【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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71章 北の大地は危険な噂の宝庫

980. この世界でも反省は正座です

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 正座して反省を示すルシファーの執務室へ、うっかり書類を届けに来たアベルは固まった。隣で同様に書類を手にしたアンナは、見なかったフリで通り過ぎる。この辺のスキルがアベルには足りなかった。思わず立ち止まったことで、視線が釘付けになる。

「あの……どうして足の上に、姫が?」

 正座したルシファーの膝にお座りするリリスは、きょとんと首をかしげる。彼女はいつも通り、アスタロトに頼まれて座っただけだ。それがルシファーを苦しめている自覚はなかった。

「私がルシファーのお嫁さんで、ルシファーが私の旦那さんだからよ」

 にっこり笑って、アスタロト直伝の返答を口にした。こうなるとルシファーは否定が出来ない。そのため大きく頷いて、痺れた足を必死に誤魔化し続けた。後ろで丸くなった犬サイズのヤンが、痺れを少しずつ散らしてくれるが追いつかない。

「リリス様、もしかしたら陛下の足が痺れてるかもしれませんね」

「あら、そんなに重くないわ。ね? ルシファー」

「……あ、ああ。軽いぞ」

 間違っても重いなんて口に出来ない。しかも魔力を使いリリスを浮かせて誤魔化せば、さらに罰が与えられることを経験上理解していた。

「アベル、こういう時は見ないフリをするものよ」

 腰に手を当てて呆れたと全身で示すアンナは、署名と押印を貰った書類を抱えて部屋を出ていく。慌ててアベルも運んできた書類を積み、処理済を受け取ってドアまで来て……振り返ってしまった。助けを求める魔王に「ごめん」と謝罪にならない一言を残して、走り去る。

「さて。反省されたようですから、あとは書類の整理をしていただければ結構ですよ」

 あまりキツく叱ると、明日の予定に響く。アスタロトの透けてみる本音に顔を引きつらせながら、ルシファーは痺れた足を叱咤して立ち上がり、ヤンに支えられて執務机についた。じんじんする足を知らないリリスは、また膝の上に座ろうとする。

「リリス様、隣に椅子を置いてこちらをお願いしますね」

 取り出した椅子を勧めてくれるアスタロトが、印章と特殊インクを渡す。今のリリスなら魔力を封じているので、インクをすべて消してしまう心配はなかった。

「これらは貴族家への承認書類になります。ここ数十年溜め続けた、家督相続関係の書類ですから……しっかり処理をお願いしますね。印章の向きはこちらです。朝までに片付けてください」

 しっかり期限を切られ、リリスは安易に頷いた。

「わかったわ。アシュタは休んでいいわよ」

「ええ、ありがたく……お言葉に甘えさせていただきましょう」

 アスタロトに手伝わせる案が消えた瞬間である。縛り付けた卵は、今もタオルの中で落ち着いていた。それを撫でながら、リリスは用意された椅子の上で押印を始める。中の文字をさらりと読んで、読めないとルシファーに尋ねるほど熱心だった。

「我が君、だいぶ治りましたか?」

「ああ、助かった」

 突いたり揉んだり、痺れを改善するヤンがほっとした様子で机の下から出てきた。すると手招きされ、リリスの前でお座りする。

「押印するときに割るといけないから、預かって頂戴。温めるのを忘れないでね」

 まともな理由で卵をヤンに預ける。包んだタオルごと咥えて運んだヤンが大きくなってから丸くなり、腹の前に置いた卵を温め始めた。微笑ましい光景のようだが、違和感が凄い。

「早くしないと朝になっちゃうわ」

「頑張ります」

 隣のリリスにせかされ、ルシファーも書類を手に取った。ベルゼビュートの報告書……不備あり、再提出。横に避けて次の書類を読む。予算承認に押印が必要なので、署名後にリリスへ渡した。次はまたベルゼビュートの報告書、不備あり再提出――。

「半分は再提出だ。本当に数字以外はダメな奴だ」

 再提出を求めても、どうせ同じ書類をそのまま提出するだろう。外回りで忙しいのだし……仕方ない。一度再提出の箱へ入れたベルゼビュートの報告書を戻し、手直しして処理済へ放り込んだ。その後もほとんどの書類が彼女の報告書であり、溜め込んだ未処理書類が一段落する頃……空は白々と明けていた。

 毛布をショールのように巻き付けて眠るリリスを抱き上げ、ベッドに横たえる。今日は休みでもいいだろう。隣に潜り込み、彼女を毛布ごと抱き締めて目を閉じた。しかし脳内にベルゼビュートの読みづらい文字が踊り、奇妙な夢で魘されたとか……。
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