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6章 まさかの女勇者誕生?!
79. ご説明をお願いします
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思わず口をついた言葉に、アスタロトが苦笑いする。濡れたタオルで首筋やリリスの頬に飛んだ血も拭っていると、足元に魔法陣が浮かんだ。
アスタロトが展開した大きな魔法陣が3人を包むと同時に、景色が変わる。魔王城へ戻ると思ったルシファーだが、転移先は予想と違った。
見覚えのある黒い城は、アスタロトの居城だ。ここは彼の領地、それも城の広間だった。全体に黒が多く使われた室内は暗く、冷たい印象を与える。日差しに似た金髪を持つ彼に似合わぬ、どこか寒々しい城は人の気配がほとんどなかった。
「こちらへどうぞ」
広間の隣の控え室へ案内され、紺色のソファに腰掛ける。護るように両腕で抱いたリリスは、疲れて眠っていた。起こさぬように気をつけながら、アスタロトから新しいタオルを受け取る。
純白の髪はあちこち切れて、赤い血が飛んでいた。最初にリリスをもう一度拭ってソファに寝かせようとしたが、髪を掴んで離そうとしない。その幼くも必死な彼女の姿に、ルシファーは口元が緩んだ。
愛しさしか感じない。ひたすらに可愛く、我が身を犠牲にしても護りたいと思う。
必死さを滲ませるリリスの手を解くことが出来なくて、ルシファーは幸せそうな顔で膝の上に幼子を寝かせた。僅かでも動かせば痛む全身に辟易しながらも、眠るリリスを離さない。
「では、陛下。ご説明をお願いします」
ソファの向かいに腰掛けたアスタロトが、慣れた様子でお茶を淹れる。血の臭いに負けない香り高い紅茶を差し出し、主の無残な姿に溜め息を吐いた。
「え、やだ」
一言で切って捨てる。ルシファーは面倒そうに鼻に皺を寄せて続けた。
「だって、また同じ説明が必要だろ」
確かに、ベールも同様の説明を求めるだろう。あれだけ城を壊し、行方不明になったのだ。説明なしに逃げられるわけがない。しかし、にっこり笑ったアスタロトが無言で促すと、引きつった顔のルシファーは頷いて口を開いた。
「わかった、説明する」
やばい、アスタロトがキレる。これは血の雨が降るやつだ。過去にキレさせて失敗したため、早めに降参の意を表明した方がいい。10年程ぐちぐち文句を言われ続けた記憶が過ぎった。
苦い経験から大人しく説明を始める。
「リリスと勇者の話をしたのが直接の原因だろうが、彼女の左手の甲の痣が鮮明になったんだ。昼寝をしてたリリスが『怖い』と泣き出した。オレとお前の髪で作ったブレスレットが反応し……リリスの魔力が弾けて、制御し切れなかったオレの魔力も暴走。最終的に城の魔法陣と反応して、ドカンだ」
肩を竦めるが、痛みに顔をしかめて溜め息を吐いた。
涙を零して泣くリリスを宥めようとした右手が弾かれ、強制的に体内の魔力を千切られた。粉々にされた魔力が行き場を失って暴走、出口を求めて弱っていた右腕を引き裂く。
傷と血に驚いたリリスが感情のままに魔力を解放した。放出される魔力は顕現した翼と輪に集約され、強い魔力に城の結界まで反応して、さらなる爆発を引き起こしたのだ。
城の魔法陣は攻撃に対して自動的に反応する。強力な魔力を放ったリリスを敵と判断して排除しようとしたが、それを抑え込もうとする魔王が逆凪を受けて血だらけ。
パニックになったリリスを連れて、城の魔法陣から逃げた。あの場で一番の敵は、城の防衛用魔法陣だったのだ。
「城の魔法陣が彼女に反発した、と?」
魔族に対して、城の魔法陣が攻撃を仕掛ける理由はない。城で常時稼動する魔法陣は3つだ。警備用に展開する『転移防止の魔法陣』と『侵入者排除の魔法陣』、城を維持する『現状維持の魔法陣』だった。そしてその他に『自己修復の魔法陣』などの補助魔法が仕掛けられている。
侵入者排除の魔法陣が反応するのは、城の主である魔王ルシファーを攻撃したと判断された場合だ。逆凪を受けて弱っていたルシファーに敵対したと見なされたのか。
「左手の痣が鮮明、とは?」
「これだ」
苦虫を噛み潰したような顔で、膝の上のリリスの左手をとる。優しく触れたルシファーの手に、彼女は起きる様子をみせなかった。少し角度を変えると、血を拭き取った手の甲に鮮やかな紋章が浮かんでいる。
「……勇者、ですね」
断定したアスタロトの声は、凍りついたように感情がなかった。
アスタロトが展開した大きな魔法陣が3人を包むと同時に、景色が変わる。魔王城へ戻ると思ったルシファーだが、転移先は予想と違った。
見覚えのある黒い城は、アスタロトの居城だ。ここは彼の領地、それも城の広間だった。全体に黒が多く使われた室内は暗く、冷たい印象を与える。日差しに似た金髪を持つ彼に似合わぬ、どこか寒々しい城は人の気配がほとんどなかった。
「こちらへどうぞ」
広間の隣の控え室へ案内され、紺色のソファに腰掛ける。護るように両腕で抱いたリリスは、疲れて眠っていた。起こさぬように気をつけながら、アスタロトから新しいタオルを受け取る。
純白の髪はあちこち切れて、赤い血が飛んでいた。最初にリリスをもう一度拭ってソファに寝かせようとしたが、髪を掴んで離そうとしない。その幼くも必死な彼女の姿に、ルシファーは口元が緩んだ。
愛しさしか感じない。ひたすらに可愛く、我が身を犠牲にしても護りたいと思う。
必死さを滲ませるリリスの手を解くことが出来なくて、ルシファーは幸せそうな顔で膝の上に幼子を寝かせた。僅かでも動かせば痛む全身に辟易しながらも、眠るリリスを離さない。
「では、陛下。ご説明をお願いします」
ソファの向かいに腰掛けたアスタロトが、慣れた様子でお茶を淹れる。血の臭いに負けない香り高い紅茶を差し出し、主の無残な姿に溜め息を吐いた。
「え、やだ」
一言で切って捨てる。ルシファーは面倒そうに鼻に皺を寄せて続けた。
「だって、また同じ説明が必要だろ」
確かに、ベールも同様の説明を求めるだろう。あれだけ城を壊し、行方不明になったのだ。説明なしに逃げられるわけがない。しかし、にっこり笑ったアスタロトが無言で促すと、引きつった顔のルシファーは頷いて口を開いた。
「わかった、説明する」
やばい、アスタロトがキレる。これは血の雨が降るやつだ。過去にキレさせて失敗したため、早めに降参の意を表明した方がいい。10年程ぐちぐち文句を言われ続けた記憶が過ぎった。
苦い経験から大人しく説明を始める。
「リリスと勇者の話をしたのが直接の原因だろうが、彼女の左手の甲の痣が鮮明になったんだ。昼寝をしてたリリスが『怖い』と泣き出した。オレとお前の髪で作ったブレスレットが反応し……リリスの魔力が弾けて、制御し切れなかったオレの魔力も暴走。最終的に城の魔法陣と反応して、ドカンだ」
肩を竦めるが、痛みに顔をしかめて溜め息を吐いた。
涙を零して泣くリリスを宥めようとした右手が弾かれ、強制的に体内の魔力を千切られた。粉々にされた魔力が行き場を失って暴走、出口を求めて弱っていた右腕を引き裂く。
傷と血に驚いたリリスが感情のままに魔力を解放した。放出される魔力は顕現した翼と輪に集約され、強い魔力に城の結界まで反応して、さらなる爆発を引き起こしたのだ。
城の魔法陣は攻撃に対して自動的に反応する。強力な魔力を放ったリリスを敵と判断して排除しようとしたが、それを抑え込もうとする魔王が逆凪を受けて血だらけ。
パニックになったリリスを連れて、城の魔法陣から逃げた。あの場で一番の敵は、城の防衛用魔法陣だったのだ。
「城の魔法陣が彼女に反発した、と?」
魔族に対して、城の魔法陣が攻撃を仕掛ける理由はない。城で常時稼動する魔法陣は3つだ。警備用に展開する『転移防止の魔法陣』と『侵入者排除の魔法陣』、城を維持する『現状維持の魔法陣』だった。そしてその他に『自己修復の魔法陣』などの補助魔法が仕掛けられている。
侵入者排除の魔法陣が反応するのは、城の主である魔王ルシファーを攻撃したと判断された場合だ。逆凪を受けて弱っていたルシファーに敵対したと見なされたのか。
「左手の痣が鮮明、とは?」
「これだ」
苦虫を噛み潰したような顔で、膝の上のリリスの左手をとる。優しく触れたルシファーの手に、彼女は起きる様子をみせなかった。少し角度を変えると、血を拭き取った手の甲に鮮やかな紋章が浮かんでいる。
「……勇者、ですね」
断定したアスタロトの声は、凍りついたように感情がなかった。
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