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22章 リリス嬢、成長の証
278. 虹の後の落雷事件
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派手じゃないと言ったルーサルカが、まさかのユグドラシル召喚もどきだったので、シトリーは委縮していた。何を披露しようとしていたのか、自分に何ができるのか。怖くなって唇を噛む。涙が溢れそうになるのを、必死に拳を握って耐えていた。
「パパ、ちょっとぉ……離して」
「え!?」
繋いでいた手を解いて背を向けるリリスに、ショックを受けたルシファーが崩れ落ちる。膝から落ちてそのまま倒れる姿は、勇者にやられたような哀れさがあった。さすがに完全に崩れる前に、アスタロトが支えに入る。
「しっかりして下さい。見捨てられますよ」
「う……リリスぅ」
手にした録音用水晶玉を死守しているのが逆にすごい。ちなみに今の「離して」も録音されたことだろう。溜め息をつきながらルシファーを助け起こす側近は、見ないフリで気遣うエルフ達に軽く会釈した。
「シトリーぃ。こうしてるから、頑張れっ」
きつく握られた拳を解いて、手を繋ぐ。爪が食い込みそうなほど握られていた手は、しっとりしたリリスの手に包まれていた。シトリーは驚いて顔を上げる。
「あのね。リリスはシトリーのぉ、風の魔法ぉ好きだよ」
気が抜けて、すっと気持ちが楽になった。シトリーの表情が和らいでいく。ぎこちないながらも笑顔を見せるシトリーを、リリスは背伸びしながら撫でた。
「こうすると、安心するぅのよ」
自分がされたら嫌なことは他人にしない。その教えを、リリスは自分なりに解釈していた。自分がして欲しいことは、他人もして欲しいに違いない。
微妙に間違っている気もするが、現在時点で問題はなかった。
「私なりに頑張ります」
6歳の少女は深呼吸して、魔力を高めた。手のひらに集めた魔力を形にしていく。やがて現れたのは、高魔力の塊である一枚の羽根だった。
半透明の美しい羽根を揺らすと、団扇のように風を起こした。その風に羽根を乗せて手離すと、空中で竜巻となる。くねる大きな風の龍が去ると、巻き上げられた水が舞い散った。
陽光に煌めく水しぶきが虹を作り出す。
「きれぇ…!」
「魔力制御が上手ね」
口々に褒める友人達に、シトリーはやっと心から微笑んだ。なんとか終わった。そんな彼女達を前に、リリスはルシファーを振り返る。
「次はぁ、リリスね」
ご機嫌のリリスだが、そもそも予定にない。驚いた大人を無視して、リリスは頭上を見上げ、人差し指で空を指差した。
「だぁーん」
頭上を指し示す手を振り下ろすと、晴天から雷が落ちる。咄嗟に結界を張ったルシファーが、全員を包んで守った。
雷はジグザグに空中を切り裂いて光り、中庭の銀龍石をひとつ砕く。音と光を遮断した結界の中、アスタロトが溜め息をついた。
「できた!」
「出来たではありません」
厳しい顔で注意しようとしたアスタロトを、ルシファーが手で遮った。仕方なく口を噤んだ彼の隣をすり抜けて、ルシファーはリリスを抱き上げる。
「見事な雷だね。すごく大きかった。みんなに当たったら危ないのはわかるね?」
きょとんとしたリリスだが、叱られていると気付いて唇を尖らせた。腕の中で暴れて抜け出そうとする。そんな彼女を腕で拘束して、ルシファーは続けた。
「石が砕けただろう? あれがお友達にぶつかってたら、大変だった」
「ぶつけなぃもん!」
反論するリリスだが、結界の表面を走った雷がそのまま落ちていたら、中庭は大惨事だった。周囲の人々が巻き込まれ、痺れや爆音による被害が出たかもしれない。
砕けた銀龍石も散らばり、ひどい有様だった。本人が意図しなくても、高い魔力で引き起こされる魔法は、他者を巻き込むことがある。
力を持つ者ほど、力を揮う場所と場面を慎重に見極めなければならない。
「リリス。ちゃんと聞いて」
「……うん」
目を合わせて言い聞かせると、根が素直なリリスは頷いた。興奮して魔力を込めすぎたのが原因だが、人がいる場所で危険な魔法を使わないよう、覚えさせる必要がある。
「オレがいない場所で、雷は使わない。約束できるか?」
すこし沈黙が落ちる。リリスは周りを見回して、それから砕けた石をじっと見つめた。最後に、離れた場所で身を寄せ合うエルフ達に気づく。
怯えるように肩を寄せ合うエルフの姿に、リリスはやり過ぎたらしいと理解した。普段は手を振ってくれる笑顔のお姉さん達が震えているのは、怖かったからだ。
「パパがいればいいの?」
「そうだ。オレがいない場所ではダメ。オレが一緒ならいい。それだけ強い雷なんだ」
「わかった」
しょんぼりしたリリスの答えに「リリスはいい子だ」と黒髪を撫でるが、復活しない。
「リリス様は、強いのね!」
「追いつけるように頑張らないとね」
互いに励ますお取り巻きが駆け寄り、リリスの手を握る。
「パパ、下ろして!」
抱いている腕をペチペチと叩かれる。仕方なくルシファーが下ろすと、お取り巻きに「ごめんね」と謝るリリスがいた。それから走って行き、エルフ達にも謝った。
「リリス嬢は大人ですね。親離れも早そうです」
アスタロトの一言に、魔王は拗ねて口を尖らせる。すると駆け戻ったリリスが飛びつき、ルシファーの手を握った。
「パパはリリスが、ぃないとダメね」
「ああ」
嬉しそうに答える魔王は、幼い娘に抱きついて頬ずりした。
「パパ、ちょっとぉ……離して」
「え!?」
繋いでいた手を解いて背を向けるリリスに、ショックを受けたルシファーが崩れ落ちる。膝から落ちてそのまま倒れる姿は、勇者にやられたような哀れさがあった。さすがに完全に崩れる前に、アスタロトが支えに入る。
「しっかりして下さい。見捨てられますよ」
「う……リリスぅ」
手にした録音用水晶玉を死守しているのが逆にすごい。ちなみに今の「離して」も録音されたことだろう。溜め息をつきながらルシファーを助け起こす側近は、見ないフリで気遣うエルフ達に軽く会釈した。
「シトリーぃ。こうしてるから、頑張れっ」
きつく握られた拳を解いて、手を繋ぐ。爪が食い込みそうなほど握られていた手は、しっとりしたリリスの手に包まれていた。シトリーは驚いて顔を上げる。
「あのね。リリスはシトリーのぉ、風の魔法ぉ好きだよ」
気が抜けて、すっと気持ちが楽になった。シトリーの表情が和らいでいく。ぎこちないながらも笑顔を見せるシトリーを、リリスは背伸びしながら撫でた。
「こうすると、安心するぅのよ」
自分がされたら嫌なことは他人にしない。その教えを、リリスは自分なりに解釈していた。自分がして欲しいことは、他人もして欲しいに違いない。
微妙に間違っている気もするが、現在時点で問題はなかった。
「私なりに頑張ります」
6歳の少女は深呼吸して、魔力を高めた。手のひらに集めた魔力を形にしていく。やがて現れたのは、高魔力の塊である一枚の羽根だった。
半透明の美しい羽根を揺らすと、団扇のように風を起こした。その風に羽根を乗せて手離すと、空中で竜巻となる。くねる大きな風の龍が去ると、巻き上げられた水が舞い散った。
陽光に煌めく水しぶきが虹を作り出す。
「きれぇ…!」
「魔力制御が上手ね」
口々に褒める友人達に、シトリーはやっと心から微笑んだ。なんとか終わった。そんな彼女達を前に、リリスはルシファーを振り返る。
「次はぁ、リリスね」
ご機嫌のリリスだが、そもそも予定にない。驚いた大人を無視して、リリスは頭上を見上げ、人差し指で空を指差した。
「だぁーん」
頭上を指し示す手を振り下ろすと、晴天から雷が落ちる。咄嗟に結界を張ったルシファーが、全員を包んで守った。
雷はジグザグに空中を切り裂いて光り、中庭の銀龍石をひとつ砕く。音と光を遮断した結界の中、アスタロトが溜め息をついた。
「できた!」
「出来たではありません」
厳しい顔で注意しようとしたアスタロトを、ルシファーが手で遮った。仕方なく口を噤んだ彼の隣をすり抜けて、ルシファーはリリスを抱き上げる。
「見事な雷だね。すごく大きかった。みんなに当たったら危ないのはわかるね?」
きょとんとしたリリスだが、叱られていると気付いて唇を尖らせた。腕の中で暴れて抜け出そうとする。そんな彼女を腕で拘束して、ルシファーは続けた。
「石が砕けただろう? あれがお友達にぶつかってたら、大変だった」
「ぶつけなぃもん!」
反論するリリスだが、結界の表面を走った雷がそのまま落ちていたら、中庭は大惨事だった。周囲の人々が巻き込まれ、痺れや爆音による被害が出たかもしれない。
砕けた銀龍石も散らばり、ひどい有様だった。本人が意図しなくても、高い魔力で引き起こされる魔法は、他者を巻き込むことがある。
力を持つ者ほど、力を揮う場所と場面を慎重に見極めなければならない。
「リリス。ちゃんと聞いて」
「……うん」
目を合わせて言い聞かせると、根が素直なリリスは頷いた。興奮して魔力を込めすぎたのが原因だが、人がいる場所で危険な魔法を使わないよう、覚えさせる必要がある。
「オレがいない場所で、雷は使わない。約束できるか?」
すこし沈黙が落ちる。リリスは周りを見回して、それから砕けた石をじっと見つめた。最後に、離れた場所で身を寄せ合うエルフ達に気づく。
怯えるように肩を寄せ合うエルフの姿に、リリスはやり過ぎたらしいと理解した。普段は手を振ってくれる笑顔のお姉さん達が震えているのは、怖かったからだ。
「パパがいればいいの?」
「そうだ。オレがいない場所ではダメ。オレが一緒ならいい。それだけ強い雷なんだ」
「わかった」
しょんぼりしたリリスの答えに「リリスはいい子だ」と黒髪を撫でるが、復活しない。
「リリス様は、強いのね!」
「追いつけるように頑張らないとね」
互いに励ますお取り巻きが駆け寄り、リリスの手を握る。
「パパ、下ろして!」
抱いている腕をペチペチと叩かれる。仕方なくルシファーが下ろすと、お取り巻きに「ごめんね」と謝るリリスがいた。それから走って行き、エルフ達にも謝った。
「リリス嬢は大人ですね。親離れも早そうです」
アスタロトの一言に、魔王は拗ねて口を尖らせる。すると駆け戻ったリリスが飛びつき、ルシファーの手を握った。
「パパはリリスが、ぃないとダメね」
「ああ」
嬉しそうに答える魔王は、幼い娘に抱きついて頬ずりした。
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