【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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38章 弊害が呼ぶ侵略者

519. 正体不明の飛行物体で処理します

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 亀は手足をカットし、甲羅を割って内臓なども取り出したところで、ルキフェルが上から雨を降らせた。血を洗い流すための作業だが、その後手早く鍋に移される。ベールが用意した行事用の大鍋に水を満たし、鳳凰が火をつけた薪でがんがんに沸かし続けた。

 煮こぼすことで、アクも減って美味しいスープが出来上がる。周囲は美味しそうな匂いが漂い、誰もが『九分九厘すっぽんだと思われる亀の鍋』に期待が高まっていた。

「……アスタロト」

「なんですか? 暇なら手伝ってください」

 亀の内臓をばらして焼く作業に借り出されたアスタロトが、ローブの袖をで頑張っている。きちんと熱気ねっき湯気ゆげを結界でシャットアウトする彼は、涼し気な顔でトング片手に焼肉を続けていた。

「ああ、うん。手伝うけど……この亀の正体を探らなくていいのか? 歴史にきちんと残さないとマズイだろう」

 襲撃者の出所が『突然空から落ちてきた』だけで構わないのならいいが。そんなルシファーの疑問に、アスタロトはトングを手渡す。反射的に受け取ったルシファーが、促されるままモツ焼きを始めた。

「いえ、もう正体不明の飛行物体で処理します」

 アスタロトはばっさり懸念を切り捨てた。ベールやルキフェルが何も言わないところを見ると、これは決定事項らしい。亀の爪を酒に浸けるドワーフと一緒に、ベルゼビュートはもう酒盛りを始めていた。

 珍しく下りているリリスは、少女達に囲まれて飴を見せびらかしていた。その後分けてあげることにしたらしく、全部で7本あった薔薇の飴を1本ずつ少女達に渡し始める。すべて同じピンクの薔薇だった。皆で「綺麗だ」と言いながら、腰掛けたベンチで飴を堪能している。

「亀の正体ならば、あの鱗の人々が知ってそうでしたよ。落ちてきた途端に指さして「あー」だか「うー」だか名称らしき唸り声をあげましたから」

「退治して構わなかったのか?」

 彼らにとって迎えだったり大切な存在だったりしたら、目の前で解体作業されるのはトラウマになるだろう。気遣うルシファーだが、鳳凰アラエルと鸞鳥ピヨに纏わりつく彼らは元気そうで、トラウマの欠片も感じられない。ちらっと視線を向けたアスタロトが「平気そうです」と切り捨てた。

 大公と魔王がトング片手にモツを焼き、肉をひっくり返す。平和そのものの光景に、城内は穏やかな日常を取り戻しつつあった。亀が落ちてきた時の地震で建物の損害はあったものの、人的被害がなかったことも影響している。

「ところで、鱗の連中と話が出来る種族は見つからないのか」

「まだですね。この騒ぎで城下町から獣人系が多く集まってきたので、試してもらいましょう」

 亜種や変異種も多い城下町なら、特殊な言語を解する者もいるはずだ。その程度の感覚で話をまとめ、焼き終えた肉や内臓を皿の上に乗せていく。ルシファーが長い袖に眉をひそめ、隣のアスタロトのたすきに気づいた。

「アスタロト、たすきの予備はあるか?」

「申し訳ありません。ないのです」

「しかたない。魔法陣で対処しよう」

 リリスの髪留めに使った固定魔法陣を使って、器用に袖を留める。気を付けないと、焼肉の上に触れてしまうのだ。そこへリリスが駆けてきた。後ろには少女達が付き従っている。

「パパ、リリスもじゅーってする!」

「うーん、まあ何事も経験だ」

 迷ったものの、自らも魔王なのに下水掃除までこなした経験があるので、ここは興味をもったら経験させる方針で通す。ちなみに下水掃除の切っ掛けが、魔王城の流しに小型の水溶性生物を流してしまったことによる罰と、彼らの回収作業だったのは余談である。

 抱き上げて気づいたが、リリスのピンクのひらひらドレスは可愛い。非常に可愛いので二度言うが、可愛い。しかし焼肉には向かない恰好だった。

 一度おろして、視線を合わせるために膝をつく。

「リリス、このドレスだと焼肉は出来ない。トングで「じゅー」とやりたいなら着替える。着替えないなら我慢する。どっちがいい?」

「着替える」

「アスタロト、ちょっと場を外す」

「わかりました」

 舌打ちした気がした。振り返っても、本心が読めない笑みの側近はもしかして……手伝う猫の手を求めて、魔王を利用したのでは? そんな疑惑を抱えながらも、ルシファーはリリスと手を繋いで着替えるため部屋に向かう。

「お義父様、いい加減に揶揄うのはお止めください。陛下にはバレておりますわ」

 ルーサルカが苦言を呈するが、吸血鬼王はさらりとかわした。

「何のお話か、皆目見当もつきません」

 親子の殺伐としたやり取りをよそに、焼き終えた料理は美少女達により配布されていく。まだ煮える前の鍋に並んでいた人々も焼肉とモツ焼きに移動し、笑顔で手渡してくれる少女達のおかげで場は大いに賑わった。
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