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60 父との対峙
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馬車を飛ばし大急ぎで王宮に戻った頃には夜もすっかりと更けていた。テオドールはフェリチアーノを自身の部屋に寝かせると、直ぐ様王宮医であるディッシャーに見せる様に伝え、自身はそのまま慌ただしくサライアス達がいる部屋へと乗り込んだ。
「なんだもう帰ってきたのか」
まるで待っていたかのように私室で寛ぐサライアスは、突然帰って来たテオドールに特段驚いた様子はなかった。
「誓約魔法の詳細を聞きました」
「成る程な。しかし今頃か、随分遅かったな?」
「父上!!」
「私に怒りを向けるのは違うだろう。最初に疑わなかったお前が悪いのだからな。それで、お前がここに来たのは何故だ? まさか私に怒りをぶつけるだけか?」
ギリギリと苦虫を噛み潰した様に憤るテオドールを、サライアスはグラスを傾けながら観察していた。
穏やかで優しい性格をしているテオドールは普段滅多に怒らない。ここまで感情を剥き出しにしながら怒気を撒き散らす様は初めてと言っても良いだろう。
良い傾向だと思いはするが、それだけではまだ足りない。
「フェリチアーノは命を狙われています、なので王宮で保護を――」
「ならん」
「何故ですか!!」
「彼はお前の恋人ではあるが、婚約者ではない。数日間留め置くのはまぁ良いだろう。しかし王家が表立って保護など出来ぬよ」
ぐっと喉を鳴らし、更に言葉を続けようとしたテオドールは出かかった言葉をすんでで止めた。沸騰し感情的に発しそうになる言葉を必死に抑え、考えを巡らす。
一番安全である王宮で保護出来ないとなると次はどこが安全か。テオドールはもうフェリチアーノをデュシャン家の屋敷に帰すつもりは無かった。
フェリチアーノを亡き者にしようとし、そしてその身包みを全て剥ぎ取り更に甘い汁を吸おうとする様な者達しかいない場所へと戻すなど、考えただけでも悍ましい。
「……ではミリア姉上の所で保護してもらいます。あそこは公爵家ですが姉上がいるお陰で守りは硬いですし」
「それは妥当だな。他には?」
まるでテオドールの出来を試す様にサライアスは続きを促す。その事にやはりフェリチアーノは教材として使われていたのだと改めて思い知り苦しくなるが、ここでしくじってしまってはフェリチアーノが捨て置かれてしまう可能性が高い。
フェリチアーノが如何に役立ち、これからもテオドールの側に置いておいても良いと判断される為には、テオドールがどれだけ立ち回れるかに掛かっているのだ。
そしてそれはフェリチアーノの命の期限にも直結する。
「フェリチアーノにデュシャン家の領地を返上させます。フェリチアーノは仕事に対して誠実過ぎますから、無理をしてでもやるでしょう。遅かれ早かれ返上する予定であったとロイズから聞きましたから、それが早まるだけです」
「彼はそれを納得するか? 爵位の返上の件はどうするのだ」
「納得させます。そして爵位は返上させません。……平民となった彼を父上は俺の隣に置く事は許さないでしょう?」
その答えを聞いてサライアスはニンマリと笑い、その通りだと言った。貴族社会では爵位の有無はとても大きい。
ここでテオドールが爵位すら返上させると言えば、ミリアの屋敷で保護をするという事すらも許可する事は出来なくなってしまう。
平民と貴族にはそれだけの壁があり、元貴族であっても一度平民としてしまえばその壁は越えられないのだ。ましてや王族の隣に居るなどもっての他である。
「デュシャン家の面々は、潰します。具体的な策は……浮かびませんが。爵位が自身に無いのに爵位持ちだと吹聴しているとロイズから聞きました。それを盾に偽証罪を適用出来るかとは思いますが……俺としてはそれだけでは気が済みません」
以前とは格段に違うテオドールに、サライアスは成長した息子を内心微笑ましく見ていた。以前までの可愛らしい子犬と言った風では無く、今目の前に居るのは番犬へと変わろうと必死で足掻く一人の男だ。
実際にフェリチアーノと恋仲になったのは想定外では無いものの、生きた教材として大いに役立っているフェリチアーノには感謝する気持ちがあった。
このまま死に追いやってしまっては、折角成長したテオドールが折れてしまう可能性も考え、サライアスは王宮医のディッシャーをそのまま主治医としてミリアの屋敷へ連れて行く許可を出した。
その事に何かまた裏でも有るのかと疑いの目を向けて来たテオドールに、サライアスは堪らず笑い出してしまった。
特に家族には疑うと言う事をして来なかったテオドールが、まさかそんな事もできる様になるとは。
父親の顔をしたサライアスは、立ち上がってテオドールの肩に手を置くと、その成長を喜ぶように軽く叩いた。
「上手く立ち回れテオドール。全てはお前の裁量に掛かっている」
「……父上」
「情けない顔をするな全く。表立って私が手を貸す事など出来ないからな。守りたいならお前が上手くやるしかない」
わしゃわしゃとテオドールの髪を撫でたサライアスは、満足そうに頷くと話は終わったとばかりにテオドールを部屋から追い出した。
サライアスとの対峙に緊張から解かれたテオドールは深いため息を吐くと、乱れた髪を手櫛で簡単に整えフェリチアーノが待つ自室へと戻った。
「なんだもう帰ってきたのか」
まるで待っていたかのように私室で寛ぐサライアスは、突然帰って来たテオドールに特段驚いた様子はなかった。
「誓約魔法の詳細を聞きました」
「成る程な。しかし今頃か、随分遅かったな?」
「父上!!」
「私に怒りを向けるのは違うだろう。最初に疑わなかったお前が悪いのだからな。それで、お前がここに来たのは何故だ? まさか私に怒りをぶつけるだけか?」
ギリギリと苦虫を噛み潰した様に憤るテオドールを、サライアスはグラスを傾けながら観察していた。
穏やかで優しい性格をしているテオドールは普段滅多に怒らない。ここまで感情を剥き出しにしながら怒気を撒き散らす様は初めてと言っても良いだろう。
良い傾向だと思いはするが、それだけではまだ足りない。
「フェリチアーノは命を狙われています、なので王宮で保護を――」
「ならん」
「何故ですか!!」
「彼はお前の恋人ではあるが、婚約者ではない。数日間留め置くのはまぁ良いだろう。しかし王家が表立って保護など出来ぬよ」
ぐっと喉を鳴らし、更に言葉を続けようとしたテオドールは出かかった言葉をすんでで止めた。沸騰し感情的に発しそうになる言葉を必死に抑え、考えを巡らす。
一番安全である王宮で保護出来ないとなると次はどこが安全か。テオドールはもうフェリチアーノをデュシャン家の屋敷に帰すつもりは無かった。
フェリチアーノを亡き者にしようとし、そしてその身包みを全て剥ぎ取り更に甘い汁を吸おうとする様な者達しかいない場所へと戻すなど、考えただけでも悍ましい。
「……ではミリア姉上の所で保護してもらいます。あそこは公爵家ですが姉上がいるお陰で守りは硬いですし」
「それは妥当だな。他には?」
まるでテオドールの出来を試す様にサライアスは続きを促す。その事にやはりフェリチアーノは教材として使われていたのだと改めて思い知り苦しくなるが、ここでしくじってしまってはフェリチアーノが捨て置かれてしまう可能性が高い。
フェリチアーノが如何に役立ち、これからもテオドールの側に置いておいても良いと判断される為には、テオドールがどれだけ立ち回れるかに掛かっているのだ。
そしてそれはフェリチアーノの命の期限にも直結する。
「フェリチアーノにデュシャン家の領地を返上させます。フェリチアーノは仕事に対して誠実過ぎますから、無理をしてでもやるでしょう。遅かれ早かれ返上する予定であったとロイズから聞きましたから、それが早まるだけです」
「彼はそれを納得するか? 爵位の返上の件はどうするのだ」
「納得させます。そして爵位は返上させません。……平民となった彼を父上は俺の隣に置く事は許さないでしょう?」
その答えを聞いてサライアスはニンマリと笑い、その通りだと言った。貴族社会では爵位の有無はとても大きい。
ここでテオドールが爵位すら返上させると言えば、ミリアの屋敷で保護をするという事すらも許可する事は出来なくなってしまう。
平民と貴族にはそれだけの壁があり、元貴族であっても一度平民としてしまえばその壁は越えられないのだ。ましてや王族の隣に居るなどもっての他である。
「デュシャン家の面々は、潰します。具体的な策は……浮かびませんが。爵位が自身に無いのに爵位持ちだと吹聴しているとロイズから聞きました。それを盾に偽証罪を適用出来るかとは思いますが……俺としてはそれだけでは気が済みません」
以前とは格段に違うテオドールに、サライアスは成長した息子を内心微笑ましく見ていた。以前までの可愛らしい子犬と言った風では無く、今目の前に居るのは番犬へと変わろうと必死で足掻く一人の男だ。
実際にフェリチアーノと恋仲になったのは想定外では無いものの、生きた教材として大いに役立っているフェリチアーノには感謝する気持ちがあった。
このまま死に追いやってしまっては、折角成長したテオドールが折れてしまう可能性も考え、サライアスは王宮医のディッシャーをそのまま主治医としてミリアの屋敷へ連れて行く許可を出した。
その事に何かまた裏でも有るのかと疑いの目を向けて来たテオドールに、サライアスは堪らず笑い出してしまった。
特に家族には疑うと言う事をして来なかったテオドールが、まさかそんな事もできる様になるとは。
父親の顔をしたサライアスは、立ち上がってテオドールの肩に手を置くと、その成長を喜ぶように軽く叩いた。
「上手く立ち回れテオドール。全てはお前の裁量に掛かっている」
「……父上」
「情けない顔をするな全く。表立って私が手を貸す事など出来ないからな。守りたいならお前が上手くやるしかない」
わしゃわしゃとテオドールの髪を撫でたサライアスは、満足そうに頷くと話は終わったとばかりにテオドールを部屋から追い出した。
サライアスとの対峙に緊張から解かれたテオドールは深いため息を吐くと、乱れた髪を手櫛で簡単に整えフェリチアーノが待つ自室へと戻った。
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