【完結】あなたの思い違いではありませんの?

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
70 / 100

70.聖女、再びの危機!

しおりを挟む
 引き取って養子にしてくれた義父母には、とても感謝している。ビオラは馬車に揺られながら、窓の外の景色を眺めた。こうして貴族として生活できているのは、すべて男爵夫妻のおかげだ。

 ラックス家の一員となってから、すべてが満たされた。ただ愛され守られるだけの娘としての時間と経験、未来の皇妃となるカレンデュラ様との出会い。辺境伯家を継ぐカッコいいティアレラ様、女の園の王子役が似合いそう。まさか前世が男性だったとは思わなかったけれど。

 タンジー公爵家のクレチマス様だって、黙って立っていればいい男だわ。ただ義妹のリッピア様にべったりなのが……ちょっと怖いけれど。いつか逃げてきたら、神殿で匿ってもらおう。

 ラックス男爵家へ帰ると伝えたら、ルピナスが顔を見せてくれるって。嬉しくなるわ。ビオラは完全に浮かれていた。だから気づくのが遅れたのだろう。馬車がいつもより揺れることも、窓の外の景色が違うことも。

「変ね」

 迎えに来た馬車の中を見回し、扉に触れる。中から鍵がかかるのが一般的な馬車だけど、乗合馬車なら鍵はない。だけど、外から鍵がかかる馬車なんて初めて見たわ。開かないことで窓から頭を覗かせたビオラは、貴族令嬢らしからぬ唸り声を上げた。

「これって誘拐? 可愛いって罪ね」

 うふっと笑って茶化し、自分で緊張を解く。ここで固まって攫われるほど、純粋なお嬢様じゃないのよ。ビオラは馬車の構造を思い浮かべた。あれって車輪に曲がる機能はないから、完全に縦にしか進めない。横に揺すったら倒れるはず。

 王宮に近いデルフィニューム公爵邸から、街中にある男爵家の屋敷までは街道が整備されている。もしそこを進んでいたら、速度が出て危険だっただろう。ただ、今回は轍のある土の道だった。轍にハマらないよう、僅かにずらして走っているようで、ガタガタと大きく揺れた。

 タイミングを合わせ、扉に突進した。外から鍵がかかっているなら、ぶつかっても平気なはず。ビオラは無鉄砲にも体当たりし、予想外に扉は脆かった。女性とはいえ、貴族令嬢の装備は重い。騎士の鎧より軽いとしても……体重が五割増し状態のドレスの重さを忘れていた。

「えいっ、きゃ、うそぉ!!」

 みしっと嫌な音がして吹き飛んだ扉の外へ、ビオラが転げ落ちる。ドレスの重さと勢いが手伝い、踏み留まれなかった。転げ落ちた彼女は、受け身を取り損ねて肩を強打する。うっと息が詰まり『神様仏様、助けて』と日本語が漏れた。

「……おっと、今日はいろいろ拾う日だが、ご令嬢を拾うとは思わなかったな。落ちたのかい?」

 ビオラを助け起こした青年は、騎乗していたのか。一緒に馬も顔を覗き込んでいた。飛び降りて助けてくれた彼は、慌てて止まる馬車に視線を向ける。

「ちがっ……あれ、攫われ……」

 話そうと息を吸うと苦しい。どうやら転がった際に胸も打ったようだ。息も絶え絶え状態だが、必死で状況を説明した。あれは人攫いの馬車で、私の関係者ではないの。必死の訴えに、青年は頬をぽりぽりと指で掻いた。

 妙に芝居じみた仕草だが、不思議と似合う。

「うん、何となく理解した。逃げよう、ルシル」
しおりを挟む
感想 143

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...