2 / 82
2.子猫のおやつとして捕獲される
しおりを挟む
空間移動で帰還した勇者一行は、神殿らしき天井の広い広間に倒れ伏した。駆け寄った人々が彼らを介抱し治療して運んでいく中、僕は蹴飛ばされた。わざとじゃなく偶然だよね。足元に落ちてたツノに気を払ってくれる奴なんていないし。
転がった先は神殿の祭壇の下で、身動きできない僕は足音や騒ぎを聞くだけ。困ったな、手足がないから動けないんだけど。あと、向きが悪くて外の様子が見えないし。掛かった血もべたべた気持ち悪い。
「魔王を、倒した……だがっ」
必死に剣士が告げた言葉に、歓声が上がる。続いて悲鳴が聞こえ、勇者が命を落としたことを知った。さっきは元気そうだったけど、人族は脆いから。声を聞き分けながら状況を判断する。力不足を嘆く神官の声が祈りに変わり……やがて広間から人が出て行った。
沈黙の中、助けを呼ぶ僕の声は誰にも届かない。
まあ、いつものことだ。この声が聞こえる人に出会ったことがなかった。動けないのも慣れたし、勝手に魔力を使われるのも諦めた。静かな部屋の中、僕は自分も魔法が使えたらと夢見る。膨大な魔力はあるが、それどころか体自体が魔力の塊なんだけど……使う方法が分からない。
しばらくして、ふと寒さに身を震わせた。寒気? なんで? 目の前に大きな金色の瞳が二つ、じっと僕を見ている。音もなくじりじり近付いた獣は、僕をぺろりと舐めた。悲鳴を上げる。
僕を咥えた獣は外に出て、ことりと床の上に置いた。ちょいちょいと指先で僕を突く。これ、猫だ。魔物で猫の魔獣を見たことがあるし、前世で見た。活発で好奇心旺盛なんだよな。魔王と一緒に過ごしたから、魔族の知識は豊富だった。爪でからからと回した後、猫は僕を再び咥えて運び始めた。
神殿の建物から出て、外で……いきなり猫が飛び上がる。驚いたが実害はなかった。音もなく歩く猫は塀から屋根に移り、やがて小さな小屋に入っていく。そこには子猫が数匹、明らかに大きさも種類も違う何かの子が一匹眠っていた。
ぽろっと僕を落としてにゃーと鳴く。子猫達が飛び起きて、僕に噛み付いた。蹴ったり爪を研いだり、痛いけど我慢だ。どうせ泣き叫んでも聞こえない。そう思ったのに、がりっと先端を齧られて悲鳴を上げた。
やめて! すごく痛い!! 噛まないで!!
「かわいそうだよ」
子猫達を押しのけて、僕を拾うのは何かの子……人族に似てるけど、人族じゃない。温かな手が僕を包んだ。
「ないてる」
僕はツノだ。魔王の魔力の源で、気づいた時から彼の一部だった。ずっと魔王の付属品だ。魔王はツノを自慢にしてたし、きちんと手入れもしてくれた。でも声は届かなかったのだ。前世の記憶があるから辛い。もし生まれた時からの記憶しかなく、ツノとして生きた人生しかなければ……きっと平気だったのに。
沈んだ気分の僕に、温かな手の主は頬をすり寄せた。
「きこえる、ないてるよ」
聞こえてる? 僕の言葉や声が……君には届いてるのか。驚いた僕に、短いツノを持つ子どもは頷いた。
転がった先は神殿の祭壇の下で、身動きできない僕は足音や騒ぎを聞くだけ。困ったな、手足がないから動けないんだけど。あと、向きが悪くて外の様子が見えないし。掛かった血もべたべた気持ち悪い。
「魔王を、倒した……だがっ」
必死に剣士が告げた言葉に、歓声が上がる。続いて悲鳴が聞こえ、勇者が命を落としたことを知った。さっきは元気そうだったけど、人族は脆いから。声を聞き分けながら状況を判断する。力不足を嘆く神官の声が祈りに変わり……やがて広間から人が出て行った。
沈黙の中、助けを呼ぶ僕の声は誰にも届かない。
まあ、いつものことだ。この声が聞こえる人に出会ったことがなかった。動けないのも慣れたし、勝手に魔力を使われるのも諦めた。静かな部屋の中、僕は自分も魔法が使えたらと夢見る。膨大な魔力はあるが、それどころか体自体が魔力の塊なんだけど……使う方法が分からない。
しばらくして、ふと寒さに身を震わせた。寒気? なんで? 目の前に大きな金色の瞳が二つ、じっと僕を見ている。音もなくじりじり近付いた獣は、僕をぺろりと舐めた。悲鳴を上げる。
僕を咥えた獣は外に出て、ことりと床の上に置いた。ちょいちょいと指先で僕を突く。これ、猫だ。魔物で猫の魔獣を見たことがあるし、前世で見た。活発で好奇心旺盛なんだよな。魔王と一緒に過ごしたから、魔族の知識は豊富だった。爪でからからと回した後、猫は僕を再び咥えて運び始めた。
神殿の建物から出て、外で……いきなり猫が飛び上がる。驚いたが実害はなかった。音もなく歩く猫は塀から屋根に移り、やがて小さな小屋に入っていく。そこには子猫が数匹、明らかに大きさも種類も違う何かの子が一匹眠っていた。
ぽろっと僕を落としてにゃーと鳴く。子猫達が飛び起きて、僕に噛み付いた。蹴ったり爪を研いだり、痛いけど我慢だ。どうせ泣き叫んでも聞こえない。そう思ったのに、がりっと先端を齧られて悲鳴を上げた。
やめて! すごく痛い!! 噛まないで!!
「かわいそうだよ」
子猫達を押しのけて、僕を拾うのは何かの子……人族に似てるけど、人族じゃない。温かな手が僕を包んだ。
「ないてる」
僕はツノだ。魔王の魔力の源で、気づいた時から彼の一部だった。ずっと魔王の付属品だ。魔王はツノを自慢にしてたし、きちんと手入れもしてくれた。でも声は届かなかったのだ。前世の記憶があるから辛い。もし生まれた時からの記憶しかなく、ツノとして生きた人生しかなければ……きっと平気だったのに。
沈んだ気分の僕に、温かな手の主は頬をすり寄せた。
「きこえる、ないてるよ」
聞こえてる? 僕の言葉や声が……君には届いてるのか。驚いた僕に、短いツノを持つ子どもは頷いた。
41
あなたにおすすめの小説
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる