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本編
第52話 ルイシーナ(2)(竜の乙女の日記より)
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「なんて、ことを!」
悲鳴をあげたルイシーナの前に、王太子と数人の男たちが現れる。男たちの纏う近衛騎士の紺の制服は黒く濁っていた。それが大量の返り血によるものだと気づいたのは護衛の騎士達くらいだろう。侍女に抱きかかえられたルイシーナを守る騎士達は健闘したが、2人だけで数十人の騎士を倒すことはできなかった。
囲まれて剣で全身を貫かれ、守れないことを詫びながら死んでいく。生き返らせる術など、誰も持たないのに……人命は簡単に失われた。震えるルイシーナ近づいた王太子ビクトリノは、血に濡れた手で彼女の淡い金髪を掴む。
「お前の間男は死んだ。逃げるのならば、父と兄も殺してやろう」
信じられない言葉に首を横に振ると、大量の死体が塔の窓から投げ捨てられた。落とされる人体はすべて赤く濡れ、ぐしゃりと嫌な音を立てて地面に黒いシミを残す。その中に見覚えのある柔らかなブラウンの髪を見つけ、ルイシーナは這いずって近づいた。
「お嬢様、いけません! うっ!!」
事情を察した侍女が止めようと手を伸ばすが、彼女は言葉の途中で息を詰めて倒れる。背中から胸に向かって突き立てたビクトリノの刃が、幼馴染の侍女を貫いた。
「アイダ! なぜ」
「この女も手引きした一味だ。処罰は必要じゃないか」
にやりと笑った男から遠ざかるために必死で逃げた先、ついた手に何かが刺さった。
それはブローチだった。恋人であるトリスタンへ贈った、ルイシーナのプレゼントだ。形が歪み、赤黒く汚れていても見間違えるはずがなかった。ずっと左胸に着けてくれていたはず……。ならば指先に触れるブラウンの髪は、あの人の? 愛しい人の……。
「いやぁあああああ!」
考えることが出来ず、涙と一緒に溢れた声を迸らせた。喉が傷つき声が出なくなるまで悲鳴を上げたあと、ルイシーナは壊れてしまう。何も考えられない、ただの人形としてなった。
父や兄を守りたい思い、恋人トリスタンを殺された悲しみと口惜しさ、こんな卑怯な男に身を任せなければならない不幸、味方である幼馴染の侍女アイダも失い――当代の竜の乙女は自我を放棄したのだ。竜の乙女の舞を昨年済ませていたため、彼女は形ばかりの婚姻を行ったあと後宮へ押し込まれた。
メレディアス公爵家は取り潰しとなるが、その後、竜の乙女の伝説が途絶えるという理由で「メレンデス公爵家」として復興した。狂ってしまったルイシーナは仇であるビクトリノの子を3人産み落として死んだ。
――これが新たな呪いの始まりである。
悲鳴をあげたルイシーナの前に、王太子と数人の男たちが現れる。男たちの纏う近衛騎士の紺の制服は黒く濁っていた。それが大量の返り血によるものだと気づいたのは護衛の騎士達くらいだろう。侍女に抱きかかえられたルイシーナを守る騎士達は健闘したが、2人だけで数十人の騎士を倒すことはできなかった。
囲まれて剣で全身を貫かれ、守れないことを詫びながら死んでいく。生き返らせる術など、誰も持たないのに……人命は簡単に失われた。震えるルイシーナ近づいた王太子ビクトリノは、血に濡れた手で彼女の淡い金髪を掴む。
「お前の間男は死んだ。逃げるのならば、父と兄も殺してやろう」
信じられない言葉に首を横に振ると、大量の死体が塔の窓から投げ捨てられた。落とされる人体はすべて赤く濡れ、ぐしゃりと嫌な音を立てて地面に黒いシミを残す。その中に見覚えのある柔らかなブラウンの髪を見つけ、ルイシーナは這いずって近づいた。
「お嬢様、いけません! うっ!!」
事情を察した侍女が止めようと手を伸ばすが、彼女は言葉の途中で息を詰めて倒れる。背中から胸に向かって突き立てたビクトリノの刃が、幼馴染の侍女を貫いた。
「アイダ! なぜ」
「この女も手引きした一味だ。処罰は必要じゃないか」
にやりと笑った男から遠ざかるために必死で逃げた先、ついた手に何かが刺さった。
それはブローチだった。恋人であるトリスタンへ贈った、ルイシーナのプレゼントだ。形が歪み、赤黒く汚れていても見間違えるはずがなかった。ずっと左胸に着けてくれていたはず……。ならば指先に触れるブラウンの髪は、あの人の? 愛しい人の……。
「いやぁあああああ!」
考えることが出来ず、涙と一緒に溢れた声を迸らせた。喉が傷つき声が出なくなるまで悲鳴を上げたあと、ルイシーナは壊れてしまう。何も考えられない、ただの人形としてなった。
父や兄を守りたい思い、恋人トリスタンを殺された悲しみと口惜しさ、こんな卑怯な男に身を任せなければならない不幸、味方である幼馴染の侍女アイダも失い――当代の竜の乙女は自我を放棄したのだ。竜の乙女の舞を昨年済ませていたため、彼女は形ばかりの婚姻を行ったあと後宮へ押し込まれた。
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――これが新たな呪いの始まりである。
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