12 / 109
本編
第10話 そんなお話聞いておりません
しおりを挟む
咎める響きにびくりと肩を揺らしましたが、カルメン嬢は開き直ったように再び言い返します。その気の強さは見事ですけれど、この場では悪手ではないかしら。印象が悪くなるだけですわ。そうですね、私でしたら扇で顔を隠して泣いたフリを……あら、扇をお持ちではないのですか。
「だって、おかしいじゃない! ちゃんとシナリオ通りにクロード様を手に入れたのに、エミリオ様はあたしを振るし、『攻略対象』のロベルト様やカリスト様も冷たいなんてぇ! 絶対に、あんたが何かしたのよぉ!!」
「え? リオ兄様にも言い寄ったの?」
思わず漏れた言葉に、兄の婚約者であるフランカが教えてくれました。付き纏われて困ると相談を受け、フランカと協力して追い払ったと。
仲の良さを見せつけ、お前など嫌いだと言い放ったリオ兄様の武勇伝を聞き、私の眉尻が少し下がりました。感情豊かな私にフランカが苦笑いしております。
「いやですわ、教えてくださったらよかったのに」
簡単な協力くらい出来ましてよ? 除け者にされた気分で呟く私の尖らせた唇を、フランカの絹の手袋がそっと押しました。ふわりと柔らかな感触に続いて、涼やかな心地よい香りがします。
「リオのお願いだったの。大切な妹を心配させたくなかったのでしょうね」
リオ兄様の気遣いは嬉しいけれど、私だけ知らないなんて。それだけでなく、ロベルト様やカリスト様にも言い寄ったというではありませんか。ロベルト様は宰相閣下のご子息で、カリスト様のお父様は騎士団を纏める将軍職に就いておられます。
深く考えるまでもなく、権力者の跡取りに言い寄ったと発言したのですもの。
玉の輿狙い――最初からそういうつもりなのでしょう。カルメン嬢の出自に興味もありませんが、上位貴族の令嬢である可能性はゼロですわ。庶子という可能性も皆無です。たとえ愛玩動物であっても、ここまで野放しで無礼な生き物を育てる貴族はいないのですから。
多数の相手と同時に付き合うのは、未婚であってもふしだらな行為とされ、嫌悪される対象でした。ほとんどの貴族子女は幼い頃に婚約者を決め、それ以外の相手と付き合うことはありません。婚約者のいる男女が、別の異性と密室で2人きりになることも眉を顰められるのが常識でした。
カルメン嬢が口にされるシナリオや攻略対象の意味はわかりませんが、彼女の振る舞いがこの国で嫌悪される類である事実は揺るぎません。
「クロード様以外もクリアしたかったのに! どぉして反応がないのぉ? 『逆ハーエンド』にならない! 私はちゃんと、シナリオ通りにしたのにぃ」
叫びながら近くにあったテーブルの上のグラスを叩き落とす。カルメン嬢の品がない八つ当たりに、侍女や侍従が困惑顔で王子を見つめました。止めて欲しいのでしょうが、彼女の言葉に衝撃を受けた様子のクラウディオ王子は動きませんでした。完全に固まっているみたい。
あのひと、突発的な出来事に弱かったですね。あれで帝王学や王族教育を受けたと言い張るのです。よほど教師が酷い授業をなさったか、上手に手を抜いたのでしょう。本当に夫にならなくてよかった。
他国の王族相手にこんな騒動起こされましたら、いくら私でもフォローしきれません。
「ロベルト様、カリスト様。どちらもお似合いの婚約者がいらっしゃるのに」
靡かなかったと名を出されても、正直、迷惑でしかないでしょう。
あの方々はリオ兄様と同じ年だったかしら。思い浮かべながら視線を彷徨わせれば、婚約者と腕を組んだお二人が顔を顰めておりました。
当然の反応、と周囲も同情の視線を向けます。互いの婚約者にすでに話が通っているみたいですね。腕を組んだ婚約者に対し、彼女達は詰め寄る様子を見せません。
そう考えると、リオ兄様がフランカに事前に話を通したのも当然でしょうか。あのような痴女と知り合いだなんて勘違いされては腹立たしい上、著しく名誉を傷つけられるのですから。誤解の種は撒かれる前に回収、が貴族外交の鉄則ですもの。
「だって、おかしいじゃない! ちゃんとシナリオ通りにクロード様を手に入れたのに、エミリオ様はあたしを振るし、『攻略対象』のロベルト様やカリスト様も冷たいなんてぇ! 絶対に、あんたが何かしたのよぉ!!」
「え? リオ兄様にも言い寄ったの?」
思わず漏れた言葉に、兄の婚約者であるフランカが教えてくれました。付き纏われて困ると相談を受け、フランカと協力して追い払ったと。
仲の良さを見せつけ、お前など嫌いだと言い放ったリオ兄様の武勇伝を聞き、私の眉尻が少し下がりました。感情豊かな私にフランカが苦笑いしております。
「いやですわ、教えてくださったらよかったのに」
簡単な協力くらい出来ましてよ? 除け者にされた気分で呟く私の尖らせた唇を、フランカの絹の手袋がそっと押しました。ふわりと柔らかな感触に続いて、涼やかな心地よい香りがします。
「リオのお願いだったの。大切な妹を心配させたくなかったのでしょうね」
リオ兄様の気遣いは嬉しいけれど、私だけ知らないなんて。それだけでなく、ロベルト様やカリスト様にも言い寄ったというではありませんか。ロベルト様は宰相閣下のご子息で、カリスト様のお父様は騎士団を纏める将軍職に就いておられます。
深く考えるまでもなく、権力者の跡取りに言い寄ったと発言したのですもの。
玉の輿狙い――最初からそういうつもりなのでしょう。カルメン嬢の出自に興味もありませんが、上位貴族の令嬢である可能性はゼロですわ。庶子という可能性も皆無です。たとえ愛玩動物であっても、ここまで野放しで無礼な生き物を育てる貴族はいないのですから。
多数の相手と同時に付き合うのは、未婚であってもふしだらな行為とされ、嫌悪される対象でした。ほとんどの貴族子女は幼い頃に婚約者を決め、それ以外の相手と付き合うことはありません。婚約者のいる男女が、別の異性と密室で2人きりになることも眉を顰められるのが常識でした。
カルメン嬢が口にされるシナリオや攻略対象の意味はわかりませんが、彼女の振る舞いがこの国で嫌悪される類である事実は揺るぎません。
「クロード様以外もクリアしたかったのに! どぉして反応がないのぉ? 『逆ハーエンド』にならない! 私はちゃんと、シナリオ通りにしたのにぃ」
叫びながら近くにあったテーブルの上のグラスを叩き落とす。カルメン嬢の品がない八つ当たりに、侍女や侍従が困惑顔で王子を見つめました。止めて欲しいのでしょうが、彼女の言葉に衝撃を受けた様子のクラウディオ王子は動きませんでした。完全に固まっているみたい。
あのひと、突発的な出来事に弱かったですね。あれで帝王学や王族教育を受けたと言い張るのです。よほど教師が酷い授業をなさったか、上手に手を抜いたのでしょう。本当に夫にならなくてよかった。
他国の王族相手にこんな騒動起こされましたら、いくら私でもフォローしきれません。
「ロベルト様、カリスト様。どちらもお似合いの婚約者がいらっしゃるのに」
靡かなかったと名を出されても、正直、迷惑でしかないでしょう。
あの方々はリオ兄様と同じ年だったかしら。思い浮かべながら視線を彷徨わせれば、婚約者と腕を組んだお二人が顔を顰めておりました。
当然の反応、と周囲も同情の視線を向けます。互いの婚約者にすでに話が通っているみたいですね。腕を組んだ婚約者に対し、彼女達は詰め寄る様子を見せません。
そう考えると、リオ兄様がフランカに事前に話を通したのも当然でしょうか。あのような痴女と知り合いだなんて勘違いされては腹立たしい上、著しく名誉を傷つけられるのですから。誤解の種は撒かれる前に回収、が貴族外交の鉄則ですもの。
107
あなたにおすすめの小説
罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です
結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】
私には婚約中の王子がいた。
ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。
そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。
次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。
目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。
名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。
※他サイトでも投稿中
死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。
乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。
唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。
だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。
プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。
「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」
唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。
──はずだった。
目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。
逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。
【完結】悪役令嬢の断罪から始まるモブ令嬢の復讐劇
夜桜 舞
恋愛
「私がどんなに頑張っても……やっぱり駄目だった」
その日、乙女ゲームの悪役令嬢、「レイナ・ファリアム」は絶望した。転生者である彼女は、前世の記憶を駆使して、なんとか自身の断罪を回避しようとしたが、全て無駄だった。しょせんは悪役令嬢。ゲームの絶対的勝者であるはずのヒロインに勝てるはずがない。自身が断罪する運命は変えられず、婚約者……いや、”元”婚約者である「デイファン・テリアム」に婚約破棄と国外追放を命じられる。みんな、誰一人としてレイナを庇ってはくれず、レイナに冷たい視線を向けていた。そして、国外追放のための馬車に乗り込むと、馬車の中に隠れていた何者かによって……レイナは殺害されてしまった。
「なぜ、レイナが……あの子は何も悪くないのに!!」
彼女の死に唯一嘆いたものは、家族以上にレイナを知る存在……レイナの親友であり、幼馴染でもある、侯爵令嬢、「ヴィル・テイラン」であった。ヴィルは親友のレイナにすら教えていなかったが、自身も前世の記憶を所持しており、自身がゲームのモブであるということも知っていた。
「これまでは物語のモブで、でしゃばるのはよくないと思い、見て見ぬふりをしていましたが……こればかりは見過ごせません!!」
そして、彼女は決意した。レイナの死は、見て見ぬふりをしてきた自身もにも非がある。だからこそ、彼女の代わりに、彼女への罪滅ぼしのために、彼女を虐げてきた者たちに復讐するのだ、と。これは、悪役令嬢の断罪から始まる、モブ令嬢の復讐劇である。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
悪役令嬢は間違えない
スノウ
恋愛
王太子の婚約者候補として横暴に振る舞ってきた公爵令嬢のジゼット。
その行動はだんだんエスカレートしていき、ついには癒しの聖女であるリリーという少女を害したことで王太子から断罪され、公開処刑を言い渡される。
処刑までの牢獄での暮らしは劣悪なもので、ジゼットのプライドはズタズタにされ、彼女は生きる希望を失ってしまう。
処刑当日、ジゼットの従者だったダリルが助けに来てくれたものの、看守に見つかり、脱獄は叶わなかった。
しかし、ジゼットは唯一自分を助けようとしてくれたダリルの行動に涙を流し、彼への感謝を胸に断頭台に上がった。
そして、ジゼットの処刑は執行された……はずだった。
ジゼットが気がつくと、彼女が9歳だった時まで時間が巻き戻っていた。
ジゼットは決意する。
次は絶対に間違えない。
処刑なんかされずに、寿命をまっとうしてみせる。
そして、唯一自分を助けようとしてくれたダリルを大切にする、と。
────────────
毎日20時頃に投稿します。
お気に入り登録をしてくださった方、いいねをくださった方、エールをくださった方、どうもありがとうございます。
とても励みになります。
そちらがその気なら、こちらもそれなりに。
直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。
それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。
真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。
※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。
リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。
※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。
…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
★HOTランキング2位
★人気ランキング7位
たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*)
ありがとうございます!
婚約破棄される前に、帰らせていただきます!
パリパリかぷちーの
恋愛
ある日、マリス王国の侯爵令嬢クロナは、王子が男爵令嬢リリィと密会し、自分を「可愛げのない女」と罵り、卒業パーティーで「婚約破棄」を言い渡そうと画策している現場を目撃してしまう。
普通なら嘆き悲しむ場面だが、クロナの反応は違った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる