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56.目が見えなくなっちゃう
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先日食べたのと同じ馬を、ベル様が捕まえてきた。でも今回は生きている。四本脚の馬の背中は、ベル様の肩と同じくらいある。やっぱり大きかった。馬の背中にベル様が飛び乗る。ひらりと簡単そうだった。先に乗せてもらった僕も、馬の背中に座る。
掛け声はなくて、ベル様が足で合図をしたら歩き出す。高い位置から見る景色は、いつもより遠く小さく感じた。びっくりするくらい揺れる。お父さんの背中で飛ぶときの方が揺れないかも。ぺたりとベル様のお腹に張り付いた。ベル様の左手は、馬の長い髪の毛を掴んでいる。
「馬の髪の毛、痛くないの?」
「ああ、これは髪に見えるが鬣だ。引いても髪ほど痛くないはずだぞ」
知らなかった。長い髪の毛だと思ったのに違うのか。それに表面の肌もつやつやに見えて、実際は短い毛がびっしり生えていた。離れて見るのと、触れるのでは全然違う。馬は少し速くなった。左右にカタコト揺れていたのが、前後に動き始める。
ベル様は慣れた感じで平気そうだけど、僕は無理。落ちないようにしっかりベル様に抱き着く。ベル様も右腕で僕を強く抱っこした。魔法で包むから落ちることはないと教えてもらったけど、やっぱり揺れると怖い。きゅっと服を掴んだ手を緩めるのは無理だった。
森の木にぶつからないで走る馬は、時々岩や茂みを飛び越える。上下にも揺れるので、空を飛んでるみたいな感じだ。
「楽しいね!」
「気をつけろ、舌を噛むぞ」
慌てて口を閉じる。舌の先を噛むと、ご飯の時に痛い。普段ももちろん痛いし、口付けもできなくなりそう。ぴょんと飛んだ馬の背で、僕がふわりと浮いた。ベル様の服を掴んだ手に力が入る。しっかりと逞しい腕が僕を掴まえて、ぎゅっと抱き寄せてくれた。
変な臭いがする。お魚みたいな感じ。くんと鼻を引くつかせた。森の木が低くなっていく。葉っぱもさっきまでと違うから、景色が変わった。
ざっと強い風が葉を揺らし、僕はまた届いた臭いを吸い込んだ。やっぱりお魚の匂いだ。少し古くなった感じだけど、お魚が落ちてるのかな。
「ほら、見てみろ。ウェパル」
ぱっと明るくなった。森を抜けた先は、斜めに地面が傾いている。低くなった先に水が押し寄せていた。さっきまでの臭いが強くなり、こてりと首を傾げる。
「あの水の臭い?」
「ああ、潮の香りだ。初めてか?」
「うん。知らない」
何かが擦れるような音と、青い大きい水たまり。ずっと水は動いていて、お魚くさい。あと、なぜかベタベタする。頭を撫でたベル様が馬を促した。素直に斜面を降りていく。
水の近くで、馬とさようならした。森の方へ帰っていく馬に手を振り、僕は水と向き合う。この水、僕の方へ寄ってくる。さっと逃げて、また追いかけて。繰り返していたら、突然僕は水を被っていた。
「べ、ベル様っ! 目が……」
痛い、見えない、どうしよう。涙が出てくる。びっくりして両手で目を押さえた僕は、すてんと尻餅をついた。足とお尻の下から、砂が逃げていく。
「水で顔を洗おう」
「やだ、この水は痛い」
泣きながら首を横に振る。少し目を開けたけど、痛くてまた閉じた。どうしよう、目が見えなくなっちゃった。ぬるっと何かが目の縁に触れる。温かくて、痛くない。数回繰り返され、隙間から外を見た。まだ痛いけど、さっきほどじゃない。
「綺麗な水で洗えば治る。ほら」
僕を抱き上げたベル様は、左手に透明な水を出した。それをぺろりと舐めて、いつもの水だと安心する。手を洗ってから顔も洗った。目のそばも何度も洗う。
「見えるようになったか?」
「……うん」
すごく怖かった。ぎゅっと抱き付いた僕はひんやりして、そこで気づく。ベル様も濡れちゃった!
掛け声はなくて、ベル様が足で合図をしたら歩き出す。高い位置から見る景色は、いつもより遠く小さく感じた。びっくりするくらい揺れる。お父さんの背中で飛ぶときの方が揺れないかも。ぺたりとベル様のお腹に張り付いた。ベル様の左手は、馬の長い髪の毛を掴んでいる。
「馬の髪の毛、痛くないの?」
「ああ、これは髪に見えるが鬣だ。引いても髪ほど痛くないはずだぞ」
知らなかった。長い髪の毛だと思ったのに違うのか。それに表面の肌もつやつやに見えて、実際は短い毛がびっしり生えていた。離れて見るのと、触れるのでは全然違う。馬は少し速くなった。左右にカタコト揺れていたのが、前後に動き始める。
ベル様は慣れた感じで平気そうだけど、僕は無理。落ちないようにしっかりベル様に抱き着く。ベル様も右腕で僕を強く抱っこした。魔法で包むから落ちることはないと教えてもらったけど、やっぱり揺れると怖い。きゅっと服を掴んだ手を緩めるのは無理だった。
森の木にぶつからないで走る馬は、時々岩や茂みを飛び越える。上下にも揺れるので、空を飛んでるみたいな感じだ。
「楽しいね!」
「気をつけろ、舌を噛むぞ」
慌てて口を閉じる。舌の先を噛むと、ご飯の時に痛い。普段ももちろん痛いし、口付けもできなくなりそう。ぴょんと飛んだ馬の背で、僕がふわりと浮いた。ベル様の服を掴んだ手に力が入る。しっかりと逞しい腕が僕を掴まえて、ぎゅっと抱き寄せてくれた。
変な臭いがする。お魚みたいな感じ。くんと鼻を引くつかせた。森の木が低くなっていく。葉っぱもさっきまでと違うから、景色が変わった。
ざっと強い風が葉を揺らし、僕はまた届いた臭いを吸い込んだ。やっぱりお魚の匂いだ。少し古くなった感じだけど、お魚が落ちてるのかな。
「ほら、見てみろ。ウェパル」
ぱっと明るくなった。森を抜けた先は、斜めに地面が傾いている。低くなった先に水が押し寄せていた。さっきまでの臭いが強くなり、こてりと首を傾げる。
「あの水の臭い?」
「ああ、潮の香りだ。初めてか?」
「うん。知らない」
何かが擦れるような音と、青い大きい水たまり。ずっと水は動いていて、お魚くさい。あと、なぜかベタベタする。頭を撫でたベル様が馬を促した。素直に斜面を降りていく。
水の近くで、馬とさようならした。森の方へ帰っていく馬に手を振り、僕は水と向き合う。この水、僕の方へ寄ってくる。さっと逃げて、また追いかけて。繰り返していたら、突然僕は水を被っていた。
「べ、ベル様っ! 目が……」
痛い、見えない、どうしよう。涙が出てくる。びっくりして両手で目を押さえた僕は、すてんと尻餅をついた。足とお尻の下から、砂が逃げていく。
「水で顔を洗おう」
「やだ、この水は痛い」
泣きながら首を横に振る。少し目を開けたけど、痛くてまた閉じた。どうしよう、目が見えなくなっちゃった。ぬるっと何かが目の縁に触れる。温かくて、痛くない。数回繰り返され、隙間から外を見た。まだ痛いけど、さっきほどじゃない。
「綺麗な水で洗えば治る。ほら」
僕を抱き上げたベル様は、左手に透明な水を出した。それをぺろりと舐めて、いつもの水だと安心する。手を洗ってから顔も洗った。目のそばも何度も洗う。
「見えるようになったか?」
「……うん」
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