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本編
第57話 全滅ではありませんのね
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見上げた空は残念ながら曇り空、降ってこないだけマシなのかしら。
実家の屋敷でお茶会をする私は、アデライダ伯母様が注いでくださった紅茶を口に運びます。香りのいい茶葉に、少しだけミルクと蜂蜜を混ぜました。贅沢な味ですね。
この庭で『未婚のメレンデス公爵令嬢』として最後のお茶会です。フランカは初挑戦の焼き菓子を持ってきてくれました。
「真っ黒になるのはどうしてかしら」
文句を言いながら自分の失敗作に手をつけないあたり、彼女らしいわ。苦いけれど、食べられなくはないの。悪いけど、私も味見の1枚以降は手が伸びませんでした。
逆に好評だったのは、カサンドラ様のスコーンです。お手製だというけれど、お料理の才能があるんじゃないかしら。
「カサンドラ様は多才ね」
「私は敵わないわ」
褒める私に続いて、残念な焼き菓子を睨むフランカを慰めます。自分で焼いて持ってきたのだから、そんなに睨んでもしょうがないでしょう? 目つきが悪くなりますよ。
「初挑戦なら、上出来じゃない」
「……本当は5回焼き直して、一番マシなのを持ってきたの」
昨日は一日中、厨房にいたのかしら。それで不貞腐れているのね。私より年上なのに、感情表現が素直で子供っぽいところは、彼女の魅力のひとつよ。リオ兄様もフランカのこういう部分は好ましく感じておられると思うわ。
リアンドラ様はジャムをご用意くださいました。こちらは木苺かしら。カサンドラ様のスコーンとよく合いますわ。褒めると、リアンドラ様は複雑そうに真相を切り出しました。
「実は……料理は旦那様の方がお上手なの。私は隣で言われた物を用意するだけ」
恥ずかしそうに言われ、アデライダ伯母様が吹き出しました。
「やだわ。私に似たのかしら」
伯母様も先日失敗したばかり。お野菜の牛乳煮込みがなぜか紫色に変色して、大騒ぎになったの。あの日は主菜なしでパンをいただいたけど、いい思い出になりました。今までなら料理人が作ってくれたから、そんな失敗なかったもの。
侍女のお洗濯も、掃除も、料理人の苦労も、貴族階級の私達は知らなかった。これから徐々に覚えていくつもりよ。幸いにして竜帝陛下は豪華な王宮を作らなかったから、掃除くらいは私でも出来るわ。花瓶を割らないようにしないとね。
「ティファお姉様は何か作られないの?」
リアンドラ様の素朴な疑問に、私は落ち着いて返しました。
「時間が出来たら作ってみたいけれど」
「厨房の掃除が大変だからやめて! って止められたのよ、この子」
スマートに逃げたのに、アデライダ伯母様が台無しにしました。暴露しなくてもよいではありませんか! 誰にだって不得意のひとつくらいあるものですわ。
「完璧なご令嬢の、ティファお姉さまでも……ダメなの?」
リアンドラ様の呟きの直後、全員の視線がカサンドラ様に集まりました。突然注目されて、カサンドラ様は挙動不審になります。おどおどした彼女に、羨望の眼差しが突き刺さるのは当然でしょう。
「まさか、カサンドラだけお料理が出来るなんて」
「全滅だったら諦めがついたのよ、私も」
アデライダ伯母様とフランカの愚痴に、私は声を立てて笑っていました。以前は無作法扱いでしたけれど、今は誰も窮屈なマナーに見向きもしないから平気。涙が出るほど笑って、もう一度空を見上げます。
雲の一部が切れて、空から光が降りてくるのが見えます。御伽噺の中で、新しい竜が生まれる吉兆なのだと描かれていました。
「見て、竜光だわ」
「吉兆ね。明日の結婚式はさぞ盛り上がるでしょう」
「何色のドレスにしたの?」
「私は薄い青にしたわ」
「ワインレッドは背伸びし過ぎかしら」
女が3人寄れば姦しいんだからと笑うフランカ。お茶会はそれぞれの確執や壁を取り払って、賑やかになっていきます。夕飯の時間を告げに来た侍女が呆れるほど、私達は羽目を外して盛り上がりました。
明日は晴れますように。
実家の屋敷でお茶会をする私は、アデライダ伯母様が注いでくださった紅茶を口に運びます。香りのいい茶葉に、少しだけミルクと蜂蜜を混ぜました。贅沢な味ですね。
この庭で『未婚のメレンデス公爵令嬢』として最後のお茶会です。フランカは初挑戦の焼き菓子を持ってきてくれました。
「真っ黒になるのはどうしてかしら」
文句を言いながら自分の失敗作に手をつけないあたり、彼女らしいわ。苦いけれど、食べられなくはないの。悪いけど、私も味見の1枚以降は手が伸びませんでした。
逆に好評だったのは、カサンドラ様のスコーンです。お手製だというけれど、お料理の才能があるんじゃないかしら。
「カサンドラ様は多才ね」
「私は敵わないわ」
褒める私に続いて、残念な焼き菓子を睨むフランカを慰めます。自分で焼いて持ってきたのだから、そんなに睨んでもしょうがないでしょう? 目つきが悪くなりますよ。
「初挑戦なら、上出来じゃない」
「……本当は5回焼き直して、一番マシなのを持ってきたの」
昨日は一日中、厨房にいたのかしら。それで不貞腐れているのね。私より年上なのに、感情表現が素直で子供っぽいところは、彼女の魅力のひとつよ。リオ兄様もフランカのこういう部分は好ましく感じておられると思うわ。
リアンドラ様はジャムをご用意くださいました。こちらは木苺かしら。カサンドラ様のスコーンとよく合いますわ。褒めると、リアンドラ様は複雑そうに真相を切り出しました。
「実は……料理は旦那様の方がお上手なの。私は隣で言われた物を用意するだけ」
恥ずかしそうに言われ、アデライダ伯母様が吹き出しました。
「やだわ。私に似たのかしら」
伯母様も先日失敗したばかり。お野菜の牛乳煮込みがなぜか紫色に変色して、大騒ぎになったの。あの日は主菜なしでパンをいただいたけど、いい思い出になりました。今までなら料理人が作ってくれたから、そんな失敗なかったもの。
侍女のお洗濯も、掃除も、料理人の苦労も、貴族階級の私達は知らなかった。これから徐々に覚えていくつもりよ。幸いにして竜帝陛下は豪華な王宮を作らなかったから、掃除くらいは私でも出来るわ。花瓶を割らないようにしないとね。
「ティファお姉様は何か作られないの?」
リアンドラ様の素朴な疑問に、私は落ち着いて返しました。
「時間が出来たら作ってみたいけれど」
「厨房の掃除が大変だからやめて! って止められたのよ、この子」
スマートに逃げたのに、アデライダ伯母様が台無しにしました。暴露しなくてもよいではありませんか! 誰にだって不得意のひとつくらいあるものですわ。
「完璧なご令嬢の、ティファお姉さまでも……ダメなの?」
リアンドラ様の呟きの直後、全員の視線がカサンドラ様に集まりました。突然注目されて、カサンドラ様は挙動不審になります。おどおどした彼女に、羨望の眼差しが突き刺さるのは当然でしょう。
「まさか、カサンドラだけお料理が出来るなんて」
「全滅だったら諦めがついたのよ、私も」
アデライダ伯母様とフランカの愚痴に、私は声を立てて笑っていました。以前は無作法扱いでしたけれど、今は誰も窮屈なマナーに見向きもしないから平気。涙が出るほど笑って、もう一度空を見上げます。
雲の一部が切れて、空から光が降りてくるのが見えます。御伽噺の中で、新しい竜が生まれる吉兆なのだと描かれていました。
「見て、竜光だわ」
「吉兆ね。明日の結婚式はさぞ盛り上がるでしょう」
「何色のドレスにしたの?」
「私は薄い青にしたわ」
「ワインレッドは背伸びし過ぎかしら」
女が3人寄れば姦しいんだからと笑うフランカ。お茶会はそれぞれの確執や壁を取り払って、賑やかになっていきます。夕飯の時間を告げに来た侍女が呆れるほど、私達は羽目を外して盛り上がりました。
明日は晴れますように。
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