【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
964 / 1,397
70章 人族の大量落下事件

959. いい度胸じゃん

しおりを挟む
 しばらく眺めた後、横倒しになった鉄の箱の上に舞い降りた。ぎしっと軋んだ音を立てた入れ物は、多くの人族と荷物を詰め込んでいる。

「持ち帰って調査しよう」

 また新しい研究材料が増えた。何やら臭いので鼻をひくつかせ、眉を寄せる。これって地底を深く掘ったときに出る油の臭いだ。こんなもの積んでるの? 確か人族が明かりに使うんだっけ。

 魔法がほとんど使えない人族ならではの知恵だ。問題はこの黒い油は発火しやすい。掴んで飛べる大きさだけど、持ち帰る間に森を汚してしまう。アルラウネのように移動できない植物系の種族にとって、大地を汚されたら被害が大きかった。爆発させないで運ぶ……ちらりと中を確認してから、溜め息をつく。

「ねえ、手の空いてる子は手伝ってよ」

 声をかけると、魔熊や魔狼を始めとした肉食獣が集まった。大公ルキフェルの声掛りなら、人族をバラす作業は後回しだ。敬意を示して伏せる彼らに、鉄の塊を指差した。

「出入り口の扉を外すから、中の人族を全部出せる?」

 くーんと鼻を鳴らして了承する魔狼に続き、魔熊も細い声で協力を申し出た。人族が自分たちで開けたから、上にある穴が出入り口だろう。変なの、上に出入り口つけたら使いにくいのに。

 一度降りて振り返って気づいた。上に扉がついているのではなく、横倒しになって扉が上に向いたのだ。竜化した手と大地の魔法を使い、丸いゴムが付いた方を下に転がし直す。盛り上げた大地が押した側面がひしゃげる。ガラスが使われた窓はいくつも割れて、そこから人族が数人転げ落ちた。

 頷くと、大喜びで魔狼が咥えて引きずる。魔熊も器用に爪を使い、割れた窓から獲物を引っ張り出した。狂鹿が角を使って、無事な窓を割っていく。駆けつけたハゲワシ系の魔獣やハルピュイアも爪を使って人族を外へ放り出した。中に入ったルキフェルは、ぐるりと見回して、壁や床に張り付いた人族を外へ押す。

 すべて出し終えた時点で、中に散らばった荷物ごと収納へしまった。これで爆発させずに済むし、調査する研究材料を確保できた。ほくほく顔で魔獣達に礼を言う。彼らもこれから冬眠したり冬越しの食料を蓄えるため、丁寧に頭を下げて肉を運んだ。

「ルシファーがいたら、助けようとするかも」

 城に置いてきて良かったと笑い、ルキフェルは地図を取り出した。思ったより多くの協力が得られたらしい。確認済みの地点が一気に増えた。後片付けを任せ、ふわりと空に舞う。美しい森の姿はかなり回復していた。

 確認を終えた地点に損傷が大きい場合、余裕があれば魔力を注いで修復するのは上位魔族の義務だ。貴族も駆り出されたので、見渡す景色の中に突然大木が生える場所も見受けられた。

「うーん、これならあまり心配いらないかな」

 大きな事故や戦がない時期だったため、魔王軍はほぼ全軍が動かせる。周辺警備をベルゼビュートに任せて動いた兵力は、人海戦術で森を修復した。ぐるりと見回し、大きな損傷を探す。こういうとき、リリスのように魔力が色で見えれば、損傷箇所が分かりやすいのに……。

 リザードマンの沼地がある方角に、煙が上がっている。人族の死体を処理するにしても、彼らの埋葬方法は土葬だった。泥の中に重石をつけて沈める方式だ。そのため炎や煙を使うわけがない。臭いに敏感な種族なのだ。

 嫌な予感がして、ルキフェルはそちらへ向かった。煙を避けて回り込んだ視界に、燃える木々が映った。沼地ではなく、沼地を囲む森の木々に火をつけた者がいるのだ。

「へぇ、いい度胸じゃん」

 間違いなく人族の仕業だ。魔の森の木を燃やすなんて馬鹿な真似、魔族は絶対にしない。低い声で唸ったルキフェルは竜化し、青い鱗を閃かせて沼地に降りた。
しおりを挟む
感想 851

あなたにおすすめの小説

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです

珂里
ファンタジー
ある日、5歳の彩菜は突然神隠しに遭い異世界へ迷い込んでしまう。 そんな迷子の彩菜を助けてくれたのは王国の騎士団長だった。元の世界に帰れない彩菜を、子供のいない団長夫婦は自分の娘として育ててくれることに……。 日本のお父さんお母さん、会えなくて寂しいけれど、彩菜は優しい大人の人達に助けられて毎日元気に暮らしてます!

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...