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58 密告
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一度目覚めたフェリチアーノだが、高熱と疲労、そして何より破落戸に襲撃されセザールが亡くなった事で受けた精神的なダメージで、テオドールに泣きついてから再び眠りについていた。
外傷がなかった事は喜ばしい事だが、内に出来た傷はどれ程深い物だろうか。
悪夢でも見ているのか、時折魘され、涙するフェリチアーノの側からテオドールは離れなかった。
フェリチアーノはそれからも時折、短時間だけ目覚めては再び長く眠ると言う事を繰り返した。目覚めた時にテオドールが見当たらないと、カタカタと体を震わせ怯える様子がなんとも痛ましかった。それだけ衝撃が大きかったと言う事だろう。
デュシャン家に送った訃報を報せる手紙の返信は、何とも言えない気分にさせる物だった。
一見悲しむ様子の内容なのだが、言葉の端々から違和感を感じずには居られない。そして大袈裟なくらいフェリチアーノの事を心配する様な事も書かれていた。
普通であれば親なのだから心配して当然だろうと納得はするが、フェリチアーノから話を聞いていて、尚且つ実際に見た事のあるあの人々が本当に心からその手紙を書いているのかと言う疑問も湧き上がる。
そんな疑問を抱えながら、テオドールは数日の間をフェリチアーノの隣で過ごしていた。
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「お客様がいらしております」
「客?」
「フェリチアーノ様の継母であるカサンドラ様です」
不愉快そうに歪んでいたロイズの表情に呼応する様に、テオドールの顔も何故継母がこんな所まで来るのだと顔を顰めた。
「なんでも殿下に至急伝える事があるだとか」
一体何を伝えられると言うのか、言い知れぬ不快感を抱きながら、テオドールは会っていた方が良いだろうと追い返す事はしなかった。
暫く側を離れる事に不安はある。フェリチアーノが起きた時に不安がらない様にと、ヴィンスを部屋に入れ何かあれば直ぐに報告する様に告げてから、カサンドラが待つ部屋へと足を向けた。
部屋に入ればキョロキョロと調度品を品定めしているカサンドラがいた。控えているメイド達は皆一様に顔には出さずに不快感を表している。そしてテオドールもその姿を見て不愉快そうに眉を顰めたのだった。
仮にも自身の家の家令が亡くなり、義理と言えども息子が寝込んでいると言うのに、カサンドラは下品極まりない格好をしていた。
露出も激しく、しかしゴテゴテしているドレスは美的感覚を疑う程アンバランスであり、化粧はケバケバしい。臭いのキツイ香水を頭から被っているのかと言う程に纏い、息をするにも一苦労だ。
王族に会いに来た、と言うに相応しい身だしなみではない。ミネルヴァの茶会での時に遠目で見たデュシャン家の格好も皆似たり寄ったりの下品さだったなと思い出し、これが常日頃からなのかとテオドールは更に眉を顰めた。
こんな空間に長時間居られるかとロイズに窓を開ける様に耳打ちすると、挨拶もそこそこにテオドールは直ぐに用件を言う様にカサンドラへ促した。
「我が息子は本当に幸せ者ですわね、こんな素敵な場所で素敵な殿下と一緒に居られるのですから」
「それで、用件はなんだ?」
「そんな殿下の幸せを奪おうとする者達が居る事をお伝えしに来たのですわ」
何とも傲慢さが滲み出る物言いでテオドールにそう言ったカサンドラは、勿体ぶりながら、今回の破落戸の襲撃が執事であるシルヴァンが、家令の地位が欲しいが為に画策した事だった事。そしてその二人がフェリチアーノの命すら狙っている事。それらをまるで役者の様に大袈裟にテオドールに語って聞かせた。
「それで、フェリチアーノに毒を盛っていると?」
「そうでございます殿下。アレが好きな茶葉をご存知ですか? その茶葉と一緒にジャムを入れて飲みますでしょう? それで毒になるから証拠は残らないのだと彼等は自信満々に語っておりましたのよ!」
そのカサンドラの言葉に、テオドールの背後で控えていたロイズは僅かに目を見開いた。以前茶葉を疑い調べたが結局何も出ず、それに対してフェリチアーノは納得しない反応をしていたが、成る程それはいくら調べようとも何も出ないはずだと、妙に感心してしまった。
「アレの命は長くないのだとか」
その言葉に僅かにテオドールは動揺した。事も無げに言い放つカサンドラからはやはりフェリチアーノを心配する様な事を僅かに口にしても、真実そう思っているとはとても思えない物だ。
襲撃や毒云々と言われ滑稽な作り話だと一蹴する事もできた。しかし、命が長くないと言われ、フェリチアーノが倒れた事を思い出す。それはただ単に体が強く無いのだと思っていたが、それが毒に侵されていたせいだったとしたらどうだろうか。
全てが嘘とも思えず、フェリチアーノをどうして狙うのかと疑問も出てくる。これは徹底的に調べなければと、テオドールは今だに陽気に話すカサンドラを見ながら考えていた。
「それで、貴女は何故夫と執事を売る様な真似をするんだ?」
「私は殿下に有益な情報をもたらしましたわ。夫と執事はいかようにしていただいて構いません。王宮に居る優秀な医者達に見せれば、アレの毒を取り除かれ、死ぬ事を逃れられるかも知れません。そして褒美として、私と子供達を見逃して欲しいのですわ」
それを聞いたテオドールは、怒りに震えた。なんと傲慢で身勝手なのだろうか。自身の身の安全の為に夫をそして執事を差し出すとは。
確かに情報は有益だ。これがどれ程の精度のある情報かは未だ疑わしいが、調べる事は出来る。
カサンドラは要求を伝え終えると、何処か誇らし気にしていた。その姿に嫌悪感が募るも、こんな時王太子である兄フェルナンドはどの様に振る舞っていたかと、素早く頭を回した。
怒りに任せて事を急く事は良くない事だとフェルナンドは言っていた。そして情報源や協力者は上手く確保する物だとも。
テオドールは同時にミリアの言葉も思い出す。狡賢く強かに生きろと、そう言われたのはついこの間だ。
今回の事もそうだが、やはりフェリチアーノの周りに不穏な空気が漂っている。意識を根底から変えなければ、フェリチアーノを守れはしないとこの時強くテオドールは感じていた。
外傷がなかった事は喜ばしい事だが、内に出来た傷はどれ程深い物だろうか。
悪夢でも見ているのか、時折魘され、涙するフェリチアーノの側からテオドールは離れなかった。
フェリチアーノはそれからも時折、短時間だけ目覚めては再び長く眠ると言う事を繰り返した。目覚めた時にテオドールが見当たらないと、カタカタと体を震わせ怯える様子がなんとも痛ましかった。それだけ衝撃が大きかったと言う事だろう。
デュシャン家に送った訃報を報せる手紙の返信は、何とも言えない気分にさせる物だった。
一見悲しむ様子の内容なのだが、言葉の端々から違和感を感じずには居られない。そして大袈裟なくらいフェリチアーノの事を心配する様な事も書かれていた。
普通であれば親なのだから心配して当然だろうと納得はするが、フェリチアーノから話を聞いていて、尚且つ実際に見た事のあるあの人々が本当に心からその手紙を書いているのかと言う疑問も湧き上がる。
そんな疑問を抱えながら、テオドールは数日の間をフェリチアーノの隣で過ごしていた。
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ?」
「お客様がいらしております」
「客?」
「フェリチアーノ様の継母であるカサンドラ様です」
不愉快そうに歪んでいたロイズの表情に呼応する様に、テオドールの顔も何故継母がこんな所まで来るのだと顔を顰めた。
「なんでも殿下に至急伝える事があるだとか」
一体何を伝えられると言うのか、言い知れぬ不快感を抱きながら、テオドールは会っていた方が良いだろうと追い返す事はしなかった。
暫く側を離れる事に不安はある。フェリチアーノが起きた時に不安がらない様にと、ヴィンスを部屋に入れ何かあれば直ぐに報告する様に告げてから、カサンドラが待つ部屋へと足を向けた。
部屋に入ればキョロキョロと調度品を品定めしているカサンドラがいた。控えているメイド達は皆一様に顔には出さずに不快感を表している。そしてテオドールもその姿を見て不愉快そうに眉を顰めたのだった。
仮にも自身の家の家令が亡くなり、義理と言えども息子が寝込んでいると言うのに、カサンドラは下品極まりない格好をしていた。
露出も激しく、しかしゴテゴテしているドレスは美的感覚を疑う程アンバランスであり、化粧はケバケバしい。臭いのキツイ香水を頭から被っているのかと言う程に纏い、息をするにも一苦労だ。
王族に会いに来た、と言うに相応しい身だしなみではない。ミネルヴァの茶会での時に遠目で見たデュシャン家の格好も皆似たり寄ったりの下品さだったなと思い出し、これが常日頃からなのかとテオドールは更に眉を顰めた。
こんな空間に長時間居られるかとロイズに窓を開ける様に耳打ちすると、挨拶もそこそこにテオドールは直ぐに用件を言う様にカサンドラへ促した。
「我が息子は本当に幸せ者ですわね、こんな素敵な場所で素敵な殿下と一緒に居られるのですから」
「それで、用件はなんだ?」
「そんな殿下の幸せを奪おうとする者達が居る事をお伝えしに来たのですわ」
何とも傲慢さが滲み出る物言いでテオドールにそう言ったカサンドラは、勿体ぶりながら、今回の破落戸の襲撃が執事であるシルヴァンが、家令の地位が欲しいが為に画策した事だった事。そしてその二人がフェリチアーノの命すら狙っている事。それらをまるで役者の様に大袈裟にテオドールに語って聞かせた。
「それで、フェリチアーノに毒を盛っていると?」
「そうでございます殿下。アレが好きな茶葉をご存知ですか? その茶葉と一緒にジャムを入れて飲みますでしょう? それで毒になるから証拠は残らないのだと彼等は自信満々に語っておりましたのよ!」
そのカサンドラの言葉に、テオドールの背後で控えていたロイズは僅かに目を見開いた。以前茶葉を疑い調べたが結局何も出ず、それに対してフェリチアーノは納得しない反応をしていたが、成る程それはいくら調べようとも何も出ないはずだと、妙に感心してしまった。
「アレの命は長くないのだとか」
その言葉に僅かにテオドールは動揺した。事も無げに言い放つカサンドラからはやはりフェリチアーノを心配する様な事を僅かに口にしても、真実そう思っているとはとても思えない物だ。
襲撃や毒云々と言われ滑稽な作り話だと一蹴する事もできた。しかし、命が長くないと言われ、フェリチアーノが倒れた事を思い出す。それはただ単に体が強く無いのだと思っていたが、それが毒に侵されていたせいだったとしたらどうだろうか。
全てが嘘とも思えず、フェリチアーノをどうして狙うのかと疑問も出てくる。これは徹底的に調べなければと、テオドールは今だに陽気に話すカサンドラを見ながら考えていた。
「それで、貴女は何故夫と執事を売る様な真似をするんだ?」
「私は殿下に有益な情報をもたらしましたわ。夫と執事はいかようにしていただいて構いません。王宮に居る優秀な医者達に見せれば、アレの毒を取り除かれ、死ぬ事を逃れられるかも知れません。そして褒美として、私と子供達を見逃して欲しいのですわ」
それを聞いたテオドールは、怒りに震えた。なんと傲慢で身勝手なのだろうか。自身の身の安全の為に夫をそして執事を差し出すとは。
確かに情報は有益だ。これがどれ程の精度のある情報かは未だ疑わしいが、調べる事は出来る。
カサンドラは要求を伝え終えると、何処か誇らし気にしていた。その姿に嫌悪感が募るも、こんな時王太子である兄フェルナンドはどの様に振る舞っていたかと、素早く頭を回した。
怒りに任せて事を急く事は良くない事だとフェルナンドは言っていた。そして情報源や協力者は上手く確保する物だとも。
テオドールは同時にミリアの言葉も思い出す。狡賢く強かに生きろと、そう言われたのはついこの間だ。
今回の事もそうだが、やはりフェリチアーノの周りに不穏な空気が漂っている。意識を根底から変えなければ、フェリチアーノを守れはしないとこの時強くテオドールは感じていた。
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