懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第164話 大宮司道場

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 仕事が終わり、オレは七海課長と共に一階のロビーへ。そこには、複数の女性社員に言い寄られる天月さんの姿があった。

「あ、ケイさん」

 困っていた様子の天月さんは、七海課長を見て助かった様子だ。対して女性社員達はたじろぐ。

「悪いな、今日はソイツ借りてくぜ。明日から順番に使え」
「CDの貸し借りじゃ無いんですから……」
「いや! 明日からは正式にケイさんと未来の道を作って行きますよ!」
「ほざけ。後、下の名前で呼ぶな。課長って呼べ」
「短い間になると思いますが、わかりました」
「……言ってろ」

 悪態を突く七海課長。心中をお察しします。オレ達は七海課長の呼んだタクシーに乗る。

「大宮司道場まで」

 大宮司道場。そこが決戦の舞台か……ん? どっかで聞いたような……

「七海課長」
「なんだ?」
「その道場って七海課長のご家族が経営を?」

 タクシーが走り出し、助手席に座る七海課長に現地の事を問う。

「いや、俺は門下生だよ。でも家族ぐるみで付き合いがあってな。定時で帰る時は顔を出してんだ」
「大宮司って高校生の子います?」
「ああ、いるぞ。なんだ? リョウと知り合いか?」

 あー、やっぱり大宮司青年の所か。まぁ、大宮司なんて名字はあまり見ないし、彼自身も相当腕の立つ青年だった。

「少し関わりがありまして。ほんと、触れた程度ですが」
「間違ってもアイツとは殴り合うなよ? 俺と師匠がガチに鍛えてる門下生だ。本気の正拳もらったら内臓が破裂するからな」
「……鍛えすぎでは?」

 成長期と合致して、とんでもないフィジカルモンスターとなったらしいな、大宮司青年。
 確かに大宮司青年は恵まれた体格をもて余すような動きはなかったな。あの時、殴られた際に古式を使ってなかったら脳ミソがシェイクされてたかもしれん。

「なるほど。俺の相手はそのリョウ君と言うわけですね!」

 今の話を聞いて天月さんは冗談だと思ったのだろう。事実なんですよ。七海課長も普通に蹴りでコンクリート砕くらしいし。

「まぁ、別にそれでも良いか」

 七海課長に至ってはまともに返すのも面倒になった様だ。
 でも彼がターミネーターだって事は言ってた方がいいんじゃないかなぁ。





 タクシーは隣街の山を開拓した地形に作られている住宅街へ。中でも山の頂上付近、特に緑に囲まれた端の方でタクシーは止まった。

「ここだ」

 ブロロー、と走り去っていくタクシー。目の前には古い門と『大宮司』の看板が張り付けられている。

「雰囲気あるなぁ」

 門の奥にある段の少ない緩い石段を昇る。何人もの人間に踏みしめられた様子で至るところが割れてたりする。

「元は別の道場だったらしいんだが、師範の先祖が道場破りで奪ったらしい」
「……大宮司家は山賊かなんかだったんですか?」
「決まった拠点を持たない戦場傭兵なんだと。口伝だけで正式な記録があるわけじゃねぇけどな。明智光秀を仕留めたとか、関ケ原で宮本武蔵と戦りあったらしいぞ」
「わー、歴史に割り込んでるぅ」
「相当な経歴を持つ一族ですね」

 あんたの一族は現在進行形で歴史に関与してるけどね、とオレは心の中で天月さんに突っ込んでおく。

「手強い……か」

 天月さんは少し真面目な様子。確かに目の前に見える道場からは気を引き締めさせる様な雰囲気を感じられる。

「ちょっと待ってろ」

 石段を上りきると少し広い中庭。外での鍛練もできるように均されている。七海課長は道場の横戸をがらがらと開け、センセー、と中へ。

「鳳君」
「なんでしょう?」
「いや、敬語はいいよ。入社時期からすれば君の方が先輩だし」
「え? ああ……いえ。敬語の方がなんかしっくりくるので」

 天月さんは勤続年数的には後輩に当たるわけだが、既にやってることが課長クラスなわけで、将来的には敬語を多用する事になるだろう。

「そうかい? やはり、アスリートの時の経歴が足を引っ張るなぁ」

 困ったもんだ、と天月さんは嘆息を吐く。
 贅沢なステータスを足枷と捉えるとは……一流のは何を考えているのかわかんねぇや!

「君は好意を持つ子はいるかい?」
「別にいませんけど……」

 急に恋バナをふってくる天月さん。

「ふむ。君は愛すると言うよりも愛される側だね。相手に振り向かせると言うよりも振り向かれるタイプだ」
「そうッスか」
「君から他に向ける“愛”は感じられない。しかし、君といると窮屈な感じはしないからね。天性の人たらしと言うところかな」

 少し変な言葉も混じっているが、意外と天月さんの言い分は当たっているかもしれない。

「ご家族は?」
「あー、祖父母に育てられまして」
「おっとすまない。野暮な事を聞いた」
「いえ、全然気にしてないんで」

 天月さんは常識は普通にあるんだよなぁ。もうちょっと、行動力と言動を抑えたら七海課長もなびきそうな気もするけど。

「一つはっきりさせておきたいんだが、君はケイさんに気があるのかい?」
「ないです」

 確かに七海課長は美人でスタイルも良い。
 黙っていれば言い寄る男も多いだろう。初対面の時はオレもちょっとデレたし、その後すぐに性格を知って、そう言う事に無頓着な人だと解ったが……

「彼女は素晴らしいよ。世界に二人と居ない存在だろうね」

 そりゃ、人間は世界に一人だろうよ。

「見た瞬間に彼女と過ごす未来が見えてね。多くの女性と関わった事はあったが、そんな事は初めてだった」
「そうですか」

 常識と狂気の狭間を行き来してるな、この人。
 キラキラと七海課長の事を絶賛する天月さん。オレは適当に相づちを打ちながら聞き流していると、ばうー!

「ん? どわ!?」

 後ろから気配。振り向くとゴールデンレトリバーの胴体が視界いっぱいに飛びかかってきた。

「ノー! しゅんのいうこときいてー!」

 次に幼子の声。犬はめっちゃ顔を舐めてくる。

「なに?! なにが起きてるの!?」

 ベロベロされていると、唐突に犬が退く。天月さんがリードを掴んで上手に引き離してくれた様だ。

「はい、どうぞ。大きな犬は力が強いからね。引きずられて怪我をしないように気をつけてね」
「しゅんです! ありがとうございます!!」
「おーい、駿。待ってくれー」

 すると、更に声。階段を走り上がってくるのは高校生。結構イケメン。

「ノリちゃ! おそいよ!」
「ばう!」
「ノーランドとシンクロするなよ……」

 お座りして、そーだ! と言いたげな大型犬ゴールデンレトリバーと少年はノリちゃを見る。

「お客さんか?」

 全力疾走をしてきたのか、ぜーぜーと息を切らせる青年はオレと天月さんを見た。
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