1 / 100
01.お決まりの婚約破棄から始まった
しおりを挟む
「カレンデュラ・デルフィニューム! 貴様との婚約を破棄する」
煌びやかな王宮の広間で、着飾った美しい人々が固まる。まだ国王夫妻不在の大広間は、招待された紳士淑女がさざめいていた。本日は王太子ローランドの婚約が発表される。その夜会で、王太子の叫んだ言葉に驚愕が広がった。
国王の玉座へ続く階段の中ほどで、王太子は聖女ビオラを抱き寄せてふんぞり返る。どこかで見たような展開、読んだ気がする台詞、そして……現実の中で取り残された貴族達。反応は大きく分けて二つだった。何が起きたのか理解が追いつかずきょとんとする者、これは大変だと慌てふためく人々。
ここで名指しされた令嬢が進み出た。さっと人々が道を開けたため、王太子まで一直線に見通せる状況だ。黒に近い深い紫のドレスに、黄金の飾りを纏う美女は堂々と進み出た。波打つ金髪は白い小花を散らし、真珠が輝く。燃えるような赤い瞳が照明を弾いた。
笑みに歪んだ口元を扇で隠しながら、カレンデュラは一定の距離を測って足を止めた。軽く会釈する形で挨拶する。リクニス国のデルフィニューム公爵令嬢、黄金の華と呼ばれる美女は自国の王太子の愚挙に溜め息を吐いた。大げさに、誰もがわかるように。
周囲の貴族からは、同情の視線が注がれる。
「ローランド王子殿下、婚約破棄と申されましたが」
もう王太子ではないから、正式な呼び方をしなくてはね。カレンデュラは呆れ返りながらも、嫌みをチクリとまぜる。
「貴様の悪行は、報告を受けている!!」
「最後まで聞いてくださいませ。婚約の件ですが」
「うるさい! 俺に命令するな」
ちっ、思わず扇の陰で舌打ちする。淑女らしからぬ仕草は、誰にも気づかれなかった。いや、気づいた人物がいる。歩み寄る黒髪の青年だ。金色に光る瞳を細め剣呑な雰囲気を纏う彼は、カレンデュラの隣に立った。
「貴様、王族と婚約状態にありながら、他の男に寄り添うのか!」
さきほど、婚約破棄を叫んだくせに? 誰もが頭に疑問符を浮かべる。だが問題はそれ以前だった。他の男というが、金の瞳は隣国セントーレア帝国の皇族特有の色だ。仮にも王太子を名乗った者が、それを見落とすなど。数倍の国力を誇る帝国相手に、喧嘩を売るに等しい行為だった。
「愛しのカレンデュラ、私に任せてもらえるだろうか」
「構いませんわ。それと……あのご令嬢には用がありますの」
勝手に片付けないでくださいね。微笑む公爵令嬢に、膝を突いて手の甲に唇を寄せた青年が立ち上がる。短く整えた黒髪がふわりと風に揺れた。見惚れる令嬢から甘い吐息が漏れる。
青褪めた聖女ビオラは、震えながら数歩下がろうとした。その腰を強引に抱き寄せ、ローランドが叫ぶ。王族とは思えない愚行の連続だった。
「貴様っ、まだビオラを虐めようというのか。なんと性根の腐った女だ」
「今の言葉、お前の首をかけての発言か? セントーレア帝国皇太子の婚約者への暴言、許されんぞ」
「は?」
信じて、というか理解できていないようね。本当に出来が悪くて頭の中身が足りない人だわ。これでも王子、それも私の従兄弟だなんて……恥さらしもいいところね。カレンデュラは扇で本音を隠しながら、聖女ビオラの様子を窺う。怯えているけれど、ケガはなさそう。早く何とかしてあげたいわ。
煌びやかな王宮の広間で、着飾った美しい人々が固まる。まだ国王夫妻不在の大広間は、招待された紳士淑女がさざめいていた。本日は王太子ローランドの婚約が発表される。その夜会で、王太子の叫んだ言葉に驚愕が広がった。
国王の玉座へ続く階段の中ほどで、王太子は聖女ビオラを抱き寄せてふんぞり返る。どこかで見たような展開、読んだ気がする台詞、そして……現実の中で取り残された貴族達。反応は大きく分けて二つだった。何が起きたのか理解が追いつかずきょとんとする者、これは大変だと慌てふためく人々。
ここで名指しされた令嬢が進み出た。さっと人々が道を開けたため、王太子まで一直線に見通せる状況だ。黒に近い深い紫のドレスに、黄金の飾りを纏う美女は堂々と進み出た。波打つ金髪は白い小花を散らし、真珠が輝く。燃えるような赤い瞳が照明を弾いた。
笑みに歪んだ口元を扇で隠しながら、カレンデュラは一定の距離を測って足を止めた。軽く会釈する形で挨拶する。リクニス国のデルフィニューム公爵令嬢、黄金の華と呼ばれる美女は自国の王太子の愚挙に溜め息を吐いた。大げさに、誰もがわかるように。
周囲の貴族からは、同情の視線が注がれる。
「ローランド王子殿下、婚約破棄と申されましたが」
もう王太子ではないから、正式な呼び方をしなくてはね。カレンデュラは呆れ返りながらも、嫌みをチクリとまぜる。
「貴様の悪行は、報告を受けている!!」
「最後まで聞いてくださいませ。婚約の件ですが」
「うるさい! 俺に命令するな」
ちっ、思わず扇の陰で舌打ちする。淑女らしからぬ仕草は、誰にも気づかれなかった。いや、気づいた人物がいる。歩み寄る黒髪の青年だ。金色に光る瞳を細め剣呑な雰囲気を纏う彼は、カレンデュラの隣に立った。
「貴様、王族と婚約状態にありながら、他の男に寄り添うのか!」
さきほど、婚約破棄を叫んだくせに? 誰もが頭に疑問符を浮かべる。だが問題はそれ以前だった。他の男というが、金の瞳は隣国セントーレア帝国の皇族特有の色だ。仮にも王太子を名乗った者が、それを見落とすなど。数倍の国力を誇る帝国相手に、喧嘩を売るに等しい行為だった。
「愛しのカレンデュラ、私に任せてもらえるだろうか」
「構いませんわ。それと……あのご令嬢には用がありますの」
勝手に片付けないでくださいね。微笑む公爵令嬢に、膝を突いて手の甲に唇を寄せた青年が立ち上がる。短く整えた黒髪がふわりと風に揺れた。見惚れる令嬢から甘い吐息が漏れる。
青褪めた聖女ビオラは、震えながら数歩下がろうとした。その腰を強引に抱き寄せ、ローランドが叫ぶ。王族とは思えない愚行の連続だった。
「貴様っ、まだビオラを虐めようというのか。なんと性根の腐った女だ」
「今の言葉、お前の首をかけての発言か? セントーレア帝国皇太子の婚約者への暴言、許されんぞ」
「は?」
信じて、というか理解できていないようね。本当に出来が悪くて頭の中身が足りない人だわ。これでも王子、それも私の従兄弟だなんて……恥さらしもいいところね。カレンデュラは扇で本音を隠しながら、聖女ビオラの様子を窺う。怯えているけれど、ケガはなさそう。早く何とかしてあげたいわ。
749
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺あおい@1/23先視の王女の謀発売
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる