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第151話 最高傑作
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「イッヒヒ。期日に届くようにしておくよ。コンビニ受け取りでねぇ」
「ありがとうございます」
一通りのデザインなどを決めてあたしはお婆さんの店を出た。
外は少し薄暗くなっていて、ナガレさんが送ろうと言ってきたけど、まだユニコ君がいるので大丈夫、という妙に説得力のある理由で遠慮して貰った。
そのまま上りのJRに揺られながら母と父の事を考える。
今思えば母のソレが気にならなかったのは父が居なかったからだろう。二人が揃って暮らしていれば自然とソレには気づいていたハズだ。
あのアパートに母と二人。記憶に乏しいからか、寂しいと感じた時に父の顔は浮かばなかった。
「お。リンカちゃん。今帰り?」
駅の改札を抜けると後ろから彼の声。
「そっちはいつもタイミングが良いな。待ち伏せでもしてんのか?」
「いや、本当に偶然です……」
彼のお腹が鳴る。駅の雑踏でも目の前に居ればハッキリと聞こえた。
「今日はカロリーの消耗が高過ぎたか……」
「ご飯作ってやるよ」
「え? いいの?」
「その代わり、買い物と荷物持ち手伝え」
「わーい」
そうやって何気なく出会う彼の存在が、片親の淋しさを紛らわしてくれたのだろう。
真鍋はナガレと少し話し込んでからマンションに帰宅する。すると、玄関に女物の靴が綺麗に並べられ、風呂場からはシャワーの音が聞こえた。
「来てたのか」
彼女も一人暮らしだが、この部屋にはいつでも入れる様に合鍵は渡している。
“ソイツはやるよ聖。シオリと盛り上がりな。イッヒヒ”
と、渡されたカタログをテーブルに置き、ソファーに座る。
祖母は相変わらずだった。何をするにしても諌めるも導くもせず、ただ後ろから背中を押すだけ。正直、何を考えているのか全く解らない。
しかも……何をしているのか、やたら金だけはある。引き取られた時から年寄りで、化物みたいな祖母だ。
“イッヒヒ。聖や。最近レアなCDを見つけたよ。あの歌姫の伝説のCDさ。オークションでは中古でも1億で取り引きされてる。コイツもやるよ”
こっちが意図しない物を毎回渡してくる。しかし……やたらそれがハマったりするのだから、恐ろしい事だ。
「今も昔も手の平の上か……」
貰ったCDをプレイヤーにかけると、そのから流れる歌声に思わず驚いた。
歌にはあまり詳しくない真鍋でも、その歌声は思わず立ったまま聞き入ってしまうほどの代物であったのだ。
「良い曲ね」
そこへ背後から声。シャワーを使っていた彼女がラフな室内着で現れる。髪を拭きながらリビングに入り、真鍋へ視線を向けた。
「お湯、貰ったわ」
「構わない」
「聴いたことがない歌ね」
「祖母さんから貰った。伝説のCDらしい」
人の魂に響くと思える歌声は、生演奏を聴いた際にはどうなるのか皆目検討もつかない。
「スイレンさんの所? 今日の休暇はそう言うこと?」
「本命は先輩の呼び出しだ」
「ナガレ先輩は……心配するまでもなく元気ね」
「あの人に関しては心配するだけ損だからな」
真鍋はCDケースを裏返してパッケージの歌い手の名前を見る。
「舞鶴琴音……か」
「亡くなってるみたいよ。食道癌で気づいたときには末期でどうしようもなかったみたい。CDは二種類しかリリースしてないって」
彼女が先にスマホで調べていた。相変わらずの手際の良さに真鍋は自身のスマホを充電器へ刺す。
「あ、バレちゃった?」
すると、彼女はテーブルに置かれたカタログを持つと、ふふ、と口元を隠すように真鍋に向ける。
「存在は知ってたけどな」
「懐かしい」
ソファーに座って彼女は、ぱらぱらとページを捲る。高校の頃は良く三人で例の雑貨店に入り浸って居たことを思い出した。
「ローレライは元気だった?」
「シオリ」
「ん?」
「海外派遣の件。お前が勝ち取れ」
真鍋は正面に座って意を決した様に告げる。
「いいのー? コウくん。寂しくならない?」
「……お前の問題は日本よりも海外の方が進んでいる。解決出来るかもしれない」
“シオリ。貴女は完璧よ。お母さん達の……最高傑作――”
「……」
「すまん。事を急ぎ過ぎだな」
「ううん。コウくんの気持ちも解るわ。可能性があるなら……そっちに進まないとね」
「俺は両親との記憶は殆んどない。だから……お前の気持ちを完全には理解できないが、お前は幸せになるべきだ」
“何故なのシオリ! 貴女は完璧だったのに! こんな欠陥を――”
彼女は立ち上がると真鍋の隣に座り身体を預ける。
「今でも幸せだよ。私には……不相当だけどね」
「お前を絶対に一人にはしない」
「海外派遣を助言しておいてー?」
「……言葉のあやだ」
「ふふ。私が海外に行ったら一緒に着いてきてくれる?」
「ああ」
「あら。貴方は日本に居ないとダメよ」
「なら……言わせるな」
「ふふ。ありがとう」
まだ家族とは向き合えない事を彼女は理解していた。自分が顔を出せば完全に壊れてしまうから――
「それで……今日は何をしに来たんだ?」
「あ、そうそう。新作を思い付いたから食べて貰おうと思って」
思い出した様に彼女は立ち上がる。
材料も買ってきたから、とそのままキッチンへ。
「コウくんはテレビでも観てて」
「シオリ」
既に包丁を掲げる彼女に真鍋は言う。
「塩と砂糖は間違えるなよ。後、味見はきちんと――」
CDからの歌声が二人の夜を彩るBGMとなって部屋に流れていた。
「ありがとうございます」
一通りのデザインなどを決めてあたしはお婆さんの店を出た。
外は少し薄暗くなっていて、ナガレさんが送ろうと言ってきたけど、まだユニコ君がいるので大丈夫、という妙に説得力のある理由で遠慮して貰った。
そのまま上りのJRに揺られながら母と父の事を考える。
今思えば母のソレが気にならなかったのは父が居なかったからだろう。二人が揃って暮らしていれば自然とソレには気づいていたハズだ。
あのアパートに母と二人。記憶に乏しいからか、寂しいと感じた時に父の顔は浮かばなかった。
「お。リンカちゃん。今帰り?」
駅の改札を抜けると後ろから彼の声。
「そっちはいつもタイミングが良いな。待ち伏せでもしてんのか?」
「いや、本当に偶然です……」
彼のお腹が鳴る。駅の雑踏でも目の前に居ればハッキリと聞こえた。
「今日はカロリーの消耗が高過ぎたか……」
「ご飯作ってやるよ」
「え? いいの?」
「その代わり、買い物と荷物持ち手伝え」
「わーい」
そうやって何気なく出会う彼の存在が、片親の淋しさを紛らわしてくれたのだろう。
真鍋はナガレと少し話し込んでからマンションに帰宅する。すると、玄関に女物の靴が綺麗に並べられ、風呂場からはシャワーの音が聞こえた。
「来てたのか」
彼女も一人暮らしだが、この部屋にはいつでも入れる様に合鍵は渡している。
“ソイツはやるよ聖。シオリと盛り上がりな。イッヒヒ”
と、渡されたカタログをテーブルに置き、ソファーに座る。
祖母は相変わらずだった。何をするにしても諌めるも導くもせず、ただ後ろから背中を押すだけ。正直、何を考えているのか全く解らない。
しかも……何をしているのか、やたら金だけはある。引き取られた時から年寄りで、化物みたいな祖母だ。
“イッヒヒ。聖や。最近レアなCDを見つけたよ。あの歌姫の伝説のCDさ。オークションでは中古でも1億で取り引きされてる。コイツもやるよ”
こっちが意図しない物を毎回渡してくる。しかし……やたらそれがハマったりするのだから、恐ろしい事だ。
「今も昔も手の平の上か……」
貰ったCDをプレイヤーにかけると、そのから流れる歌声に思わず驚いた。
歌にはあまり詳しくない真鍋でも、その歌声は思わず立ったまま聞き入ってしまうほどの代物であったのだ。
「良い曲ね」
そこへ背後から声。シャワーを使っていた彼女がラフな室内着で現れる。髪を拭きながらリビングに入り、真鍋へ視線を向けた。
「お湯、貰ったわ」
「構わない」
「聴いたことがない歌ね」
「祖母さんから貰った。伝説のCDらしい」
人の魂に響くと思える歌声は、生演奏を聴いた際にはどうなるのか皆目検討もつかない。
「スイレンさんの所? 今日の休暇はそう言うこと?」
「本命は先輩の呼び出しだ」
「ナガレ先輩は……心配するまでもなく元気ね」
「あの人に関しては心配するだけ損だからな」
真鍋はCDケースを裏返してパッケージの歌い手の名前を見る。
「舞鶴琴音……か」
「亡くなってるみたいよ。食道癌で気づいたときには末期でどうしようもなかったみたい。CDは二種類しかリリースしてないって」
彼女が先にスマホで調べていた。相変わらずの手際の良さに真鍋は自身のスマホを充電器へ刺す。
「あ、バレちゃった?」
すると、彼女はテーブルに置かれたカタログを持つと、ふふ、と口元を隠すように真鍋に向ける。
「存在は知ってたけどな」
「懐かしい」
ソファーに座って彼女は、ぱらぱらとページを捲る。高校の頃は良く三人で例の雑貨店に入り浸って居たことを思い出した。
「ローレライは元気だった?」
「シオリ」
「ん?」
「海外派遣の件。お前が勝ち取れ」
真鍋は正面に座って意を決した様に告げる。
「いいのー? コウくん。寂しくならない?」
「……お前の問題は日本よりも海外の方が進んでいる。解決出来るかもしれない」
“シオリ。貴女は完璧よ。お母さん達の……最高傑作――”
「……」
「すまん。事を急ぎ過ぎだな」
「ううん。コウくんの気持ちも解るわ。可能性があるなら……そっちに進まないとね」
「俺は両親との記憶は殆んどない。だから……お前の気持ちを完全には理解できないが、お前は幸せになるべきだ」
“何故なのシオリ! 貴女は完璧だったのに! こんな欠陥を――”
彼女は立ち上がると真鍋の隣に座り身体を預ける。
「今でも幸せだよ。私には……不相当だけどね」
「お前を絶対に一人にはしない」
「海外派遣を助言しておいてー?」
「……言葉のあやだ」
「ふふ。私が海外に行ったら一緒に着いてきてくれる?」
「ああ」
「あら。貴方は日本に居ないとダメよ」
「なら……言わせるな」
「ふふ。ありがとう」
まだ家族とは向き合えない事を彼女は理解していた。自分が顔を出せば完全に壊れてしまうから――
「それで……今日は何をしに来たんだ?」
「あ、そうそう。新作を思い付いたから食べて貰おうと思って」
思い出した様に彼女は立ち上がる。
材料も買ってきたから、とそのままキッチンへ。
「コウくんはテレビでも観てて」
「シオリ」
既に包丁を掲げる彼女に真鍋は言う。
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CDからの歌声が二人の夜を彩るBGMとなって部屋に流れていた。
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