【完結】勇者に折られた魔王のツノは、幼児の庇護者になりました

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
29 / 82

29.不可思議な盟約を盾に

しおりを挟む
 撤退させられたベリアルが戻ってくるまで、さほど猶予はないと思う。そこでバルテルを中心に、対策チームを立ち上げてもらった。魔力に声を乗せる方法を覚えたので、会議にも参加できる。

「ベリアルとやらの弱点はないのか?」

『弱点……魔王アスモデウスかな』

「それは役に立たない情報だ」

 げらげら笑ったバルテルには悪いが、数百年魔王の頭上から観察した結果、本当に欠点らしい欠点はない。甘いものが好きとか、意外な驚きはあるけど。戦いに役立つとは思えなかった。

「どの魔法が一番得意だ?」

『すべて使えるが、風だよ。逆に一番苦手なのが炎、理由は火力が強すぎて調整できないから』

 弱点ではない。ベリアルが炎の魔法を使うと手加減ができないので、使わないようにしているだけだった。

「こないだ、いきなりコハクを攻撃しなかったのはどうしてだ?」

 白髭の爺さんの突然の指摘に、僕はうっかり話し忘れた盟約を思い出す。

『そうだ、盟約があった!』

 盟約は簡単だが、不思議なものだった。森人が住む森を枯らさないこと。森人がこの森から出なければ攻撃しない。この2点だけで、それ以上の条件はなかった。説明した途端、じいさんは思い出して、あれか! と呟いた。

 森人がこの森に住む限り、森は枯れない。枯れた時は世界が終わると言い伝えられてきた。だから森人は滅多に森から出ないし、ほとんどが森で生涯を過ごす。実際、彼らにとって過ごしやすい環境が整っていた。

 得意な鍛冶や宝石関連の仕事も出来る鉱脈があり、火起こしする森の木々も豊かだ。その上、主食とする果物や小動物が多く生息していた。理想の環境を捨ててまで、遠くへ移り住む理由がない。だから言い伝えは一応覚えるが、大した価値を見出していなかった。

 盟約に合わせて言い伝えが作られたのか、逆か。どちらにしても関連はあるだろう。今回は盟約を盾に乗り切る方法を煮詰めることになった。武力でも魔法でも敵わないのだ。どんな卑怯な方法でも縋るしかない。

「いい知恵があるかい?」

『ベリアルには僕の声が聞こえない。つまり、別のツノと区別がつかないのさ。似たような形状と色のツノを渡したらどうだろう』

「だが、コハクの手の中のシドウを見分けた様子だったぞ」

 バルテルが心配そうに眉を寄せる。だが肩をすくめた僕は言い切った。

『絶対に区別できない。僕を隠しておいて、魔獣のツノを差し出せば受け取る。わずかに魔力の痕跡があるのを見分けただけだからね』

 これには確信があった。実は120年ほど前に魔王と勇者が戦った時、ツノの先が少し折れた。破片が戦いの中で砕けてしまい、代わりに似たような材質の魔獣のツノを付け足していたのだ。僕にしたら、腕を切り落とされてサイボーグ化されたくらい、衝撃的だった。正直、ツノならなんでもいいのかよ! と思ったし。

『魔法で粉を繋ぎ合わせることもしなかったんだ。その程度の感覚だろ』

 魔王の魔力の痕跡があるだけでいいなら、僕の欠片を埋めたツノを作ればいい。琥珀のためなら、先端くらい我慢する。僕の覚悟を確認し、彼らも試してみる気になったらしい。どちらにしろ森にいれば、盟約が守ってくれる。魔獣のツノは、翌日に狩りに行くことが決まった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...