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79 アガット
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シャロンに焚き付けられるままに、フェリチアーノの元へと足を進める。自信満々と言った体のアガットに、シャロンは悪魔の様に囁いた。
「そう言えば今日身に付けていらっしゃる宝飾品も、確か殿下から頂いたお品だったわよね? 羨ましいわぁ」
そこでハッとしたアガットは、息をつめた。頭からすっかりと抜け落ちていたがアガットはテオドールとの面識など一度も無い。
そして宝飾品はそんなテオドールからの送り物だと散々周りに吹聴していたのだ。いつしかそれはアガットの中である程度の形を持った真実となっていて、実際にはフェリチアーノの部屋から盗んだ物だと言う事実を頭の隅に追いやっていた。
シャロンの囁くタイミングは最も最適で最悪な場面だったと言えるだろう。
周りに居るのはいつも鼻高々に自慢をしていた人達である。ここでテオドール達に話しかければ、アガットがテオドールと面識がなく、宝飾品が実は盗品だと言う事が白日の下に晒されてしまう。
アガットは今やドレスの下を冷や汗が流れ出て止まらない状況に陥っていた。何故こうなるまで気が付かなかったのか。考えるまでも無く理由は明確だ。
自慢すれば自慢するほど周りはアガットを誉めそやし、羨ましがった。それがどれ程高揚感をもたらし、虚栄心を満たしてくれていたか。それは真実を忘れさせるのに容易い事だった。
嘘で塗り固められ、吹けばすぐに崩れる様な城の砂で出来たアガットの虚言は、テオドールとフェリチアーノが居ない事で成り立つ物で、真実を知る二人が目の前に居れば当然それは脆く崩れ去り、アガットは嘲りの対象になるのは明らかだった。
それがわかっていながら、誰が彼等に近づこうと言うのか。キョロキョロと視線を忙しなく彷徨わせ必死に逃げ道を探すが、道化をいたぶり楽しもうとするシャロン達がそれを許すはずが無かった。
シャロン達に促され、けれども足を止める事も逃げ出す事も出来ずに、アガットはテオドールとフェリチアーノの近くまで来てしまう。
引き攣ったままの表情で、フェリチアーノを見上げたアガットはフェリチアーノがいつもの様に上手く察して話を合わせてくれる事だけを願った。
色とりどりのドレスが散らばる会場で、フェリチアーノ達はすぐにアガットを見つける事が出来ていた。
相も変わらずセンスの欠片も無い下品な恰好をするアガットは人がごった返す会場でも一際目立ち遠目からでもわかるのだ。
周りを令嬢達に取り囲まれ遊ばれているであろうアガットを、フェリチアーノはテオドールと共に周りに群がって来た人々と挨拶を交わしながら、視界の端で捉えていた。
「奇遇ねこんな場所で会うだなんて」
些か顔色を悪くし、引き攣った笑みを浮かべながら話しかけて来たアガットに、おや? とフェリチアーノは内心首を傾げた。
傲慢さと上から目線の物言いは変わらないのだが、どうにも違和感を感じるくらいには屋敷に居た時とは違うように感じたのだ。
何かあるのかと警戒心を内に隠し、スッと目を細めたフェリチアーノにアガットは気が付くはずも無かった。
「お久しぶりですね姉上」
「……えぇそうね、偶には帰っていらっしゃい。お父様もお母様も心配しているわ」
「本当にそうでしょうか」
「私を疑うと言うの? 生意気なっ」
思わず出てしまった言葉にアガットは続く言葉を素早く引っ込め、わざとらしく咳ばらいをして誤魔化した。
「お兄様が殿下に大層無礼を働いたと聞いたわ。デュシャン家の一員として謝らなければと思ったのよ」
アガットが謝るとはどういった風の吹き回しだろうかと、フェリチアーノは益々警戒を強めた。
周りを見ればシャロン達が嫌らしい目でアガットの行動を見ている事に気が付き、道化として遊ばれているのかと理解する。
おかしな言動は理解できたが、アガットの態度には腑に落ちるところが何処にも無かった。
本来のアガットであればフェリチアーノに対してこんな態度には出ない。何よりいつもならか胸を張り堂々としている彼女が、今は体を縮こませている様に見えるし、顎を上に向けツンと見下してくる様は変わらないが、その目の奥に懇願するような何かが見えた。
違和感しかないアガットを目の前に、何が原因かと思考を巡らしていると大ぶりのごてごてとしたブローチを、自慢するではなく扇子で隠す様にしている事に気が付き、漸くアガットの挙動がおかしい理由をフェリチアーノは理解した。
胸元に輝くブローチは、フェリチアーノが態々用意したダミーの宝飾品だ。それをテオドールからの送り物だと声高に吹聴している事は知っている。
それを身に着け、目の前に出てくるなど想像もしていなかったのだろう。この場でその嘘を暴いてやりたいと言う黒い心がフェリチアーノの中を侵食し始めた。
「そう言えば今日身に付けていらっしゃる宝飾品も、確か殿下から頂いたお品だったわよね? 羨ましいわぁ」
そこでハッとしたアガットは、息をつめた。頭からすっかりと抜け落ちていたがアガットはテオドールとの面識など一度も無い。
そして宝飾品はそんなテオドールからの送り物だと散々周りに吹聴していたのだ。いつしかそれはアガットの中である程度の形を持った真実となっていて、実際にはフェリチアーノの部屋から盗んだ物だと言う事実を頭の隅に追いやっていた。
シャロンの囁くタイミングは最も最適で最悪な場面だったと言えるだろう。
周りに居るのはいつも鼻高々に自慢をしていた人達である。ここでテオドール達に話しかければ、アガットがテオドールと面識がなく、宝飾品が実は盗品だと言う事が白日の下に晒されてしまう。
アガットは今やドレスの下を冷や汗が流れ出て止まらない状況に陥っていた。何故こうなるまで気が付かなかったのか。考えるまでも無く理由は明確だ。
自慢すれば自慢するほど周りはアガットを誉めそやし、羨ましがった。それがどれ程高揚感をもたらし、虚栄心を満たしてくれていたか。それは真実を忘れさせるのに容易い事だった。
嘘で塗り固められ、吹けばすぐに崩れる様な城の砂で出来たアガットの虚言は、テオドールとフェリチアーノが居ない事で成り立つ物で、真実を知る二人が目の前に居れば当然それは脆く崩れ去り、アガットは嘲りの対象になるのは明らかだった。
それがわかっていながら、誰が彼等に近づこうと言うのか。キョロキョロと視線を忙しなく彷徨わせ必死に逃げ道を探すが、道化をいたぶり楽しもうとするシャロン達がそれを許すはずが無かった。
シャロン達に促され、けれども足を止める事も逃げ出す事も出来ずに、アガットはテオドールとフェリチアーノの近くまで来てしまう。
引き攣ったままの表情で、フェリチアーノを見上げたアガットはフェリチアーノがいつもの様に上手く察して話を合わせてくれる事だけを願った。
色とりどりのドレスが散らばる会場で、フェリチアーノ達はすぐにアガットを見つける事が出来ていた。
相も変わらずセンスの欠片も無い下品な恰好をするアガットは人がごった返す会場でも一際目立ち遠目からでもわかるのだ。
周りを令嬢達に取り囲まれ遊ばれているであろうアガットを、フェリチアーノはテオドールと共に周りに群がって来た人々と挨拶を交わしながら、視界の端で捉えていた。
「奇遇ねこんな場所で会うだなんて」
些か顔色を悪くし、引き攣った笑みを浮かべながら話しかけて来たアガットに、おや? とフェリチアーノは内心首を傾げた。
傲慢さと上から目線の物言いは変わらないのだが、どうにも違和感を感じるくらいには屋敷に居た時とは違うように感じたのだ。
何かあるのかと警戒心を内に隠し、スッと目を細めたフェリチアーノにアガットは気が付くはずも無かった。
「お久しぶりですね姉上」
「……えぇそうね、偶には帰っていらっしゃい。お父様もお母様も心配しているわ」
「本当にそうでしょうか」
「私を疑うと言うの? 生意気なっ」
思わず出てしまった言葉にアガットは続く言葉を素早く引っ込め、わざとらしく咳ばらいをして誤魔化した。
「お兄様が殿下に大層無礼を働いたと聞いたわ。デュシャン家の一員として謝らなければと思ったのよ」
アガットが謝るとはどういった風の吹き回しだろうかと、フェリチアーノは益々警戒を強めた。
周りを見ればシャロン達が嫌らしい目でアガットの行動を見ている事に気が付き、道化として遊ばれているのかと理解する。
おかしな言動は理解できたが、アガットの態度には腑に落ちるところが何処にも無かった。
本来のアガットであればフェリチアーノに対してこんな態度には出ない。何よりいつもならか胸を張り堂々としている彼女が、今は体を縮こませている様に見えるし、顎を上に向けツンと見下してくる様は変わらないが、その目の奥に懇願するような何かが見えた。
違和感しかないアガットを目の前に、何が原因かと思考を巡らしていると大ぶりのごてごてとしたブローチを、自慢するではなく扇子で隠す様にしている事に気が付き、漸くアガットの挙動がおかしい理由をフェリチアーノは理解した。
胸元に輝くブローチは、フェリチアーノが態々用意したダミーの宝飾品だ。それをテオドールからの送り物だと声高に吹聴している事は知っている。
それを身に着け、目の前に出てくるなど想像もしていなかったのだろう。この場でその嘘を暴いてやりたいと言う黒い心がフェリチアーノの中を侵食し始めた。
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