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本編
第13話 我が花嫁になんたる無作法か
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我が国の愚王子とは雲泥の差です。王族とは本来、貴族の見本になるべき存在。このくらい洗練された美しさと気高さがあれば、敬意も自然と集まったでしょうに。
「テュフォン様!」
必死に追いかけたと全身で物語る父の姿は、汗が伝うものの紳士らしさを維持しています。襟のボタンを一つ外しただけで、公爵の体面を保つぎりぎりの姿でした。
「なんだ、騒がしいぞ。ベクトル」
不機嫌そうに眉をひそめたのは、目の前の美丈夫です。この国で、メレンデス公爵である父の名を呼び捨てる者は、伯母様だけですのに。国王陛下であっても呼び捨てにする権利はありません。
まだお若いですが威厳もありますし、近隣国の国王陛下でしょうか。
「テュフォン様とおっしゃるのですね。庇っていただき……」
「そいつは誰だ! お前は浮気していたのかっ!!」
突然の罵声に言葉を遮られ、苛立ちの滲む鋭い眼差しで睨みつけておりました。元から目元がきつい美人系と評される私です。切り裂くような視線に、王子がびくりと怯えて肩を揺らしました。
この馬鹿は、何のつもりで私の言葉を遮ったのかしら? もう婚約者ではないのです。初対面の方に対して「浮気していた」ですって? 浮気したのはそちらでしょう。王族の品位どころか、人としての常識まで捨ててしまわれたのね。
「クラウディオ殿、私はすでにあなたの婚約者ではございませんわ。初対面にも関わらず、そこの無礼な女から公爵令嬢たる私を守ってくださった紳士に対し、なんという侮辱を口になさるのですか。これがセブリオン家の礼儀とは……なんと嘆かわしい」
嘆いて周囲に訴えれば、貴族たちが一斉に非難の口を開きました。私の言葉に含まれた棘に気づいたフランシスカが「すっごい嫌味」と楽しそうに笑います。息子を目の前で貶された伯母様も、「あらあら」と緩んだ口元をさりげなく扇で覆ってしまわれました。
もう王太子殿下とは認めません。セブリオン家を王家と呼ぶことはないですし、敬称も最低限で構わないでしょう。
強烈な嫌味を込めた私の発言は、すこしばかり僭越かも知れません。ですが皆様にはご理解いただけたでしょう。
先に礼を失したのは、あちらなのですから。
「……我が花嫁に何たる無作法か」
舌打ちしたテュフォン様から思いがけない単語が聞こえました。花嫁、ですか? どこかに婚約者の方がいらっしゃったのね。でしたら、あまり近づいては失礼ですわ。
助けていただいたことに感謝し、一礼して離れようとしました。数歩下がろうとした私の腕を、彼の腕が押し留めます。
大きな手のひらが、優しく手首に添えられる。握るほど強くなく、しかし止める意思は伝わってきました。
この場に残れと示された理由が分からず、首をかしげて視線を合わせます。
「テュフォン様?」
「なぜ離れる」
不機嫌そうに告げられ、困惑してしまいました。
だって、婚約者がいらっしゃる方の隣に立つのは失礼な行為ですわ。誘惑したと誤解されても困ります。
婚約者の方を泣かせてしまうでしょう?
「俺を無視するなっ!!」
叫んだ王子にもう二言三言は叱りつけるつもりで振り返って、言葉を失いました。儀礼用に腰に下げた剣を抜き放っています。
ぎらりと銀の光が目を射抜く。射竦められたように固まり、体が動かなくなって……。
「テュフォン様! ティファ」
「短慮に過ぎますぞ」
兄と父が間に立つが、クラウディオ王子は剣を収めようとしません。
迷ったのは僅か、リオ兄様の手が左へ差し出されました。左利きの兄へ、近くにいた騎士が歩み寄って剣を預けます。膝をついて捧げられた剣の柄に手をかけたところで、テュフォン様が矢面に立たれました。
「テュフォン様!」
必死に追いかけたと全身で物語る父の姿は、汗が伝うものの紳士らしさを維持しています。襟のボタンを一つ外しただけで、公爵の体面を保つぎりぎりの姿でした。
「なんだ、騒がしいぞ。ベクトル」
不機嫌そうに眉をひそめたのは、目の前の美丈夫です。この国で、メレンデス公爵である父の名を呼び捨てる者は、伯母様だけですのに。国王陛下であっても呼び捨てにする権利はありません。
まだお若いですが威厳もありますし、近隣国の国王陛下でしょうか。
「テュフォン様とおっしゃるのですね。庇っていただき……」
「そいつは誰だ! お前は浮気していたのかっ!!」
突然の罵声に言葉を遮られ、苛立ちの滲む鋭い眼差しで睨みつけておりました。元から目元がきつい美人系と評される私です。切り裂くような視線に、王子がびくりと怯えて肩を揺らしました。
この馬鹿は、何のつもりで私の言葉を遮ったのかしら? もう婚約者ではないのです。初対面の方に対して「浮気していた」ですって? 浮気したのはそちらでしょう。王族の品位どころか、人としての常識まで捨ててしまわれたのね。
「クラウディオ殿、私はすでにあなたの婚約者ではございませんわ。初対面にも関わらず、そこの無礼な女から公爵令嬢たる私を守ってくださった紳士に対し、なんという侮辱を口になさるのですか。これがセブリオン家の礼儀とは……なんと嘆かわしい」
嘆いて周囲に訴えれば、貴族たちが一斉に非難の口を開きました。私の言葉に含まれた棘に気づいたフランシスカが「すっごい嫌味」と楽しそうに笑います。息子を目の前で貶された伯母様も、「あらあら」と緩んだ口元をさりげなく扇で覆ってしまわれました。
もう王太子殿下とは認めません。セブリオン家を王家と呼ぶことはないですし、敬称も最低限で構わないでしょう。
強烈な嫌味を込めた私の発言は、すこしばかり僭越かも知れません。ですが皆様にはご理解いただけたでしょう。
先に礼を失したのは、あちらなのですから。
「……我が花嫁に何たる無作法か」
舌打ちしたテュフォン様から思いがけない単語が聞こえました。花嫁、ですか? どこかに婚約者の方がいらっしゃったのね。でしたら、あまり近づいては失礼ですわ。
助けていただいたことに感謝し、一礼して離れようとしました。数歩下がろうとした私の腕を、彼の腕が押し留めます。
大きな手のひらが、優しく手首に添えられる。握るほど強くなく、しかし止める意思は伝わってきました。
この場に残れと示された理由が分からず、首をかしげて視線を合わせます。
「テュフォン様?」
「なぜ離れる」
不機嫌そうに告げられ、困惑してしまいました。
だって、婚約者がいらっしゃる方の隣に立つのは失礼な行為ですわ。誘惑したと誤解されても困ります。
婚約者の方を泣かせてしまうでしょう?
「俺を無視するなっ!!」
叫んだ王子にもう二言三言は叱りつけるつもりで振り返って、言葉を失いました。儀礼用に腰に下げた剣を抜き放っています。
ぎらりと銀の光が目を射抜く。射竦められたように固まり、体が動かなくなって……。
「テュフォン様! ティファ」
「短慮に過ぎますぞ」
兄と父が間に立つが、クラウディオ王子は剣を収めようとしません。
迷ったのは僅か、リオ兄様の手が左へ差し出されました。左利きの兄へ、近くにいた騎士が歩み寄って剣を預けます。膝をついて捧げられた剣の柄に手をかけたところで、テュフォン様が矢面に立たれました。
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