもいいので、私も同意して頷いた。

「デーンズの塔が完成するタイミングで、神殿が暴動を扇動します。神殿より高い建物は、神への侮辱ですから。王や神殿が腐っても、国民の信仰は廃れていません」

「よく貴族が踊ったわね」

「ああ、王を煽てて散財させれば、次の王座に推してやると約束した」

 ルヴィ兄様の作戦だったの。でも……。

「皇帝として約束なさったのなら、破ると問題になるのではありませんか」

「安心してくれ。私が約束したのは、空いた玉座に座らせる約束だ」

 安心して笑みが浮かぶ。なるほど、考えたわね。物理的に玉座に座らせれば、約束を破ったことにはならない。その上、次の玉座に推すだけ。推薦したが通らないのは、本人の資質や行いの結果だった。逃げ道も残しておくところが、ルヴィ兄様らしいわ。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

手放してみたら、けっこう平気でした。

朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。 そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。 だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。

地味で器量の悪い公爵令嬢は政略結婚を拒んでいたのだが

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 心優しいエヴァンズ公爵家の長女アマーリエは自ら王太子との婚約を辞退した。幼馴染でもある王太子の「ブスの癖に図々しく何時までも婚約者の座にいるんじゃない、絶世の美女である妹に婚約者の座を譲れ」という雄弁な視線に耐えられなかったのだ。それにアマーリエにも自覚があった。自分が社交界で悪口陰口を言われるほどブスであることを。だから王太子との婚約を辞退してからは、壁の花に徹していた。エヴァンズ公爵家てもつながりが欲しい貴族家からの政略結婚の申し込みも断り続けていた。このまま静かに領地に籠って暮らしていこうと思っていた。それなのに、常勝無敗、騎士の中の騎士と称えられる王弟で大将軍でもあるアラステアから結婚を申し込まれたのだ。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

見捨てられた逆行令嬢は幸せを掴みたい

水空 葵
恋愛
 一生大切にすると、次期伯爵のオズワルド様に誓われたはずだった。  それなのに、私が懐妊してからの彼は愛人のリリア様だけを守っている。  リリア様にプレゼントをする余裕はあっても、私は食事さえ満足に食べられない。  そんな状況で弱っていた私は、出産に耐えられなくて死んだ……みたい。  でも、次に目を覚ました時。  どういうわけか結婚する前に巻き戻っていた。    二度目の人生。  今度は苦しんで死にたくないから、オズワルド様との婚約は解消することに決めた。それと、彼には私の苦しみをプレゼントすることにしました。  一度婚約破棄したら良縁なんて望めないから、一人で生きていくことに決めているから、醜聞なんて気にしない。  そう決めて行動したせいで良くない噂が流れたのに、どうして次期侯爵様からの縁談が届いたのでしょうか? ※カクヨム様と小説家になろう様でも連載中・連載予定です。  7/23 女性向けHOTランキング1位になりました。ありがとうございますm(__)m

処理中です...