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本編
第24話 見捨てたくありません
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隣に腰掛けたテュフォン様が伸ばした手で、再び私を膝に乗せようとなさいます。その手を扇の先でつついて止めさせていただきました。
「なぜだ?」
「みだりに触れてはいけませんわ。腰を抱き寄せるくらいになさいませ」
「……人間はルールが多くて面倒くさい」
奇妙な文句を口になさり、テュフォン様は腕を腰に回しました。撫でまわすような動きをしないあたりは、とても評価できます。
それにしても手のひらが大きいのね。胼胝があってごつごつ硬くて、やはり戦う方の手は違いますわ。ただ楽をしてきた、どこぞの元王子とは大違いです。
扉の前に立つ騎士が応対する声が聞こえる。どなたか、こちらに面会を希望されたのかしら。貴族家ではないでしょうね。まだ騒動が落ち着いていませんから。
ぼんやりと考えながら顔を向けると、広間側の扉から入室許可を求めたのは、愛らしい王女様方でした。私より年下の、妹のような存在ですが……伯母様との仲はよくありません。
「どうか、私達もお連れください」
ガラスの鈴を揺らすような心地よい声に、穏やかな声が重なりました。国王の血を強く引く赤毛の王女様です。泣きそうな顔で懇願する王女様に、伯母様は静かに返しました。
「あなたは他家の娘でしょう? 連れ帰ることはできません」
己が産んだ娘に対するには、とても冷たい言葉でした。私は母娘の間に何があったのか知りません。伯母はずっと己の子供に愛情を注ぎませんでした。その分姪の私を愛してくださったけれど、冷たすぎるのではないかしら。
母と呼ぶことすら許さないほど、己の娘を突き放す伯母様のお考えは理解に苦しみます。がくりと崩れ落ちた王女カサンドラ様へ、妹王女リアンドラ様が駆け寄りました。
「無理よ、お姉様。王妃様はメレンデス公爵家の姫ですもの」
「カサンドラ様、リアンドラ様。よいお呪いを教えますわ」
従姉妹姫達の置かれた状況に、同情が先に立ちました。伯母様が助けなくても、私が手を差し伸べない理由にはなりませんもの。これから没落の一途を辿る王家の姫が、生き残るための最後の呪文ですわ。
私と王女様方は仲良く過ごしてきました。義妹として接してきたお二人が、不幸になればいいとは思えません。
王子クラウディオは別ですが、王女様方はいつも私を「お姉様」と呼び慕ってくれました。私も実の姉妹のように接してきたつもりです。
伯母様が王女様達を遠ざけ、厳しい教育を施した理由は聞いていませんけれど……時々寂しそうに目で追っていたのは気づいておりましたのよ。
愛していない男の子供でも、腹を痛めて産んだ我が子を厭うような方ではありませんわ。なにかあるのでしょうね、私がまだ知らない事実が……。もう王家も崩壊するのですから、伯母様も近いうちに話してくださるはずよ。
「エステファニア姫様、兄の非礼をお詫びします」
「遅くなり申し訳ございません。兄はあの女に狂わされたのでしょう。代わってお詫びいたします」
厳しいマナー教師に教わったお二人のカーテシーは見事で、さすがは伯母様のご息女と感嘆の息が漏れました。あの王子に欠けている常識も含め、一国の王女として申し分ございません。
腕を解かれたテュフォン様は不満そうですが、待てをさせましょう。未来の夫の躾は私の役目ですもの。最初に甘い顔をしたら、犬も飼い主を侮ると聞きます。いえ、別に彼を犬扱いしたわけではありませんわ。
にっこり笑ってテュフォン様の口を指で押さえると、嬉しそうに揺れる尻尾の幻が見えますが、気のせいですね。
可愛い王女様方を手招いて、扇の陰でこそりと短い言葉を教えました。驚いた顔をなさって「それだけで?」と尋ねます。そうですわ、それだけですの。
笑顔で頷き、保証しました。淑女の礼をしていそいそと玉座のある広間へ向かわれるお二人を見送ります。あなた方の勇気が報われますように。祈るように視線で追いました。
2つ下のカサンドラ王女様、3つ下のリアンドラ王女様は素直に育っておられます。伯母様に似た美しい外見もさることながら、他者を貶めることのない内面も素晴らしいものでした。同じ親から生まれ、どうして婚約者だったクラウディオだけがおかしいのでしょうか。
「なぜだ?」
「みだりに触れてはいけませんわ。腰を抱き寄せるくらいになさいませ」
「……人間はルールが多くて面倒くさい」
奇妙な文句を口になさり、テュフォン様は腕を腰に回しました。撫でまわすような動きをしないあたりは、とても評価できます。
それにしても手のひらが大きいのね。胼胝があってごつごつ硬くて、やはり戦う方の手は違いますわ。ただ楽をしてきた、どこぞの元王子とは大違いです。
扉の前に立つ騎士が応対する声が聞こえる。どなたか、こちらに面会を希望されたのかしら。貴族家ではないでしょうね。まだ騒動が落ち着いていませんから。
ぼんやりと考えながら顔を向けると、広間側の扉から入室許可を求めたのは、愛らしい王女様方でした。私より年下の、妹のような存在ですが……伯母様との仲はよくありません。
「どうか、私達もお連れください」
ガラスの鈴を揺らすような心地よい声に、穏やかな声が重なりました。国王の血を強く引く赤毛の王女様です。泣きそうな顔で懇願する王女様に、伯母様は静かに返しました。
「あなたは他家の娘でしょう? 連れ帰ることはできません」
己が産んだ娘に対するには、とても冷たい言葉でした。私は母娘の間に何があったのか知りません。伯母はずっと己の子供に愛情を注ぎませんでした。その分姪の私を愛してくださったけれど、冷たすぎるのではないかしら。
母と呼ぶことすら許さないほど、己の娘を突き放す伯母様のお考えは理解に苦しみます。がくりと崩れ落ちた王女カサンドラ様へ、妹王女リアンドラ様が駆け寄りました。
「無理よ、お姉様。王妃様はメレンデス公爵家の姫ですもの」
「カサンドラ様、リアンドラ様。よいお呪いを教えますわ」
従姉妹姫達の置かれた状況に、同情が先に立ちました。伯母様が助けなくても、私が手を差し伸べない理由にはなりませんもの。これから没落の一途を辿る王家の姫が、生き残るための最後の呪文ですわ。
私と王女様方は仲良く過ごしてきました。義妹として接してきたお二人が、不幸になればいいとは思えません。
王子クラウディオは別ですが、王女様方はいつも私を「お姉様」と呼び慕ってくれました。私も実の姉妹のように接してきたつもりです。
伯母様が王女様達を遠ざけ、厳しい教育を施した理由は聞いていませんけれど……時々寂しそうに目で追っていたのは気づいておりましたのよ。
愛していない男の子供でも、腹を痛めて産んだ我が子を厭うような方ではありませんわ。なにかあるのでしょうね、私がまだ知らない事実が……。もう王家も崩壊するのですから、伯母様も近いうちに話してくださるはずよ。
「エステファニア姫様、兄の非礼をお詫びします」
「遅くなり申し訳ございません。兄はあの女に狂わされたのでしょう。代わってお詫びいたします」
厳しいマナー教師に教わったお二人のカーテシーは見事で、さすがは伯母様のご息女と感嘆の息が漏れました。あの王子に欠けている常識も含め、一国の王女として申し分ございません。
腕を解かれたテュフォン様は不満そうですが、待てをさせましょう。未来の夫の躾は私の役目ですもの。最初に甘い顔をしたら、犬も飼い主を侮ると聞きます。いえ、別に彼を犬扱いしたわけではありませんわ。
にっこり笑ってテュフォン様の口を指で押さえると、嬉しそうに揺れる尻尾の幻が見えますが、気のせいですね。
可愛い王女様方を手招いて、扇の陰でこそりと短い言葉を教えました。驚いた顔をなさって「それだけで?」と尋ねます。そうですわ、それだけですの。
笑顔で頷き、保証しました。淑女の礼をしていそいそと玉座のある広間へ向かわれるお二人を見送ります。あなた方の勇気が報われますように。祈るように視線で追いました。
2つ下のカサンドラ王女様、3つ下のリアンドラ王女様は素直に育っておられます。伯母様に似た美しい外見もさることながら、他者を貶めることのない内面も素晴らしいものでした。同じ親から生まれ、どうして婚約者だったクラウディオだけがおかしいのでしょうか。
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