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本編
第49話 あの悪戯は私よ(2)
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「羨ましい、私はお父様にダメと言われたの」
マナーもダンスも勉強も頑張るとお願いしたのに、手が届かなかった日記。どんな想いで代々の乙女が嫁いでいったのか。他に恋人はいなかったのかしら? 国王陛下と恋をなさった方はいらしたのか。知りたいのです。
零れた本音に、リオ兄様の穏やかな声が降ってきました。
「目に優しいことばかり綴られてるわけじゃない。父上はティファの心を心配なさったんだ。今と違って、王家に嫁ぐ未来しかなかったから」
濁した部分で気づきました。死にたくなるほどつらい体験を書いた乙女がいたのでは? と。それを知っていたお父様は、私に読ませたくなかった。未来に絶望するだけですもの。
「……ティファを愛しているから、読ませたくなかったのね」
フランカの声は震えていました。何かを知っているのかしら。多少なり、リオ兄様から聞いたのかもしれないわ。ごろんと転がって、リオ兄様の腕に頭を乗せました。
柔らかな銀髪に絡む兄の指に、そっと手を絡めて。
「いまなら読ませてくださるかしら。私ね、テユ様のところにお嫁に行くでしょう? だから未来は変わったの。竜の乙女であった方々の無念も、伝えていきたいわ」
「ああ、父上に相談しよう」
リオ兄様の声も指も、震えている気がしました。でもルールだから顔を見たりしないわ。いつも大変なお願いばかりする妹だけど、これからもよろしくね。ぎゅっと絡めた指を握ると、兄のひんやりした指が握り返してくれました。
「ティファは何か隠してないの?」
話題を変えるように、ことさら明るい声でフランカが尋ねてきます。うーんと考えてみて、思い出した悪戯を白状しました。
「実は……リオ兄様のお部屋のインク瓶の色を入れ替えたの」
「あっ! やっぱりティファだったのか」
うふふと笑います。いつもサインに使う濃紺のインクを、紫色にしたわ。書いてみて驚いたでしょうね。その時のお顔をぜひ拝見したかったわ。そう呟くと、額にぺちっと軽く指先が当たりました。
「この悪戯娘! 何かやり返してやるぞ」
お化けが来るぞ。みたいに言われても、リオ兄様の悪戯は可愛いんですもの。私のお部屋の人形の向きを変えたり、お洋服の順番を入れ替えてあったり。他愛もなくて、ともすれば気づかないようなものばかり。
「閃いたわ。ティファの子供の頃を、竜帝陛下に話してしまうのはどう?」
「いいな!」
「ダメよ、絶対にダメ!」
ルール無視でごろごろと転げまわり、幼い頃のように笑い合いました。
お父様は今頃、婚約の承諾を届けてくださったかしら。あんなに喜ばれると思わなかったけれど、テユ様は受け取った頃? それとも……。
屋敷の侍女達の騒ぐ声が聞こえ、羽音が聞こえました。
あら、駆け付けてきちゃったみたい。出迎えに身だしなみを整えながら、フランカと忍び笑います。やだ、せっかちな人ね。
「賭けは私の勝ちよ、明日のおやつはフランカが用意するんですからね」
日付が変わるまでに駆け付けるか否か。フランカが答えを譲ってくれたのは、きっとお祝いね。だって2人して「今日中」を選んでるんですもの。
駆け込んでくる慌ただしい足音に顔を見合わせて、あの方が私を抱きしめに来る瞬間を待ちました。
マナーもダンスも勉強も頑張るとお願いしたのに、手が届かなかった日記。どんな想いで代々の乙女が嫁いでいったのか。他に恋人はいなかったのかしら? 国王陛下と恋をなさった方はいらしたのか。知りたいのです。
零れた本音に、リオ兄様の穏やかな声が降ってきました。
「目に優しいことばかり綴られてるわけじゃない。父上はティファの心を心配なさったんだ。今と違って、王家に嫁ぐ未来しかなかったから」
濁した部分で気づきました。死にたくなるほどつらい体験を書いた乙女がいたのでは? と。それを知っていたお父様は、私に読ませたくなかった。未来に絶望するだけですもの。
「……ティファを愛しているから、読ませたくなかったのね」
フランカの声は震えていました。何かを知っているのかしら。多少なり、リオ兄様から聞いたのかもしれないわ。ごろんと転がって、リオ兄様の腕に頭を乗せました。
柔らかな銀髪に絡む兄の指に、そっと手を絡めて。
「いまなら読ませてくださるかしら。私ね、テユ様のところにお嫁に行くでしょう? だから未来は変わったの。竜の乙女であった方々の無念も、伝えていきたいわ」
「ああ、父上に相談しよう」
リオ兄様の声も指も、震えている気がしました。でもルールだから顔を見たりしないわ。いつも大変なお願いばかりする妹だけど、これからもよろしくね。ぎゅっと絡めた指を握ると、兄のひんやりした指が握り返してくれました。
「ティファは何か隠してないの?」
話題を変えるように、ことさら明るい声でフランカが尋ねてきます。うーんと考えてみて、思い出した悪戯を白状しました。
「実は……リオ兄様のお部屋のインク瓶の色を入れ替えたの」
「あっ! やっぱりティファだったのか」
うふふと笑います。いつもサインに使う濃紺のインクを、紫色にしたわ。書いてみて驚いたでしょうね。その時のお顔をぜひ拝見したかったわ。そう呟くと、額にぺちっと軽く指先が当たりました。
「この悪戯娘! 何かやり返してやるぞ」
お化けが来るぞ。みたいに言われても、リオ兄様の悪戯は可愛いんですもの。私のお部屋の人形の向きを変えたり、お洋服の順番を入れ替えてあったり。他愛もなくて、ともすれば気づかないようなものばかり。
「閃いたわ。ティファの子供の頃を、竜帝陛下に話してしまうのはどう?」
「いいな!」
「ダメよ、絶対にダメ!」
ルール無視でごろごろと転げまわり、幼い頃のように笑い合いました。
お父様は今頃、婚約の承諾を届けてくださったかしら。あんなに喜ばれると思わなかったけれど、テユ様は受け取った頃? それとも……。
屋敷の侍女達の騒ぐ声が聞こえ、羽音が聞こえました。
あら、駆け付けてきちゃったみたい。出迎えに身だしなみを整えながら、フランカと忍び笑います。やだ、せっかちな人ね。
「賭けは私の勝ちよ、明日のおやつはフランカが用意するんですからね」
日付が変わるまでに駆け付けるか否か。フランカが答えを譲ってくれたのは、きっとお祝いね。だって2人して「今日中」を選んでるんですもの。
駆け込んでくる慌ただしい足音に顔を見合わせて、あの方が私を抱きしめに来る瞬間を待ちました。
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