64 / 701
第64話 とにかく楽して生きたい
しおりを挟む
「ただいま、お父さん、お母さん」
盆休み二日目。あたしは実家から車で一時間程、街を離れた場所にある霊園に来ていた。
目の前には『鮫島海斗』『鮫島日和』と刻まれた墓石が存在している。あたしにとっては祖父母に当たる人たち。
「お祖父ちゃんに、お祖母ちゃん……か」
まだ、母が学生の頃に事故で他界した二人はあたしにとっては想像も出来ない存在だ。
「色々あって帰ってこれなくてごめんね。枕元にでも立ってくれれば良かったのに~」
それは、あたしが怖いからやめて、とこの場にいるかどうかわからない祖父母に心から訴えておく。
しかし、墓石の回りは六年は放置していたにしてはそれ程荒れてない。
「リンちゃん、水を汲んで来てくれる? 入り口の道具置き場にバケツと柄杓があるから」
「うん」
母は持参した箒とチリトリで周囲の掃き掃除を始めた。
あたしは少し距離のある入り口へ戻り、古びたバケツと柄杓を借りると、できるだけ近い場所の水道から水を汲むために少しだけ戻る。
「――ん?」
視界の端に、霊園の中央にある慰霊碑を背にして、一人の男がアイマスクを着けて眠っているのが映った。
「――……?」
見間違いかと思って一度は通り過ぎるものの、確認の為に戻ると確かにいる。
魔法少女アニメのアイマスクを着けて、ぐーぐー、と言っていた。
「…………」
あたしは受付まで戻るとその事を管理の人に話して共に慰霊碑に行き、あれです、と男の人を指差す。
君は行っていいよ、注意しておくから。と、管理の人は男へ近づき、あたしは母の元へ戻った。
「変な人ってお墓にも出るんだ」
ここでの余計な問題は心霊現象だけにしてもらいたいものだ。
あたしが水と雑巾を使って墓石を吹く間、母は花瓶や線香立てを洗いに離れた水場へと行っていた。
「これでよし」
綺麗になった墓石は質の良い石なのか、拭いたら顔が映る程に光沢を帯びる。
「おや、今年は珍しいねぇ」
その時、横からの声はあたしに向けられてるモノだった。そちらを向くと、そこには先程のアイマスク男が立っていた。
「……どうも」
警戒するあたしにアイマスク男は特に気にする様子もなく歩いてくる。
「あらら。日をずらせばよかったかよぉ。ま、いっか」
何を言ってるのか解らないが、通報する準備はしておこう。
アイマスク男が近づく。あたしは距離を取りつつ、ポケットのスマホに手をかける。
男が止まる。あたしも止まる。
達人の間合い。次に一歩でも近づけば即通報を――
「逝くのが早すぎるよ、お二人さん」
アイマスク男は墓石に身体を向けると、その様に言って両手を合わせた。
「……知り合いですか?」
「ん? まぁね。でも一度も顔を会わせた事はないし、二人の存在も又聞きさ」
「?」
意味が解らない。しかし、あたしとしても祖父母の事は他人と言っても良いレベルで何も知らないのだ。
「君は一人? 誰かと一緒?」
「母と来てます……」
そろそろ戻ってくるだろうが、果たしてこの男と母を会わせて良いものか。
「そっか。うーん、やっぱり神様もきちんと問題を解決してからって言ってるのかね」
どうしようもねぇな、とアイマスク男は後頭部を掻く。
男への不信感はどんどん大きくなる。通報したときに有利になるように男の情報は確保しておこう。
「すみません、何者ですか?」
「気になる? オレの事。嬉しいね~」
「……もういいです」
関わらない方が良さそうだ。一旦、母と合流しよう。
「阿見笠流だよ。よろしくね」
阿見笠。初めて聞く名字だ。
「……鮫島凛香です」
「お、いいね。ちゃんと名乗るのは、ご両親の教えかな?」
「別に……普通の事です」
「ほーう。それとあれかな? 君は今反抗期?」
「は?」
突拍子もない言葉に思わずそんな言葉が出る。
「若者は反目しての人生だよ。大人に比べれば可愛いモノだからどんどんやりなー」
「はぁ……」
「ちなみにオレの掲げる人生のスローガンは、“とにかく楽して生きたい”だ」
普通にダメな大人だった。
元々、慰霊碑の前で眠っている事からして変である事には代わりないが……言葉の距離が近い気がしてなんか嫌だ。
すると、スマホが鳴った。聞きなれた着信音だったので、見てみるがあたしのではなくアイマスク男のだった。同じ着信音……後で変えておこう。
「おっと、悪いね。まぁ、家族は大切に、恋愛も大切に、人生を楽しく生きなよー。君の倍以上は生きてるおっさんからのアドバイスだ。じゃーねー」
と、言い残すとアイマスク男は通話を始めながら歩いて行った。
盆休み二日目。あたしは実家から車で一時間程、街を離れた場所にある霊園に来ていた。
目の前には『鮫島海斗』『鮫島日和』と刻まれた墓石が存在している。あたしにとっては祖父母に当たる人たち。
「お祖父ちゃんに、お祖母ちゃん……か」
まだ、母が学生の頃に事故で他界した二人はあたしにとっては想像も出来ない存在だ。
「色々あって帰ってこれなくてごめんね。枕元にでも立ってくれれば良かったのに~」
それは、あたしが怖いからやめて、とこの場にいるかどうかわからない祖父母に心から訴えておく。
しかし、墓石の回りは六年は放置していたにしてはそれ程荒れてない。
「リンちゃん、水を汲んで来てくれる? 入り口の道具置き場にバケツと柄杓があるから」
「うん」
母は持参した箒とチリトリで周囲の掃き掃除を始めた。
あたしは少し距離のある入り口へ戻り、古びたバケツと柄杓を借りると、できるだけ近い場所の水道から水を汲むために少しだけ戻る。
「――ん?」
視界の端に、霊園の中央にある慰霊碑を背にして、一人の男がアイマスクを着けて眠っているのが映った。
「――……?」
見間違いかと思って一度は通り過ぎるものの、確認の為に戻ると確かにいる。
魔法少女アニメのアイマスクを着けて、ぐーぐー、と言っていた。
「…………」
あたしは受付まで戻るとその事を管理の人に話して共に慰霊碑に行き、あれです、と男の人を指差す。
君は行っていいよ、注意しておくから。と、管理の人は男へ近づき、あたしは母の元へ戻った。
「変な人ってお墓にも出るんだ」
ここでの余計な問題は心霊現象だけにしてもらいたいものだ。
あたしが水と雑巾を使って墓石を吹く間、母は花瓶や線香立てを洗いに離れた水場へと行っていた。
「これでよし」
綺麗になった墓石は質の良い石なのか、拭いたら顔が映る程に光沢を帯びる。
「おや、今年は珍しいねぇ」
その時、横からの声はあたしに向けられてるモノだった。そちらを向くと、そこには先程のアイマスク男が立っていた。
「……どうも」
警戒するあたしにアイマスク男は特に気にする様子もなく歩いてくる。
「あらら。日をずらせばよかったかよぉ。ま、いっか」
何を言ってるのか解らないが、通報する準備はしておこう。
アイマスク男が近づく。あたしは距離を取りつつ、ポケットのスマホに手をかける。
男が止まる。あたしも止まる。
達人の間合い。次に一歩でも近づけば即通報を――
「逝くのが早すぎるよ、お二人さん」
アイマスク男は墓石に身体を向けると、その様に言って両手を合わせた。
「……知り合いですか?」
「ん? まぁね。でも一度も顔を会わせた事はないし、二人の存在も又聞きさ」
「?」
意味が解らない。しかし、あたしとしても祖父母の事は他人と言っても良いレベルで何も知らないのだ。
「君は一人? 誰かと一緒?」
「母と来てます……」
そろそろ戻ってくるだろうが、果たしてこの男と母を会わせて良いものか。
「そっか。うーん、やっぱり神様もきちんと問題を解決してからって言ってるのかね」
どうしようもねぇな、とアイマスク男は後頭部を掻く。
男への不信感はどんどん大きくなる。通報したときに有利になるように男の情報は確保しておこう。
「すみません、何者ですか?」
「気になる? オレの事。嬉しいね~」
「……もういいです」
関わらない方が良さそうだ。一旦、母と合流しよう。
「阿見笠流だよ。よろしくね」
阿見笠。初めて聞く名字だ。
「……鮫島凛香です」
「お、いいね。ちゃんと名乗るのは、ご両親の教えかな?」
「別に……普通の事です」
「ほーう。それとあれかな? 君は今反抗期?」
「は?」
突拍子もない言葉に思わずそんな言葉が出る。
「若者は反目しての人生だよ。大人に比べれば可愛いモノだからどんどんやりなー」
「はぁ……」
「ちなみにオレの掲げる人生のスローガンは、“とにかく楽して生きたい”だ」
普通にダメな大人だった。
元々、慰霊碑の前で眠っている事からして変である事には代わりないが……言葉の距離が近い気がしてなんか嫌だ。
すると、スマホが鳴った。聞きなれた着信音だったので、見てみるがあたしのではなくアイマスク男のだった。同じ着信音……後で変えておこう。
「おっと、悪いね。まぁ、家族は大切に、恋愛も大切に、人生を楽しく生きなよー。君の倍以上は生きてるおっさんからのアドバイスだ。じゃーねー」
と、言い残すとアイマスク男は通話を始めながら歩いて行った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について
のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。
だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。
「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」
ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。
だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。
その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!?
仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、
「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」
「中の人、彼氏か?」
視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!?
しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して――
同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!?
「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」
代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない
みずがめ
恋愛
宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。
葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。
なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。
その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。
そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。
幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。
……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる