591 / 1,397
43章 魔の森は秘密だらけ
586. 魔王様の拘束プレイ
しおりを挟む
謁見の間で、リリスは拘束されていた。立ち上がれないよう縛るのは、優しいルシファーの腕だ。そのため振り払うことが出来ない。膝の上に横抱きされ、彼の腕に閉じ込められた形だった。
本人の希望で淡いピンクの可愛いドレスを着ている。黒髪に絡めたリボンも同色で、緩く編んだ髪は肩から胸の方へ流していた。ざっくりとした三つ編みに似た髪型は、所々に白い生花が散らされている。愛らしいお姫様は、魔王の膝の上で周囲を見回す。
玉座を囲むようにした大公4人も、逃がす気はない様子だ。上目遣いにルシファーと視線を合わせれば、蕩けるような笑みが返された。逃げる隙はない。
「……ルシファー」
「どうした? リリス」
声は優しいし、眼差しも柔らかい。表情も笑顔なのに問い詰めるなんて器用なことを……そう思いながら、リリスは諦めて身体の力を抜いた。こんなふうに聞かなくても、お茶会でも開いてくれたら話すのに。
「どうして魔物の大量発生を知っていたのか、教えてください」
「私が望んだからよ」
それ以外の答えはない。言い切って顔を上げれば、質問したベールの方が困惑していた。意味が理解できないのかしら? リリスが小首をかしげる。
「だって、魔の森は魔族の母だもの」
結論を知るリリスにしてみたら、周囲がこんな簡単な図式に気づけない理由がわからない。ずっと行動でも言葉でも示してきたのだから。わからない側からしたら、何をどう質問したらいいかもわからなかった。
「ベール、後ろから小説を読むような質問をしても意味がありません」
結末からめくっていっても、時系列は正確に把握できない。そう言い切ったアスタロトが膝をついて、リリスと視線を合わせた。じっと見つめ合う赤い瞳同士は、やがてリリスが瞬きすることで逸らされる。
「ずっと不思議だったのです。リリス姫、あなたの種族は不明のまま――古い記憶や文献を調べても、頭に輪が浮かび背に白い翼を生やした種族は確認されなかった」
さすがのルシファーも口を挟まなかった。リリスについては、不明な点が多すぎるのだ。それが悪いとは思わないが、今回の魔物の大量発生を予言したのは気にかかる。
人族と魔族の子供はさほど珍しくない。追放されたり逃げ出した魔族が、弱者ばかりの人族の街に逃げ込むことは過去もあった。
当初リリスが人族と魔族の子だと判断された理由が、彼女のもつ魔力だ。強く大きな魔力をもつのに、ゆらゆらと不安定だった。それは人族の血を引く子供によく現れる症状なのだ。白い肌と赤い瞳は魔族の親から、黒髪は人族の親から遺伝したと考えられた。
しかし魔王城の城門前へ、誰にも気づかれずに人族の親が子を捨てることは可能か。人族と同じ成長を見せた子供が、死の直後に若返った現象も説明がつかない。ましてや魔の森や魔王の魔力を代償とした若返りだ。蘇った当初は誰も触れなかった疑問だが、異常な状況だった。
魔力を代償として生き返れるなら、誰もがその手段に縋り付くだろう。若返りも同じだ。他の種族を絶滅させても若返り、生き残りたいと願う輩は魔族にも存在する。しかし実行されなかったのは、意味がないからだった。他者の魔力を吸収して魔力量が増えることはあっても、生き返ったり若返る効果はなかった。
その後の突然の成長や、魔の森が満ちたという言葉の意味も、長き月日を生きた大公や魔王の叡智を総動員しても理解できない。
「リリスが誰であっても、何であっても構わない。オレの愛情は変わらないけど……知らないと助けられないだろう?」
だから教えて欲しい。伴侶となるルシファーの願いに、リリスは少し考えて言葉を探した。すべてを伝えても構わないが、どう話したら伝わるのか。リリスには難しかった。
「私は『魔の森の分身』なのよ。魔の森は母であり、私であり、いずれ還るべき場所であり、世界そのものだわ」
予想外の告白に、5人は絶句した。
本人の希望で淡いピンクの可愛いドレスを着ている。黒髪に絡めたリボンも同色で、緩く編んだ髪は肩から胸の方へ流していた。ざっくりとした三つ編みに似た髪型は、所々に白い生花が散らされている。愛らしいお姫様は、魔王の膝の上で周囲を見回す。
玉座を囲むようにした大公4人も、逃がす気はない様子だ。上目遣いにルシファーと視線を合わせれば、蕩けるような笑みが返された。逃げる隙はない。
「……ルシファー」
「どうした? リリス」
声は優しいし、眼差しも柔らかい。表情も笑顔なのに問い詰めるなんて器用なことを……そう思いながら、リリスは諦めて身体の力を抜いた。こんなふうに聞かなくても、お茶会でも開いてくれたら話すのに。
「どうして魔物の大量発生を知っていたのか、教えてください」
「私が望んだからよ」
それ以外の答えはない。言い切って顔を上げれば、質問したベールの方が困惑していた。意味が理解できないのかしら? リリスが小首をかしげる。
「だって、魔の森は魔族の母だもの」
結論を知るリリスにしてみたら、周囲がこんな簡単な図式に気づけない理由がわからない。ずっと行動でも言葉でも示してきたのだから。わからない側からしたら、何をどう質問したらいいかもわからなかった。
「ベール、後ろから小説を読むような質問をしても意味がありません」
結末からめくっていっても、時系列は正確に把握できない。そう言い切ったアスタロトが膝をついて、リリスと視線を合わせた。じっと見つめ合う赤い瞳同士は、やがてリリスが瞬きすることで逸らされる。
「ずっと不思議だったのです。リリス姫、あなたの種族は不明のまま――古い記憶や文献を調べても、頭に輪が浮かび背に白い翼を生やした種族は確認されなかった」
さすがのルシファーも口を挟まなかった。リリスについては、不明な点が多すぎるのだ。それが悪いとは思わないが、今回の魔物の大量発生を予言したのは気にかかる。
人族と魔族の子供はさほど珍しくない。追放されたり逃げ出した魔族が、弱者ばかりの人族の街に逃げ込むことは過去もあった。
当初リリスが人族と魔族の子だと判断された理由が、彼女のもつ魔力だ。強く大きな魔力をもつのに、ゆらゆらと不安定だった。それは人族の血を引く子供によく現れる症状なのだ。白い肌と赤い瞳は魔族の親から、黒髪は人族の親から遺伝したと考えられた。
しかし魔王城の城門前へ、誰にも気づかれずに人族の親が子を捨てることは可能か。人族と同じ成長を見せた子供が、死の直後に若返った現象も説明がつかない。ましてや魔の森や魔王の魔力を代償とした若返りだ。蘇った当初は誰も触れなかった疑問だが、異常な状況だった。
魔力を代償として生き返れるなら、誰もがその手段に縋り付くだろう。若返りも同じだ。他の種族を絶滅させても若返り、生き残りたいと願う輩は魔族にも存在する。しかし実行されなかったのは、意味がないからだった。他者の魔力を吸収して魔力量が増えることはあっても、生き返ったり若返る効果はなかった。
その後の突然の成長や、魔の森が満ちたという言葉の意味も、長き月日を生きた大公や魔王の叡智を総動員しても理解できない。
「リリスが誰であっても、何であっても構わない。オレの愛情は変わらないけど……知らないと助けられないだろう?」
だから教えて欲しい。伴侶となるルシファーの願いに、リリスは少し考えて言葉を探した。すべてを伝えても構わないが、どう話したら伝わるのか。リリスには難しかった。
「私は『魔の森の分身』なのよ。魔の森は母であり、私であり、いずれ還るべき場所であり、世界そのものだわ」
予想外の告白に、5人は絶句した。
51
あなたにおすすめの小説
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです
珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。
そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。
日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!
【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる