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38章 弊害が呼ぶ侵略者
512. 緊急事態で忘れ物
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大騒ぎになった少女達を宥めたルシファーは、元のサイズに戻ったヤンの上に跨った。後ろに少女4人も乗っている。もふもふした洗浄済みの毛皮は、彼女らの機嫌をとるのに最適だった。
口々に褒められてご満悦のヤンが森の中を器用にすり抜けていく。巨体であっても木々を上手に避けて進む彼の背は乗り心地が良く、すこし先の彼ら魔狼族が治める領域に無事到着した。
先に転移で移動したアスタロトが呼んだのか、ヤンの息子である現当主セーレが尻尾を振って伏せている。その隣に番である白い雪狼がおり、彼女の周囲に子狼達がじゃれていた。
「セーレの赤ちゃん、生まれた!」
以前、雪狼の妊娠した腹部を撫でさせてもらったリリスが、嬉しそうに声をあげる。じたばた手足を動かす仕草に、心得たヤンが姿勢を低くして滑り台を作った。ルシファーがリリスから手を離すと、鼻先を滑って下にたどり着く。
飛び降りたルシファーが慌ててリリスの手を繋ぎ、子狼に飛びつかないよう制御した。ピンクのおしゃれな靴でよたよた歩き、ドレスが汚れるのも気にせず地面にぺたんと座る。
「おいで~」
両手を広げて呼ばれれば、まだ幼い子狼達が我慢できるはずはない。鼻を鳴らして飛びつき、リリスの顔や手を舐め始めた。祖父であるヤンの匂いがするため、警戒心はない。はしゃぐリリスが3匹の子狼を撫でながら、押されて後ろに転がった。
「かぁいい! きゃああ」
頭を打つ前に支えたルシファーが、くすくす笑う。転がった拍子に、黒髪に絡められた鎖飾りがしゃらんと音を立てた。
「陛下、その髪飾り…… ブリーシンガルの鎖飾りでは?」
「……そ、そうだったか」
すっかり忘れていたが、リリスが魔王妃として即位する際に使うと言われた気がする。大急ぎで隠そうとするが、固定魔法陣を消したところで止められた。
「証拠隠滅には遅過ぎますよ、ルシファー様」
呼び方が私的な方に変わった時点で、諦めて肩を落とす。だがルシファーもいつも負けているわけではない。自分の収納空間にしまった死蔵品をどう使おうと自由ではないか!
「余の持ち物だ。誰にやろうが余の自由だ」
「ええ、確かにそうですね。ルシファー様」
公的な口調で逃げ切ろうとする魔王を、側近はあくまでも私的な態度で追い詰めにかかる。
剣呑に見える状況だが、慣れている少女達は滑り台を利用してヤンから下りていた。お礼に鼻先にキスをもらい、撫でられて、前当主の威厳はまったくない。少女達は子狼と戯れるリリスの近くに、彼女と同じように直接地面へ座った。
「この銀鎖の特性を覚えていらっしゃいますか?」
「婚礼の祝福だったな」
「そちらではありません。魔法の威力を2倍に高める効果があります。今のリリス嬢には危険でしょう」
雷の威力が2倍になったら、過剰戦力だ。幼子で考える前に魔法を使うため、やめさせるのが間に合わないこともあった。魔法陣を使ってくれたら、途中で奪って書き換えも出来るのだが……そう考えると危険な気がしてくる。
「リリス、これ外そうか」
「やだぁ」
「代わりに鈴をあげよう。こっちも音がするぞ」
じっと銀の鈴を見つめ、幼女は抱っこした子狼を隣のルーサルカに渡す。もう1匹を抱き寄せたシトリーを見て、それから最後の1匹をルーシアに抱っこさせる。レライエは膝の上にアムドゥスキアスを乗せていた。立ち上がって服についた土を払う。
「金と銀がいい」
「ピンクもあげよう」
ひとつでは不満だと強請る幼女へ、次々と鈴を取り出して差し出せば、固定魔法陣が消えた銀鎖を無造作に引っ張った。しかし髪も引っ張られ、思い通りにいかない。
「やぁ!!」
「オレが外すからじっとして……ほら、痛くないぞ」
黒髪に絡めたため、無理に引っ張ると髪か鎖が千切れてしまう。外れないと地団駄踏んで抗議するリリスを宥め、抱っこした膝の上で外してやる。その間、魔王であるルシファーが地面に座ってしまったため、フェンリルを含めた魔狼達は必死だった。
「ん?」
ようやく鎖飾りを外して収納したルシファーが顔を上げると、魔狼達がぺったんこに伏せていた。
「あ、悪い」
彼ら魔獣達は上位者に対し、視線より低い位置まで頭を下げることで敬意を示す。ルシファーが地面に座ったことで視線の位置が下がり、焦ったのだろう。可哀想なくらい平らだった。
「ところで……」
話を振ろうとしたアスタロトが動きを止める。ほぼ同時にルシファーも眉をひそめた。顔を見合わせた直後、リリスを抱き上げたルシファーが足元に魔法陣を描く。きょとんとした顔の少女達も、慌てて立ち上がった。
「緊急事態だ。帰るぞ」
「我が君?!」
「ヤンは後で迎えにくるゆえ、残れ」
ルーサルカ達は抱いていた子狼達をそっと離した。母狼が呼ぶと、大急ぎで魔法陣の外へ避難する。子狼が戻ったのを確認し、ルシファーは少女とアスタロトを連れて転移した。
来てすぐに帰ってしまった魔王一行を見送り、魔狼達は緊張を解く。
「私、忘れられたみたいです」
小狼を下ろした際、一緒にレライエに離されてしまった翡翠竜は困惑した顔でヤンに小首をかしげてみせた。
口々に褒められてご満悦のヤンが森の中を器用にすり抜けていく。巨体であっても木々を上手に避けて進む彼の背は乗り心地が良く、すこし先の彼ら魔狼族が治める領域に無事到着した。
先に転移で移動したアスタロトが呼んだのか、ヤンの息子である現当主セーレが尻尾を振って伏せている。その隣に番である白い雪狼がおり、彼女の周囲に子狼達がじゃれていた。
「セーレの赤ちゃん、生まれた!」
以前、雪狼の妊娠した腹部を撫でさせてもらったリリスが、嬉しそうに声をあげる。じたばた手足を動かす仕草に、心得たヤンが姿勢を低くして滑り台を作った。ルシファーがリリスから手を離すと、鼻先を滑って下にたどり着く。
飛び降りたルシファーが慌ててリリスの手を繋ぎ、子狼に飛びつかないよう制御した。ピンクのおしゃれな靴でよたよた歩き、ドレスが汚れるのも気にせず地面にぺたんと座る。
「おいで~」
両手を広げて呼ばれれば、まだ幼い子狼達が我慢できるはずはない。鼻を鳴らして飛びつき、リリスの顔や手を舐め始めた。祖父であるヤンの匂いがするため、警戒心はない。はしゃぐリリスが3匹の子狼を撫でながら、押されて後ろに転がった。
「かぁいい! きゃああ」
頭を打つ前に支えたルシファーが、くすくす笑う。転がった拍子に、黒髪に絡められた鎖飾りがしゃらんと音を立てた。
「陛下、その髪飾り…… ブリーシンガルの鎖飾りでは?」
「……そ、そうだったか」
すっかり忘れていたが、リリスが魔王妃として即位する際に使うと言われた気がする。大急ぎで隠そうとするが、固定魔法陣を消したところで止められた。
「証拠隠滅には遅過ぎますよ、ルシファー様」
呼び方が私的な方に変わった時点で、諦めて肩を落とす。だがルシファーもいつも負けているわけではない。自分の収納空間にしまった死蔵品をどう使おうと自由ではないか!
「余の持ち物だ。誰にやろうが余の自由だ」
「ええ、確かにそうですね。ルシファー様」
公的な口調で逃げ切ろうとする魔王を、側近はあくまでも私的な態度で追い詰めにかかる。
剣呑に見える状況だが、慣れている少女達は滑り台を利用してヤンから下りていた。お礼に鼻先にキスをもらい、撫でられて、前当主の威厳はまったくない。少女達は子狼と戯れるリリスの近くに、彼女と同じように直接地面へ座った。
「この銀鎖の特性を覚えていらっしゃいますか?」
「婚礼の祝福だったな」
「そちらではありません。魔法の威力を2倍に高める効果があります。今のリリス嬢には危険でしょう」
雷の威力が2倍になったら、過剰戦力だ。幼子で考える前に魔法を使うため、やめさせるのが間に合わないこともあった。魔法陣を使ってくれたら、途中で奪って書き換えも出来るのだが……そう考えると危険な気がしてくる。
「リリス、これ外そうか」
「やだぁ」
「代わりに鈴をあげよう。こっちも音がするぞ」
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「金と銀がいい」
「ピンクもあげよう」
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「やぁ!!」
「オレが外すからじっとして……ほら、痛くないぞ」
黒髪に絡めたため、無理に引っ張ると髪か鎖が千切れてしまう。外れないと地団駄踏んで抗議するリリスを宥め、抱っこした膝の上で外してやる。その間、魔王であるルシファーが地面に座ってしまったため、フェンリルを含めた魔狼達は必死だった。
「ん?」
ようやく鎖飾りを外して収納したルシファーが顔を上げると、魔狼達がぺったんこに伏せていた。
「あ、悪い」
彼ら魔獣達は上位者に対し、視線より低い位置まで頭を下げることで敬意を示す。ルシファーが地面に座ったことで視線の位置が下がり、焦ったのだろう。可哀想なくらい平らだった。
「ところで……」
話を振ろうとしたアスタロトが動きを止める。ほぼ同時にルシファーも眉をひそめた。顔を見合わせた直後、リリスを抱き上げたルシファーが足元に魔法陣を描く。きょとんとした顔の少女達も、慌てて立ち上がった。
「緊急事態だ。帰るぞ」
「我が君?!」
「ヤンは後で迎えにくるゆえ、残れ」
ルーサルカ達は抱いていた子狼達をそっと離した。母狼が呼ぶと、大急ぎで魔法陣の外へ避難する。子狼が戻ったのを確認し、ルシファーは少女とアスタロトを連れて転移した。
来てすぐに帰ってしまった魔王一行を見送り、魔狼達は緊張を解く。
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