【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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99章 変化し続ける世界の中で

1347. 部屋の小さな間違い探し

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 なんとか書類を片付け、リリスとの夕食は間に合った。着替え直後に乱入した件について改めて詫びるが、彼女は怒っていない。普段から入浴も就寝も一緒なのに、着替えくらいで怒る理由がなかった。何なら、夜着への着替えはルシファーが行っているのである。

「でも、ルカ達はびっくりしちゃうわ」

「そうだな。すっかり忘れていて……すまなかった」

 リリスが怒っていたのは、他の少女達への気遣いだった。リリスだけなら「もう」と頬を膨らませて終わる程度の話だ。だが婚約者がいる結婚間近の少女達は違う。着替える部屋に、異性であるルシファーが入ったら噂になるかも知れない。いくら魔王がリリスに惚れていても、万が一を噂されたら傷つくのは彼女達なのだ。

「反省した。次からは周囲の魔力も探って連絡する」

 緊急事態以外は……と条件をつけたものの、リリスはふふっと笑って腕に抱き着いた。

「今夜は赤い薔薇がいいわ。あとね、香りのいい花を見つけたの」

 ふわりと香る小さな白い花は、木に咲く。夜になるとほんのり銀色に光ることから、夜光花と呼ばれる。同時に、夜に香ると書くこともあった。

「夜香か、そういえばここ数日いい香りがしていた」

「これをお風呂に浮かべたら素敵よ」

 無邪気に提案するリリスに頷き、食後に一緒に摘みに行く約束をする。用意された料理に舌鼓を打って、お茶も楽しんだ。デザートは季節のフルーツの盛り合わせで、秋も深まるこの季節は種類が多く豪華だ。

「あーん」

「リリスも、あーん」

 お互いに食べさせ合い、にこにこと笑顔を交わす。仲の良い二人の様子に、侍従達も安心した顔で片付けを始めた。気に入った葡萄を手元に残し、残りはすべて下げられていく。魔王城から出る残り食材は、魔獣達のご褒美だった。そのため、綺麗に食べ残すのがマナーになっている。

 最初から食べられる量だけ取り分けるスタイルで、コース料理のように個々に盛り付けることがないのも、この習慣が理由だった。残飯のように混ぜず、残った料理を元の姿のまま提供するのが礼儀である。

 仲良く葡萄を摘んだ後、残りを皿に置いて立ち上がった。窓が開いているが問題はないだろう。カーテンを揺らす風に背を押される形で、リリスとルシファーは部屋を出た。裏庭に植えられた夜光花の木を求め、ふらりと散策する。ほんのり月光を帯びたように明るい木を見つけ、近づいてハンカチを広げた。

「揺らすぞ」

「いいわ」

 一緒にハンカチを広げて、風を起こして枝を揺らした。咲き終えて散る間際の花から落ちてくる。ハンカチの上に降った花を集めて包んだ。

「このままハンカチごと沈めるか?」

「ううん。散らしたら綺麗だと思うわ」

 アデーレにバレる前に魔法で片付ければ叱られることもないだろう。そう考えたルシファーはあっさり頷いた。

「そうだな、散らそう」

 再び腕を組んで歩き、部屋まで戻った。花を包んだハンカチを手に風呂へ向かうリリスを見送り、ふと部屋の光景に違和感を覚える。何かおかしい。出かける前の光景と違う気がした。

 じっくり端から確認するが、リリスの呼ぶ声が聞こえ後回しにする。

「ルシファー、早く」

「わかった。今いく」

 考えるのを後回しにし、ルシファーはいつも通り風呂に入る。リリスの黒髪を丁寧に洗い、彼女が体を洗っている間に自分の髪や体を洗い終えた。湯船に浸かって、夜香花の心地よい香りに包まれる。頭の中は、部屋の違和感の正体を探り続けていた。

「あっ!」

「どうしたの?」

「部屋の葡萄が消えた」

 間違い探しのように比べた風景の違いを見つけ、ざばっと立ち上がる。

「きゃぁ! もう、ルシファーったら」

 びしょ濡れになったじゃないの。唇を尖らせるリリスに謝り、再び髪と体を洗うのを手伝ってから入浴を終えた。
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