公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月

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アリシアは思わず取った自分の行動に不敬罪という言葉がちらつき慌てた。

そしてそっと扉を開き中の様子を伺えば、うろついていたはずのオルフェウスが固まっていた。

ーー流石に今のはまずかったわよね?

アリシアは再び扉を閉めたい衝動にかられたが、今回はなんとか踏み止まった。

自分が不敬罪に処されたら家族にも使用人たちにも迷惑がかかる。

心臓をバクバクさせつつもすることは謝罪一択だ。

アリシアはすぐさま未だ固まっているオルフェウスに謝罪した。

が、なぜか数分待ってもオルフェウスは悲壮感を漂わせて全く反応を示してくれない。

ーーダメだわ…それならいっそ…!

アリシアは覚悟を決めた。

いや、正確には詰んでしまったことにより、今までの困惑や緊張、焦りなどがあらぬ方向に振り切れたのだ。

どうせ不敬罪で罪に処されるならこの際胸の内だけは吐き出そうと。

そしてスッキリしてから牢に入ろうと。

よく分からないが、極限状態がアリシアを随分斜め上の発想に導いたようだ。

アリシアは下げていた頭をグッと上げてオルフェウスに近付いた。

そしてオルフェウスの手をギュッと握り締めて口を開く。

「殿下!聞いてください!先程のことに言い訳は致しません!ただ不敬罪に処される前に殿下に私の気持ちを聞いていただきたいのです!!」

使用人たちはアリシアの行動と不敬罪という言葉にギョッとした。

アリシアの言うというのがまさか扉のことだとは思わず、アリシアが泣きながら帰宅した理由の何かだと思ったのだ。

こうなれば何が何でもアリシアを守らなければならい。

慌てて主人であるフェンデル公爵に早馬を出す。

そして何かしらが起きた時の為にそっと、だけど素早く行動を起こした。

やはり流石である。

護衛騎士たちはというと、いよいよ複雑な表情になっていった。

一方、極限状態のアリシアはそんな周囲に気付かないまま、オルフェウスに詰め寄るように言葉を重ねた。

「殿下、今更ながら言わせてもらいます!いや、最後だからこそ言うのです!
私、アリシア・フェンデルは幼い頃よりオルフェウス殿下をお慕いしておりました!殿下に見合う妻になる為に一生懸命努力してきたつもりです!だけどお会いする度に素直になれず言い合いになるばかりで…今ではお心を傾けていただけないばかりか…とうとう他の方を…私は…私は…」

再びアリシアの瞳に涙が溜まっていく。

すると突然、固まっていたはずのオルフェウスが、驚いたように目を見開く。

そして握り締められた手を勢いよく解いて、アリシアの細い肩をガシッと掴んできたのだ。

いきなりのことに驚いて、次はアリシアが固まってしまう番だった。



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