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42章 魔王妃殿下のお勉強
577. 言葉はなくても意思疎通可能でした
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「がんばる!!」
なぜか全力でピヨが炎を吐いた。後ろからアラエルが援護したので、かなり強い炎が獣を襲う。表面の蛇が数匹焼けたところで、獣は飛び起きた。2つの頭が唸る。ピヨが大きく息を吸い込むと胸元の毛がぶわりと膨らんだ。吸い込んだ息をすべて炎に変えて、犬の背中に吹き付ける。
ちりちりと焦げる蛇は、のたうって苦しみながら動かなくなった。タンパク質の燃える臭いが広がり、顔をしかめて臭いを遮断する。アスタロトは息を止めたらしく、魔力展開していないが平然としていた。少女達はシトリーの結界の内側に風を起こして臭いを散らし、召喚者達は手早く鼻を摘まんだ。
「ルシファー、あの子はこの世界の子じゃないわ」
じっと見ていたリリスがぽつりと呟いた。感情が欠けた声の後、眉尻を下げて困ったような顔をする。それから編んでいたルシファーの髪を放り出して、おろしてくれるよう願った。
「危険だぞ」
「ルシファーが守ってくれるのに?」
そう言われると弱い。大量に展開した結界がリリスを覆うので、物理や魔法、臭いや熱を含めた外的な刺激のすべてから彼女は守られていた。2匹の犬がリリスに気づいて振り向く。らんらんと輝く目は鮮やかな青だった。
「おいで、あなたのいた世界に戻してあげるから」
リリスは微笑んで手を伸ばす。その手に噛みつこうとした右の頭を、左の犬が遮った。左右で思考が違うらしい。何か喧嘩に似た唸り声でのやり取りがあり、背中の蛇が一斉に威嚇音を上げた。
「リリスっ!」
「まだよ、ルシファー。少しだけ話をさせてね」
腕の中に引き戻そうとしたルシファーの手を拒み、ゆっくり横に首を振った。そのまま1歩前に出る。近づいたリリスに怯えたのか、戦いの間合いを取ろうとしたのか。獣は後ろに下がった。
「戦って森や仲間を傷つけるなら、あなたを殺さなくてはならないわ。でも今なら返してあげられるの。大人しく従ってちょうだい」
魔王の紋章が入った上着の裾をはためかせ、魔王妃となる少女は淡々と言い聞かせる。大急ぎで間に入って遮ろうとしたヤンが、リリスの一瞥で伏せた。地に頭を擦りつけ、恭順の意を示す。満足そうに頷いたリリスは、再び獣に目を向けた。
「鳳凰とフェンリル、吸血鬼王……あなたが勝てる相手じゃないのはわかるでしょう?」
じりじりと後ずさった獣が、ついに膝をついて地に頭をつけた。両方の頭が下がったことで、尻尾や背中の蛇達も頭を下げる。動かなくなった獣に、リリスはにっこり微笑んだ。
「いい子ね」
「オレが入ってなかった」
魔王なのに、オレだって獣に勝てるのに……とショックを受けるルシファーをよそに、大人しくなった獣に驚いたヤンが声を上げた。
「姫、これは……」
「ヤンもいい子」
くすくす笑いながらヤンの鼻の頭を撫でる。そのまま足を進めて獣に触れようとしたところで、ルシファーが隣で遮った。
「噛まれたらどうする」
「ルシファーの結界があるのに、私がケガをするわけないわ」
信頼に満ちた言葉に反論できず、ルシファーは溜め息を吐いた。この屋敷から少し山を下れば、大きな温泉街がある。あのビームを結界で防げるか不明の今、もし街へビームが直撃していたら被害が出た可能性がある。そうでなくても魔王の私邸から攻撃されるなんて、彼らは想定もしていないだろう。
民に被害を及ぼすことなく事件を片づけたのだから、魔王妃であるリリスの手柄は褒めるべきだ。分かっているが、褒めたらまた無茶をするのではないかと不安が募る。しかし信賞必罰は魔族の習い、リリスだけ外すわけにいかない。
「ああ、そうだな。よく従えたぞ、リリス」
街を守った功績はリリスの物だと公言した。伏せたまま様子を窺う犬達がくーんと鼻を鳴らす。どうやら言葉は通じなくても、犬としての意思表示は可能らしい。
「ヘルハウンドは仲間だろうか」
ヤンに保護させた犬も双頭だったし、ここまで大きくないが言葉は話さなかった。もしかしたら魔狼でも意思疎通できる可能性がある。イヌ科ならと大雑把に考えたルシファーが、中庭で飼われているヘルハウンドを特定して転移させた。
突然景色が変わったので怯えるヘルハウンドだが、ヤンを見つけると声をあげて大きく尻尾を振った。ヤンがヘルハウンドを伏せさせると、巨大な獣は同じようにぺたんと地面に伏せて真似をする。それからしばらく眺めた後、自分の身体を振り返ってから小さくなった。
大きさは牛サイズのヘルハウンドと同じくらいだ。お陰で壊れた屋敷の状況が見えるようになり、アスタロトは修理費を思い頭を抱えた。
なぜか全力でピヨが炎を吐いた。後ろからアラエルが援護したので、かなり強い炎が獣を襲う。表面の蛇が数匹焼けたところで、獣は飛び起きた。2つの頭が唸る。ピヨが大きく息を吸い込むと胸元の毛がぶわりと膨らんだ。吸い込んだ息をすべて炎に変えて、犬の背中に吹き付ける。
ちりちりと焦げる蛇は、のたうって苦しみながら動かなくなった。タンパク質の燃える臭いが広がり、顔をしかめて臭いを遮断する。アスタロトは息を止めたらしく、魔力展開していないが平然としていた。少女達はシトリーの結界の内側に風を起こして臭いを散らし、召喚者達は手早く鼻を摘まんだ。
「ルシファー、あの子はこの世界の子じゃないわ」
じっと見ていたリリスがぽつりと呟いた。感情が欠けた声の後、眉尻を下げて困ったような顔をする。それから編んでいたルシファーの髪を放り出して、おろしてくれるよう願った。
「危険だぞ」
「ルシファーが守ってくれるのに?」
そう言われると弱い。大量に展開した結界がリリスを覆うので、物理や魔法、臭いや熱を含めた外的な刺激のすべてから彼女は守られていた。2匹の犬がリリスに気づいて振り向く。らんらんと輝く目は鮮やかな青だった。
「おいで、あなたのいた世界に戻してあげるから」
リリスは微笑んで手を伸ばす。その手に噛みつこうとした右の頭を、左の犬が遮った。左右で思考が違うらしい。何か喧嘩に似た唸り声でのやり取りがあり、背中の蛇が一斉に威嚇音を上げた。
「リリスっ!」
「まだよ、ルシファー。少しだけ話をさせてね」
腕の中に引き戻そうとしたルシファーの手を拒み、ゆっくり横に首を振った。そのまま1歩前に出る。近づいたリリスに怯えたのか、戦いの間合いを取ろうとしたのか。獣は後ろに下がった。
「戦って森や仲間を傷つけるなら、あなたを殺さなくてはならないわ。でも今なら返してあげられるの。大人しく従ってちょうだい」
魔王の紋章が入った上着の裾をはためかせ、魔王妃となる少女は淡々と言い聞かせる。大急ぎで間に入って遮ろうとしたヤンが、リリスの一瞥で伏せた。地に頭を擦りつけ、恭順の意を示す。満足そうに頷いたリリスは、再び獣に目を向けた。
「鳳凰とフェンリル、吸血鬼王……あなたが勝てる相手じゃないのはわかるでしょう?」
じりじりと後ずさった獣が、ついに膝をついて地に頭をつけた。両方の頭が下がったことで、尻尾や背中の蛇達も頭を下げる。動かなくなった獣に、リリスはにっこり微笑んだ。
「いい子ね」
「オレが入ってなかった」
魔王なのに、オレだって獣に勝てるのに……とショックを受けるルシファーをよそに、大人しくなった獣に驚いたヤンが声を上げた。
「姫、これは……」
「ヤンもいい子」
くすくす笑いながらヤンの鼻の頭を撫でる。そのまま足を進めて獣に触れようとしたところで、ルシファーが隣で遮った。
「噛まれたらどうする」
「ルシファーの結界があるのに、私がケガをするわけないわ」
信頼に満ちた言葉に反論できず、ルシファーは溜め息を吐いた。この屋敷から少し山を下れば、大きな温泉街がある。あのビームを結界で防げるか不明の今、もし街へビームが直撃していたら被害が出た可能性がある。そうでなくても魔王の私邸から攻撃されるなんて、彼らは想定もしていないだろう。
民に被害を及ぼすことなく事件を片づけたのだから、魔王妃であるリリスの手柄は褒めるべきだ。分かっているが、褒めたらまた無茶をするのではないかと不安が募る。しかし信賞必罰は魔族の習い、リリスだけ外すわけにいかない。
「ああ、そうだな。よく従えたぞ、リリス」
街を守った功績はリリスの物だと公言した。伏せたまま様子を窺う犬達がくーんと鼻を鳴らす。どうやら言葉は通じなくても、犬としての意思表示は可能らしい。
「ヘルハウンドは仲間だろうか」
ヤンに保護させた犬も双頭だったし、ここまで大きくないが言葉は話さなかった。もしかしたら魔狼でも意思疎通できる可能性がある。イヌ科ならと大雑把に考えたルシファーが、中庭で飼われているヘルハウンドを特定して転移させた。
突然景色が変わったので怯えるヘルハウンドだが、ヤンを見つけると声をあげて大きく尻尾を振った。ヤンがヘルハウンドを伏せさせると、巨大な獣は同じようにぺたんと地面に伏せて真似をする。それからしばらく眺めた後、自分の身体を振り返ってから小さくなった。
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