【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
842 / 1,397
60章 魔王妃殿下のお披露目

837. 嫌なことがあったの?

しおりを挟む
 呼ばれた会議の内容が深刻なものであり、緊急性のある案件だったので、つい予定時間を越えてしまった。一緒になって資料を読み漁ったのが原因だが……ルシファーは仕方なく奥の手、城内で転移魔法を使う。あとでアスタロトに叱られるとしても、今は部屋で待つリリスが最優先だった。

「リリス!」

「お話し合い、終わったの?」

 さすがに部屋の中に出現して、リリスが着替えをしていたりしたらマズいと気を使った。ドアの前に転移してからノックして、返事がある前に名を呼んで開く。アデーレがいたら「直接お部屋に転移しても同じではありませんか」と呆れただろう。

「ああ、今日の分は終わりだ。もらったお菓子は美味しかった。みんなで分けて食べたぞ。ありがとう」

 まずは会議中に食べたお菓子のお礼。それから近づいてリリスを抱き締めた。室内用のアイボリーの緩いワンピースにカーディガンを羽織ったリリスの腕が、背中に回るのを感じる。黒髪に顔を埋めたところで、横やりが入った。

「そこまでになさってくださいね」

 舌打ちしたい気分で顔を上げるルシファーの視線の先で、少女達が苦笑いする。壁際に立つイポスは珍しく髪を下ろしていた。声を上げたルーシアが優雅に一礼する。後ろのルーサルカ、シトリー、レライエも同様に跪礼を披露した。レライエの肩に乗る翡翠竜は落ちないようバランスを取りながら、器用に頭をさげる。

「リリス様、明日の朝早くに準備を手伝いにまいります。今夜はこれで失礼いたしますわ」

「おやすみなさい」

 挨拶を交わしあい、少女達が出ていく。一緒に部屋を出たイポスに、リリスが声をかけた。

「明日は婚約者と一緒に参加していいわ。護衛はアシュタやロキちゃんがいてくれるもの。楽しんでね」

 にこにこと手を振って気遣うリリスへ、感謝を述べてイポスは頷いた。以前なら固辞した彼女だが、婚約者の存在が脳裏をよぎったのだろう。頬を少し赤く染めて踵を返す。このままでは結婚できない、そう娘を案じたサタナキア公爵の嘆きが懐かしいくらいの変化だった。

「一緒にお風呂入ろうと思って待ってたのよ、ルシファー」

 この年齢になっても、リリスは今までと同じだった。幼女の頃と同じく、ルシファーとお風呂に入り同じベッドに眠る。ルシファーもリリスへの愛情が暴走することもなく、父親か兄のような接し方で過ごしていた。

「そうだな。薔薇は何色がいい?」

「そうね、赤がいいわ。今日の屋根に使った薔薇よ」

「わかった。同じ薔薇にしよう」

 エルフが持ち込んだのと同じ赤い薔薇を手元に転送し、リリスを伴ってバスルームへ向かう。先に脱いで中に入ったルシファーが、薔薇の棘をすべて消した。精霊女王であるベルゼビュートに聞いて覚えた魔法は、薔薇に作用して自ら棘を引っ込めさせるものだった。

 お風呂で毎回風を使って棘を落としていた作業が軽減され、ルシファーはこの魔法を多用する。薔薇の花弁を千切るのはリリスに任せ、湯船に花ごと浮かせた。

 髪を洗うためにシャンプーを手に取ったところへ、リリスが現れる。ご機嫌で鼻歌を歌いながら歩み寄る彼女は、タオルで身を隠す様子はない。当たり前のようにルシファーの膝の間に背を預けて座り、ルシファーも普段通りリリスの黒髪を洗った。

「何か嫌なことがあったの?」

「ん? どうしてだ」

 機嫌の悪さなど見せていない。不思議に思って尋ねると、リリスは自ら作ったお湯で髪の泡を流して振り返った。

「急に会議をしたし……私が一緒じゃダメだったんでしょう?」

 会議に呼ばれたルシファーと腕を組んで歩いた途端、アスタロトに部屋で待っているよう言われた。部屋には側近の少女達が揃っていて、アデーレがお茶の準備をしてくれる。あまりに手際が良すぎて、私がいては都合の悪い会議だったのかも? と思った。

 素直にそう告げると、苦笑いしたルシファーはスポンジを泡立てる。手際よく身体を洗うルシファーからスポンジを受け取り、今度はリリスが背中を洗う。その間に自分の髪を洗い終えたルシファーと湯船に浸かったところで、ようやくルシファーが口を開いた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...