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01.助けて、お母さん、お父さん。魔王様!
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ごそごそと這い出て、人影に慌てて首を引っ込めた。見つかったら酷い目に遭う。半泣きで後ろに下がった。音を立てないように、見つからないように。息を殺して逃げる僕の首を、誰かが押さえた。
重くて痛い。じわっと涙が滲んだ。地面にぶつけた額や鼻が痛いの。でも動いたらいけない気がした。すごく怖い。
『見つけたぞ、薄汚い魔物の分際で……忍び込むとはどういう了見だ』
違うよ。忍び込んだんじゃない。勝手に呼ばれたんだ。僕だって来たくなかった。じわっと涙が滲む。さっきまでお母さんと一緒にいたのに、いきなり知らない場所に呼び出されて、無理やり引きずられた。帰りたいだけなのに、捕まって殺されちゃうの?
シャラン、綺麗な音だけど金属の匂いがする。前に巣へ攻撃してきた人間の武器かな。あれで切られると痛いんだ。お父さんの傷はすぐ治らなかった。
「お母さん、お父さん! 誰か、助けて!! 魔王様!!」
全力で鳴いた。僕の命が消える前に、誰か助けに来てよ。僕の全部をあげるから助けて。魔王様は伝説の人で、この世界にはもういない。僕達魔族にとっては、いつも助けてくれる凄い人だった。人間が僕らを傷つけないよう戦って、守って、殺されてしまった人。
咄嗟に叫んだ言葉に魔力を載せた僕は、疲れて倒れ込む。誰かを傷つける魔法なんて知らない。だからこれが精いっぱいの抵抗だった。首に冷たい何かが触れて、ぐっと拳を握る。人間は僕らの言葉が分からないから、彼らに助けを求めようと思わなかった。
お母さん、ごめんね。お父さんも……。謝ってきゅっと唇を噛む。痛いのが一瞬で終わるといいな。嬲り殺された魔物を見たことがある。死体になっていたけど、あちこち刻まれていて……あんな死に方は嫌だ。
『死ね、薄汚い魔物が』
『おいおい、簡単に殺すなよ』
『そうだ。吊るして……』
怖い言葉がいくつも聞こえて、もう一度叫んでいた。
「助けて、僕が死んじゃう! 魔王様!!」
危ない時、神様を呼ぶのは人間も同じ。咄嗟に出た声に深い意味はなかった。首から離れた冷たい金属が、僕の指先に触れる。ひっこめたいけど、首を踏まれて動けなかった。どうしよう、怖い。震えながら見上げた人間は、黒い影になっていた。
彼らの後ろに丸い月が浮いている。照らす光が人間を黒く抜き出した。ざくっ! 指が切れる。
「痛いっ、痛いよ、お母さん……痛いぃ、お父さん……」
必死で呼んでも聞こえないけど、涙がボロボロ零れた。離してよ、僕は何も悪いことしていない。人間を襲ってないし、ちゃんと言葉だって分かる。なのに、どうして虐めるの? 殺されないといけないの?
指から青い血があふれ出した。むき出しになった神経を傷つけるように、銀色の剣が抉ってくる。悲鳴を上げるたび、攻撃はひどくなった。しゃくり上げながら、僕はもう一度だけ願った。
――助けて、魔王様。僕はあなたほど強くないけど……。
「ふむ。俺を呼んだのは、お前か」
聞こえたのは人間の言葉じゃない。怖いけど勇気を振り絞って目を向けた先……黒い布の塊みたいな人がいた。頭まですっぽり何かを被っている。
「助けて」
言葉が通じるなら、同じ魔族だよね。そう思って必死で話しかけたら、人影はにやりと笑った。顔は見えないのに、確かにそう感じたんだ。
「幼子の助けを無視するほど、俺は薄情ではないぞ。よかろう」
黒い人は群れの長より偉そうに、僕を見て頷いた。
重くて痛い。じわっと涙が滲んだ。地面にぶつけた額や鼻が痛いの。でも動いたらいけない気がした。すごく怖い。
『見つけたぞ、薄汚い魔物の分際で……忍び込むとはどういう了見だ』
違うよ。忍び込んだんじゃない。勝手に呼ばれたんだ。僕だって来たくなかった。じわっと涙が滲む。さっきまでお母さんと一緒にいたのに、いきなり知らない場所に呼び出されて、無理やり引きずられた。帰りたいだけなのに、捕まって殺されちゃうの?
シャラン、綺麗な音だけど金属の匂いがする。前に巣へ攻撃してきた人間の武器かな。あれで切られると痛いんだ。お父さんの傷はすぐ治らなかった。
「お母さん、お父さん! 誰か、助けて!! 魔王様!!」
全力で鳴いた。僕の命が消える前に、誰か助けに来てよ。僕の全部をあげるから助けて。魔王様は伝説の人で、この世界にはもういない。僕達魔族にとっては、いつも助けてくれる凄い人だった。人間が僕らを傷つけないよう戦って、守って、殺されてしまった人。
咄嗟に叫んだ言葉に魔力を載せた僕は、疲れて倒れ込む。誰かを傷つける魔法なんて知らない。だからこれが精いっぱいの抵抗だった。首に冷たい何かが触れて、ぐっと拳を握る。人間は僕らの言葉が分からないから、彼らに助けを求めようと思わなかった。
お母さん、ごめんね。お父さんも……。謝ってきゅっと唇を噛む。痛いのが一瞬で終わるといいな。嬲り殺された魔物を見たことがある。死体になっていたけど、あちこち刻まれていて……あんな死に方は嫌だ。
『死ね、薄汚い魔物が』
『おいおい、簡単に殺すなよ』
『そうだ。吊るして……』
怖い言葉がいくつも聞こえて、もう一度叫んでいた。
「助けて、僕が死んじゃう! 魔王様!!」
危ない時、神様を呼ぶのは人間も同じ。咄嗟に出た声に深い意味はなかった。首から離れた冷たい金属が、僕の指先に触れる。ひっこめたいけど、首を踏まれて動けなかった。どうしよう、怖い。震えながら見上げた人間は、黒い影になっていた。
彼らの後ろに丸い月が浮いている。照らす光が人間を黒く抜き出した。ざくっ! 指が切れる。
「痛いっ、痛いよ、お母さん……痛いぃ、お父さん……」
必死で呼んでも聞こえないけど、涙がボロボロ零れた。離してよ、僕は何も悪いことしていない。人間を襲ってないし、ちゃんと言葉だって分かる。なのに、どうして虐めるの? 殺されないといけないの?
指から青い血があふれ出した。むき出しになった神経を傷つけるように、銀色の剣が抉ってくる。悲鳴を上げるたび、攻撃はひどくなった。しゃくり上げながら、僕はもう一度だけ願った。
――助けて、魔王様。僕はあなたほど強くないけど……。
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「幼子の助けを無視するほど、俺は薄情ではないぞ。よかろう」
黒い人は群れの長より偉そうに、僕を見て頷いた。
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