【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
48 / 100

48.この手を離さないで

しおりを挟む
 親友であるカレンデュラは、無茶をしていないかしら。思い浮かべた途端、ティアレラは自ら否定した。お淑やかに装う公爵令嬢が、大人しくしているはずがない。

 分かれ道で、馬首を左に向けて合図を送った。心得た様子で走る愛馬は、軽い足取りで駆け抜ける。容姿端麗な友人を思い浮かべるティアレラが、馬上で溜め息を吐いたほぼ同時刻、カレンデュラは剣を抜いていた。以心伝心と言えるかもしれない。

 慣れた道を走る馬に揺られ、ティアレラは王都の夜会からの出来事を反芻していた。隣を走るシオンも、考えに没頭している様子だ。

 婚約破棄騒動は、国王とデルフィニューム公爵の仕掛けた罠だった。踊ったのは第一王子ローランドと、ミューレンベルギア妃だ。結果として、ローランド王子は失格者となった。過去のリンゲルニア妃の殺害に関する責任も含め、国家転覆罪でミューレンベルギアが処刑される。

 ホスタ王国の内政関与を通り越した策略が暴かれ、王国で叛逆が起きた。ホスタの王太子は王妃と共謀し、父である先代王を幽閉する。

 ここまでは四つの物語のどれでもおかしくない。分岐する前の物語や、直接関与しない物語の外なら違和感はなかった。

 愛馬がふわりと右へ避ける。道の中央で手足を引っ込める亀を飛び越えたのだ。珍しい亀を振り返り、同じ仕草をしたシオンと笑った。後ろの騎士も「うぉっ」と声を上げながら避ける。誰にも踏まれることなく、亀は無事乗り切った。

 前を向いて、さらに辿っていく。隣国の概念にカレンデュラはこだわった。まるで、隣国に滅ぼされる未来を知っているように。聖女ビオラの記憶があやふやでも、『聖女は月光を手に』は違う。他国と争うことなく、国内で終わる物語だからだ。

 カレンデュラやクレチマスの物語を、ティアレラは詳しく知らなかった。だが、隣国が一番絡むのは、『花冠に愛を誓う』ではないかと思う。ティアレラの物語だった。悪役令嬢のお取り巻きとして登場し、辺境へ戻るなり隣国に滅ぼされる。

 この世界に魔法の概念はない。だからこそ、ヒロインが訳のわからない魔法を使うのでは? この国の誰も、ヒロインの魔法を解明できないのだ。きっと、神様の思し召しくらいの感覚で受け止められるだろう。

「戻り次第、守りを固めて……それから領地周辺の情報収集ね」

「ティアレラ」

 シオンに話しかけられ、何だろうと顔を上げる。侯爵家から婿に出される予定の彼は、すでに辺境伯家の一員も同じだ。家族や騎士達もそのつもりで接してきた。大切な婚約者の言葉を聞き逃すまいと、馬を寄せる。

「物語は僕にはわからない。その分だけ違う目線で判断できると思うから、共有してほしい」

 話せる情報はすべて、僕にもくれ。判断材料として、君に返すから。

 真剣な眼差しで何を言うのかと身構えたティアレラは、くくっと喉を震わせて笑った。女性らしくないが、これが私だ。ティアレラは答えを待つ婚約者に手を伸ばした。咄嗟に掴むシオンの冷えた指を温める。

「すべて共有するわ。だから遅れないでね」

 私と並んで走ってほしい。今のように、付かず離れず一心同体になるまで。いや……最後まで離さないでね。願いを込めた誘いに、シオンは嬉しそうに破顔した。
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

裏切られた氷の聖女は、その後、幸せな夢を見続ける

しげむろ ゆうき
恋愛
2022年4月27日修正 セシリア・シルフィードは氷の聖女として勇者パーティーに入り仲間と共に魔王と戦い勝利する。 だが、帰ってきたセシリアをパーティーメンバーは残酷な仕打で…… 因果応報ストーリー

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...