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34章 魔王に対する侮辱
455. 盗み聞きは勇者のスキルか
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「召喚を開発したミヒャール国ですが、すでにベルゼビュートと魔獣の襲撃により、ほぼ壊滅状態でした。王族と貴族、魔術師を特定して回収しております」
ふわりと手の上に水晶玉を呼び出し、牢代わりの洞窟に放り込んだ姿が投影される。それを空中に維持したまま手を離し、ベールの青い瞳が報告書へ向けられた。
洞窟はワイバーンの繁殖用巣穴なので、高さがあり逃げ場がない。人族がそこに放り込まれれば、牢屋と同じだろう。魔術師が魔法陣を駆使したとしても、彼らの魔力量では壁が多少削れる程度だった。かつて同じ巣穴にリリスが攫われ、サーペントに悲鳴を上げた記憶がルシファーの脳裏を過る。
「残った首都と周辺の都は破壊します。逃げる住民に関しては現場の裁量に任せました」
都から逃げ延びた者は放置、小さな村は襲わない。しかし狩りの対象となる以上、都に住む大半の住民は魔獣の餌になったり、魔族による攻撃で亡くなるだろう。
「召喚を実行したガブリエラ国は、完全な殲滅対象としました。現在アスタロト大公が張った結界により、首都を封鎖しています。首都以外の都はミヒャール国と同じ運命をたどるでしょう」
封鎖した首都からの脱出は物理的にも魔法的にも不可能だ。影を自由に行き来する吸血種族の長が封じたならば、それを破れる人族の魔術師はいない。残酷なようだが、人族に対してもっとも効果を発揮するのは、『見せしめ』であると過去の経験上理解していた。
ガブリエラ国の王侯貴族は回収済み、魔術師はドラゴンに殺されルキフェルに拷問されて残っていない。つまり今後同じような召喚を行う魔法陣や方法は封じられた。新たな犠牲者を生み出さないための手は尽くしたと言える。
回収された王侯貴族や魔術師の運命は語る必要もなかった。簡単に死ぬことも出来ぬまま、魔族の怒りや憎しみを受け止める袋となるだろう。
「よかろう。余が裁可を下すまでもない」
大公権限での命令発動を容認したルシファーの宣言に、魔獣やドラゴンが沸き立つ。彼らは見学も兼ねていたが、この決定を聞くために集まっていたらしい。微笑んで眷属を見回したルシファーの目が細められた。
「勇者アベルはそこで何をしておる」
さきほど侍女に連れられて戻ったはずの勇者に気づいたのは、大公と魔王だった。ルシファーが指先で魔法陣を操ると、アベルが押し出されて階段下に転がり出る。見つかって焦る青年に、リリスが飴を差し出した。
「これ、食べる?」
「え? あ、ありがとうございます……?」
腰が抜けたらしくへたりこんだ状態で、膝から飛び降りたリリスが階段を駆け下りる。今度はスカートも直してあるため、魔法陣で彼女を守りながらもリリスの好きにさせた。
アベルの手に丸い大きな飴を乗せた幼女は、階段を「ひぃ、ふぅ、みぃ」と古風な数え方で上ってくる。階段の1段が高いため、ひとつのぼるごとに両足を揃えてまた上るので、多少時間がかかった。可愛いのだが、数え方が年寄り臭いのは教えたベールの影響だ。
「ただいま、パパ」
最後の段を上って膝にたどり着き、よじよじと登ろうとする。そんなリリスを抱き上げ、膝の上に向かい合わせに座らせた。ぎゅっと抱き着いたリリスの鼓動が少し早い。じたばたと尻尾のように落ち着きがない足が揺れるので、ローブの袖で彼女の足を覆い隠した。
他者には子供の足に過ぎないが、魔王ルシファーにとって愛らしい嫁のおみ足である。膝より上を披露する気は皆目ない。心が狭いと言われようが、嫁の白い足はルシファーだけが知っていればいい聖域だった。きっちり隠した後で何もなかったように振る舞う。
「して、何用だ?」
仕事バージョンの口調は堅苦しいが、謁見の大広間での会話はこれに終始する。ルシファーの問いかけに、アベルが座り込んだまま頭を下げた。
ふわりと手の上に水晶玉を呼び出し、牢代わりの洞窟に放り込んだ姿が投影される。それを空中に維持したまま手を離し、ベールの青い瞳が報告書へ向けられた。
洞窟はワイバーンの繁殖用巣穴なので、高さがあり逃げ場がない。人族がそこに放り込まれれば、牢屋と同じだろう。魔術師が魔法陣を駆使したとしても、彼らの魔力量では壁が多少削れる程度だった。かつて同じ巣穴にリリスが攫われ、サーペントに悲鳴を上げた記憶がルシファーの脳裏を過る。
「残った首都と周辺の都は破壊します。逃げる住民に関しては現場の裁量に任せました」
都から逃げ延びた者は放置、小さな村は襲わない。しかし狩りの対象となる以上、都に住む大半の住民は魔獣の餌になったり、魔族による攻撃で亡くなるだろう。
「召喚を実行したガブリエラ国は、完全な殲滅対象としました。現在アスタロト大公が張った結界により、首都を封鎖しています。首都以外の都はミヒャール国と同じ運命をたどるでしょう」
封鎖した首都からの脱出は物理的にも魔法的にも不可能だ。影を自由に行き来する吸血種族の長が封じたならば、それを破れる人族の魔術師はいない。残酷なようだが、人族に対してもっとも効果を発揮するのは、『見せしめ』であると過去の経験上理解していた。
ガブリエラ国の王侯貴族は回収済み、魔術師はドラゴンに殺されルキフェルに拷問されて残っていない。つまり今後同じような召喚を行う魔法陣や方法は封じられた。新たな犠牲者を生み出さないための手は尽くしたと言える。
回収された王侯貴族や魔術師の運命は語る必要もなかった。簡単に死ぬことも出来ぬまま、魔族の怒りや憎しみを受け止める袋となるだろう。
「よかろう。余が裁可を下すまでもない」
大公権限での命令発動を容認したルシファーの宣言に、魔獣やドラゴンが沸き立つ。彼らは見学も兼ねていたが、この決定を聞くために集まっていたらしい。微笑んで眷属を見回したルシファーの目が細められた。
「勇者アベルはそこで何をしておる」
さきほど侍女に連れられて戻ったはずの勇者に気づいたのは、大公と魔王だった。ルシファーが指先で魔法陣を操ると、アベルが押し出されて階段下に転がり出る。見つかって焦る青年に、リリスが飴を差し出した。
「これ、食べる?」
「え? あ、ありがとうございます……?」
腰が抜けたらしくへたりこんだ状態で、膝から飛び降りたリリスが階段を駆け下りる。今度はスカートも直してあるため、魔法陣で彼女を守りながらもリリスの好きにさせた。
アベルの手に丸い大きな飴を乗せた幼女は、階段を「ひぃ、ふぅ、みぃ」と古風な数え方で上ってくる。階段の1段が高いため、ひとつのぼるごとに両足を揃えてまた上るので、多少時間がかかった。可愛いのだが、数え方が年寄り臭いのは教えたベールの影響だ。
「ただいま、パパ」
最後の段を上って膝にたどり着き、よじよじと登ろうとする。そんなリリスを抱き上げ、膝の上に向かい合わせに座らせた。ぎゅっと抱き着いたリリスの鼓動が少し早い。じたばたと尻尾のように落ち着きがない足が揺れるので、ローブの袖で彼女の足を覆い隠した。
他者には子供の足に過ぎないが、魔王ルシファーにとって愛らしい嫁のおみ足である。膝より上を披露する気は皆目ない。心が狭いと言われようが、嫁の白い足はルシファーだけが知っていればいい聖域だった。きっちり隠した後で何もなかったように振る舞う。
「して、何用だ?」
仕事バージョンの口調は堅苦しいが、謁見の大広間での会話はこれに終始する。ルシファーの問いかけに、アベルが座り込んだまま頭を下げた。
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