懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第248話 ならば……GO! だ!

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「まさか……七海課長が……」

 七海課長は設置した椅子に座って他の面子から心配されていた。当人は、大丈夫大丈夫、と言っているが、どう見ても大丈夫じゃない。

「では、鳳君! 準備はいいかね!?」

 そんな七海課長を見ても樹さんはノリノリだ。懐中電灯を確認し、意気揚々としている。

「樹さん。怖くないんですか?」
「ふむ。一般的な恐怖の定義は知識不足から来るモノだ。人間は理解できないモノを極端に恐れるのだからな! しかし、我々が視認し、脳が記憶する事態である限り、科学的根拠で全て証明出来るのだよ! 問題は人類の思考がソレに追い付いているか否かだ。ならば私が先駆者となろう! 此度の件を科学的に証明出来れば、七海君も安心できるだろうさ!」
「は、はぁ……」
「鳳君! 君の質問に答えるとするなら……私は全く怖くないね! 寧ろ不足していた知識が埋められると思うとワクワクGOだよ!」
「ふっはっは! 流石は国尾主任! 頼もしい限りですな! 我が社の柱の一つである七海君が明日以降もこの調子では困ったモノです! 是非とも事態の解明をお願いしたい所!」
「うむ! 一定の成果を約束しよう! 黒船社長!」

 商談みたいに固い握手を交わす二人。どっちも楽しそうで本当に何よりです。

「……おい」

 すると、リンカが服の袖を引っ張ってくる。

「危なくなったら……逃げてこいよ」
「そりゃ勿論。樹さんを抱えて全力で戻ってくるよ。ありがと」

 人を抱えて走るのは自信がある。リンカで実演済みだ。

「……ならいい」

 そう言ってリンカはそっぽを向く。彼女なりの心配である事は理解できるので微笑ましく感じた。
 次は箕輪さんとリンカ。オレ達のアタックで何かしらの情報を持ち帰りたい所だ。

「行くぞ! 鳳君!」
「はいはい。今行きますから」

 オレは樹さんと闇の山道へ足を踏み入れる。





 2組目、国尾樹×鳳健吾の場合。

「樹さん」
「何かな? 鳳君」
「アレ、見えてます?」

 懐中電灯を持つ樹の先導で、山道に入り少し歩いた所で二人は停止した。
 登山ウェアを着た男がこちらに背を向けて道の先に項垂れる様にぼーっと立っているからである。

「見えているよ!」
「それば良かった」

 絶体にヤバい予感をケンゴは感じていた。男は少し揺れている様に身体を動かしている。

「やぁやぁ! こんばんは! どこかでキャンプでもしているのですか!? 灯りも無しに歩き回るのは危ないですよ!」
「ちょっ! 樹さん!」

 道で出会った知り合いのように、男へ歩み寄ろうとする樹をケンゴは咄嗟に引き留める。

「どう考えてもおかしいでしょ」

 ケンゴは悪寒が止まらない。目の前の男からは生気のような……人の持つ気配のようなモノを何も感じないのだ。

「鳳君。こう言う物は意外と単純だったりするのだよ! 95%の人間はここで引き返すだろう! しかし、私は数少ない5%の選ばれし者になりたい!」
「成らなくていいですって!」

 樹とケンゴがわちゃわちゃしていると、男が動いた。腕を上げて、横の山道を指差すとそのまま歩いて林の闇へ消えて行ったのである。

「あぁ、もー。スピリチュアルサイエンスが! 鳳君! 何て事をしてくれてんだい!」
「いや……絶体関わらない方が良いですって」

 樹の探求意欲に上限がない事を思い知らされたケンゴは共に奈落へ引きずり込まれない様に気を付ける事にした。

「全く……もー」

 不機嫌になった樹をどうしたものかと、ケンゴは少し困って後に続く。

「鳳君。君はこの世界に対して関心は無いのかね?」
「オレは自分の回りが幸せならそれで良いかなって思ってますんで」
「至極真っ当な考えだね。しかし、そう言う者ほど、自らに“幸せ”を欲してる状態と言える」
「そう……なんですかね……」
「鳳君、人が幸せを最も感じる瞬間はどんな時だと思う?」

 樹の質問にケンゴは少し考えるが、いかんせん候補が多すぎて即答は出来ない。
 悩んでいるのを察した樹から答えが出る。

「当然だと思っていたモノを失った時だよ」

 その言葉は思っていたモノとは真逆の答えだった。

「人は良くも悪くも遠くを見ることが出来るように進化した。それ故に“当たり前の幸せ”には気づかないのだ」

 迷いの無い樹の言葉にケンゴは無言で聞き入る。

「ある日突然、ソレを失った時に人は後悔と同時に当時がどれだけ“幸せ”だったのかと認識する。落差と言うヤツだな」

 その言葉を痛いほどケンゴは理解できた。

「まぁ、人は進み続ける時間と運命には逆らえないと言う事だ。だから私は前進を続けているのだよ! 理解できぬモノを理解し! 後ろに続く者達へ胸を張って今が“幸せ”であると教える為にね!」

 まぁ、私は胸はあまり無いがな、はっはっは! と最後には勝手に機嫌が治った樹。
 そんな彼女にケンゴは、気を使われたと感じる一方、改めて敬意の気持ちが宿った。

「樹さん。次、さっきのが出たら話しかけましょうか」
「いや、止めておくよ! 君は私の部下じゃなかったからね! 巻き込むのは忍びない!」

 常識が天の邪鬼な樹にケンゴは、いつも振り回されて苦労しているであろう佐藤と田中にも敬意を示した。

「おっと見えてきたぞ」

 樹は懐中電灯で霊碑の近く木を発見。そして本命の霊碑とキットカットも入手する。

「ふむ。これか」
「これで後は引き返すだけですね」

 霊碑の前にあるキットカットを一つずつ取った。

「ん? どうやら七海君の疑問は一つ解決したぞ」

 と、樹はキットカットをケンゴに見せるとそこにはペンでメッセージが書いてあった。

「考えて見れば単純な事でしたね」

 黒船が前もってキットカット一つずつにメッセージを書いていたのだ。
 樹の取ったキットカットには“GO!”と書かれ、ケンゴの取った物には“晴れ”と書いてある。

「ふむ。明日は晴れか……」
「特に意味は無いと思いますよ。文字数制限の関係で」

 妙な男との遭遇で少し肝は冷えたが、樹の人生観を聞けたのは有意義な事だった思えた。

 ――ばんわあ……

「……樹さん」
「なんだい?」

 もぐもぐと自分のキットカットを食べる樹にケンゴが告げる。

「今、こんばんわって言いました?」
「言ってないよ。もぐもぐ」

 樹が山道を登る先を懐中電灯で照すと、少し離れた先に先ほどの男が項垂れて立っていた。幸か不幸か顔は見えない。

「鳳君。人を抱えた経験は?」
「あります」
「ならば……GO! だ!」

 ケンゴは樹を後ろ向きに肩で抱えるとダッシュで山をかけ下りる。
 その際に不自然な明滅をする懐中電灯に合わせ、男の姿は近づいており、距離は離れていない。

「おっと凄いな! 脳のバグかな? この環境と精神的な疲労効果が、この様な現象を認識させていると言うのかっ!」
「楽しそうで何よりですよ!」

 後ろからの気配が離れる様子がない。ケンゴはとにかく全身全霊で走り続け――カー。

「ゴール!」

 何とか河川敷へ帰って来れた。

「ぜぇ……ぜぇ……」
「中々に早いねぇ、鳳君。運動神経は良い方だと思っていたが物を担ぐ筋力はまた別だ!」
「お誉めに預かり光栄ですよ……ぜぇ……」

 只ならぬ様子の樹とケンゴに皆が、どうだった? と聞いてくる。それには樹が対応し、ケンゴは黒船の所へ。

「社長」
「お帰りなさい! だいぶ楽しんだようだね!」
「いや……コレヤバいですよ。肝試し、止めた方が良いかもしれません」
「大丈夫だ! 念のために山の中には心霊的な専門家に待機してもらっているからね!」
「専門家ですか?」
「その道のベテランだから安心して怖がっていいよ! 報酬はちょっと高くついたがね!」

 さぁ、次! 箕輪君とリンカ君! レッツ、肝試し! と社長は3組目の出発を促した。

「……まさかな」

 ケンゴは先ほど追い付かれる寸前で聞こえた“声”から、そんな事は無いと思う事にした。
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