【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
962 / 1,397
70章 人族の大量落下事件

957. 魔王軍の派遣要請

しおりを挟む
 お茶を片付け、リリスは迎えにきた大公女達と庭へ向かった。薔薇の香りがする蜂蜜をくれた魔蜂にお礼を言ってから、ルーサルカ達に蜂蜜を分けるのだという。魔王城へ納入された献上品のため、魔王の許可証を発行して持たせた。

 これらのルールは、魔王や魔王妃だからと破る慣習を作ってはいけない。ルシファーが持ち出すときも、その場で書類を渡すようにしていた。持ち出した者のリストを作る管理者のためだ。

 在庫量が合わなくなったとき、管理者は横領を疑われてしまう。きっちりルールを守ることで、互いを疑わずに済んだ。円滑な組織運営を手探りで作り上げたのは、今になれば懐かしい話である。

 礼を言って書類を受け取ったリリスが、後ろのルーサルカに預けた。魔力を封じたため、収納空間が使えないのだ。収納へしまったルーサルカと手を繋ぎ、反対側をシトリーへ伸ばした。ルーシアは瓶が入った籠を持ち、レライエは休暇日で不在だった。

 夜は城へ引き上げることになり、大公女や護衛の休日がしっかり組めるようになった。イポスも今日は休みで、側に控えていない。ストラスの休みも合わせたとルキフェルが胸を張るから、恋人達は一緒に過ごすのだろう。

 執務机に戻り、愛用のペンを手にしたところへベリアルが飛び込んだ。コボルトの小柄な体の彼は、驚くほど早いノックで返事を待たずにドアを開く。珍しい行動に目を瞬いて入室を許可すると同時に、ベリアルは手にしたメモを読み上げた。

「ご報告いたします。各領地に人族の落下が確認されました。数は多く範囲も広く、救助や軍の派遣を求める通信や伝令が次々と届いています」

 一気に読み上げ、吐き出した息を吸い込んだベリアルが咽せる。苦しそうにげほげほ咳き込む背中を、ヤンが立ち上がって叩いてやる。器用に2本脚で身を起こしたフェンリルの気遣いに礼を言い、ベリアルは青ざめた顔で判断を待った。

 使者や伝令に対して、何らかの返事を持ち帰らなくてはならない。聞いた内容に驚いた顔をしたルシファーが、ペンをくるりと手の中で回した。

「軍を動かせるか?」

「承知しました。飛べる種族を優先して充てます。魔王城が手薄になりますが」

「緊急時用の魔法陣を発動するから、城の警備は問題ないよ。僕も非常勤の竜族に声をかける」

 ベールとルキフェルが手早く話を決める。決断を求めるように視線を向けられ、ルシファーは頷いた。

「わかった。指揮を一任する。オレも出るぞ」

「「どうして(ですか)」」

 気合を入れて立ち上がった途端、2人の大公から疑問をぶつけられた。首をかしげて誤魔化そうとするが、ベールが鋭く指摘する。

「陛下の出番はありません。指揮を一任したなら、城で大人しく書類処理を優先してください。サボる余裕はありません」

 言い残して彼は指を鳴らす。長いローブ姿から軍服へと着替えた。あの着替え用魔法陣はルキフェルの傑作だ。リリスにもいくつか作ってあるのだが、合図ひとつで着替えられる。

 敬礼して出ていくベールの後ろに続きながら、ルキフェルも着替えていた。動きやすい格好ながら、立襟の上着は華やかな銀糸刺繍が施された青紫だ。目を引く鮮やかな出で立ちは、瑠璃神竜王の正装に似ていた。

「僕も前線に立つ。大公が誰もいないんだから、リリスとルシファーは城を動いちゃダメだよ」

「……わかった」

 アスタロトがいたら飛び出せたのに。ガッカリしながら、再び執務机の書類に向き合う。落としたペンを拾い上げ、予算承認書類の計算を確認して署名した。数枚片付けたところで、外が騒がしくなる。

 竜族に伝令が飛ばされ、転移で移動する魔王軍が中庭に集結しつつあった。立ち上がって窓から中庭の彼らを見送る。各地へ出向く者が敬礼して、転移や翼で移動する姿に眉を寄せた。

 嫌な感じだ。空からたくさんの人族が落ちた。それ自体は大した被害ではない。下敷きになる種族がいても、魔王軍には治癒が使える種族が配置されている。即死でなければ助けられた。

 だから……ルシファーの懸念は負傷者ではなく、本能に近い深い部分で鳴る警鐘だった。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...