【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
792 / 1,397
56章 海という新たな世界

787. 嫌な予感がする

しおりを挟む
 打ち寄せる波を見ていたルシファーが足元に魔法陣を描く。帰城する魔王に従い、護衛のフェンリルと少女が後ろについた。顔を見合わせた側近少女達も慌てて駆け寄る。

 この時点で、自力で帰れる大公を除外した魔王の転移魔法陣が発動し、全員城門前に飛ぶ。リリスをそっと芝の上に下ろし、腕を絡めた。ご機嫌のリリスがなにやら歌を歌い始める。その旋律は、精神が幼くなった彼女が口遊んだものと同じだった。

「リリス、その歌はどこで覚えたんだ?」

「知らないわ。ただ、いつの間にか歌えるようになっていたの」

 以前から不思議な言動が多い彼女なので、後ろの側近達は「そういうものなのね」と簡単に受け止めた。芝の間から小さな白い花が覗いている。踏まないように歩きながら、ルシファーは眉をひそめた。

「我が君、サタナキア公ですぞ」

 示された通り、城門の上で大柄な男性が手を振っている。振り返して近づくと、門から飛び降りたサタナキアが駆け寄った。

「ご無事でしたか。アスタロト様やルキフェル様はいかがなさいました」

 一緒に出掛けた大公がいないことに、怪訝そうな顔をする。そのため霊亀の転送の手伝いに向かったと伝えた。納得した様子で頷き、すぐに部下を呼び寄せる。

「私も行ってまいります」

「気をつけてな」

 魔王軍の精鋭を率いる彼が協力するなら、アスタロトかルキフェルが戻ってくるだろう。そう考えて許可を出して見送った。サタナキアの足元に魔法陣を描いてやれば、礼を言って精鋭50人ほどが一度に転移した。

「ルシファー、向こうは大丈夫かしら」

「ん? 問題ないと思うぞ」

 転移魔法陣の到着地点を、ベールの魔力のすぐ近くに設定した。ルキフェルのように真上に設定するのは、人数が多くて危険だと判断したのだ。それは間違っていないが、リリスはなんとなく嫌な予感がした。

「無事だといいけど……」

 彼女の懸念は、ある意味的を射ていた。






 転移魔法陣が浮かんで、すぐに消える。魔王ルシファーが指定した通り、魔王軍の精鋭達はベールの近くに現れた。問題は彼らの足元に地面がなかったことだ。

 己の城があった洞窟の入り口に立つベールから、数歩先を指定した魔法陣に手落ちがあったとすれば、地面の有無を確認する文字が不足していたことだろう。何もない空間に放り出されたものの、足をつく先は何もなく……ふわっとした無重力感に包まれて落下した。

「っ! 全員、落下に備えろ」

 落ちゆく将軍サタナキアの号令で、翼のある種族が、飛べない種族の手を握る。ばさっとあちこちで羽が広げられ、落下が止まった。何人かすり抜けて落ちていくが、サタナキアが放った魔力の網に引っかかる。

「……ずいぶん大雑把な、これは陛下ですか」

 魔法陣を描いた者を特定したベールが、短距離転移してサタナキアの腕を掴んだ。壊れた城の瓦礫に着地した彼らは、安堵の息を吐き出す。サタナキアに尋ねたつもりはなく、確証のある呟きだったが、律儀な将軍は敬礼して答えた。

「はっ、魔王陛下のご厚情による魔法陣にございます」

「ご厚情で精鋭を壊滅させる気ですか。あとでじっくりお話を伺う必要があります」

 丁寧な言い回しで説教を匂わせた美貌の指揮官に、サタナキア公爵は冷や汗を拭う。申し訳ありません、陛下……私では御身を守り切れません。その必死の願いが届いたのか。

 同じ頃、魔王城の中庭でルシファーが大きなくしゃみを連発していた。

「嫌な予感がする」
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...