懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第321話 マッスルアニキ

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 油断した。
 ショウコがそう思った時には視界は暗転し意識を手放した。
 力が抜けた所を確認した青野は首の後ろに回すように彼女を担ぐ。

「バンを開けろ」
「青野さん……」
「蓮斗。説明するから開けろ」

 そう言われて、蓮斗はバンの後部座席のドアを開けた。青野はショウコを運び入れると、目隠しと猿ぐつわをして、中へ横たわらせる。

「そこまでする必要はないでしょう!?」
「万が一にも騒がれたり逃げられると困るんでな」

 青野は助手席の扉を開けて乗り込むが、蓮斗は窓越しに詰め寄る。

「説明してくださいよ!」
「先に離れるぞ。車を出せ」
「先に説明してください!」

 ミシッ……と蓮斗の手に力が入り、ドアのフレームが僅かに歪む。

「先方は彼女一人に会いたいそうだ。余計なオマケは必要ないんだと」
「だったらその人がこっちに来れば良いでしょう!? こんな手荒な事を……」
「何も傷つけちゃいねぇよ。俺だって、この娘が自分から来てくれれば一番よかったさ」
「これは間違ってますって!」
「蓮斗。お前らも後には退けねぇぞ。拉致に加担したんだ。途中下車は切り捨てられると思え」
「アンタ……最初からこのつもりで……!」

 すると青野は蓮斗の睨みをものともせず、襟首を掴むと引き寄せる。

「いいか良く聞け。この件は上の上のからの指示で俺も動いてる。声一つで今の生活を失う程の権力者からのな」
「だからって……こんなのはおかしいっすよ!」

 青野の威圧に物怖じせずに蓮斗も噛みつかん勢いで言い返す。

「俺だって不本意だよ。でもな、お前が想像もつかない様な権力ってヤツは色々な秩序を無視しやがる。だから『空の園』の件も嘘にはならねぇ」
「!」

 蓮斗から言い返す意志が消えた様子に青野は襟首から手を離した。

「俺たちはただ連れて行くだけでいい。それだけで全部丸く収まる」
「この人は……どうなるんすか?」
「さぁな。けど赤の他人だろ? 俺もお前も、そこまで気にかける程、余裕のある状況じゃねぇ」
「……」

 蓮斗は助手席から離れると青野は窓を閉める。

「社長、ヤバいっすよ……これ」
「普通に犯罪です……」
「ハジメの姉御に相談した方が……」
「……お前らはもう帰れ」

 蓮斗は部下三人にそう告げる。

「何かあっても全部俺一人でやったと言やぁ大丈夫だ」
「社長……」
「ハジメの姉御に連絡しましょう!」
「いや……ハジメには言うな」
「なんで!?」

 同じ施設で育った幼馴染みであるハジメは自分とは違い、多くの道を選べる人間だ。

「直感だ。この件は相当ヤバい。ハジメまで巻き込むわけにはいかねぇ。もちろん、お前らもな」

 部下三人とこの場に居ないハジメは本格的に関わるべきではないと蓮斗は悟る。

「……なら俺も行きます!」
「俺も社長と一緒なら、地獄にも行きますよ!」
「社長の居ない、“何でも屋『荒谷』”で俺の働く意味は無いです!」
「お前ら……」

 部下の言葉に蓮斗は落涙を禁じ得ない。そして、一つの決意が固まった。

「とにかく、一旦はやり遂げる! その後で嬢ちゃんを無事に還すぞ!」
「了解です!」
「へへ。それこそ社長!」
「ハジメの姉御に知られる前に終わらせましょう!」

 おー、と新たに意思を団結させた四人。

「おい、なにやってんだ! さっさと車を出せ!」
「あ、はーい! すんません!」

 青野の言葉に蓮斗は運転席へ回り、三人はバンの三列目の席へ乗り込む。その時、

「あそこですよ、国尾さん。オレのアパート」
「ほっほう! 良いー立地じゃなーい!」

 モブのような男とスーツを着た小山の様なマッチョが歩いてきた。





「国尾さんはショウコさんの調査を?」
「そうだぜー。何せ、流雲嬢は色々と隠してるみたいだからなぁ。後手後手に回ってちゃあ、こっちとしても100%のパフォーマンスは出来ねぇのよ!」

 国尾さんは相変わらず、わっ! と笑う。
 オレはコンビニで遭遇した国尾さんと共にアパートへ戻っていた。
 まだ仕事モードなので国尾さんは真面目な弁護士だ。つまり、ON状態。頼れるアニキキャラなのである。

「それでですね……さっきの件はオレから名倉課長には話すので内々にして貰えませんか?」

 話が通じる内に、コンビニで避妊具を見ていた件に関してもしっかり交渉しておかねば。成り行きで買うことになった事も含めて。

「鳳よ。俺は他人の性事情をとやかく言うつもりはないぜ? 何が起こっても自己責任! しかし、心が揺らいでいるのなら止めておけ! 良い結果にはならんぞ!」
「国尾さん……」

 渇を入れられた。
 確かに……さっきまでのオレはどうかしていた。何だよ、天使と悪魔って……ふざけんじゃないよ。
 オレは肉欲を満たす為に彼女の事を引き受けた訳じゃないだろう? 本当にONの国尾さんは心身ともに頼りになるお方だ。

「しかし、フォスター女子という者が居ながら流雲嬢にも手をつけるとはな。鳳よ、拗れたら俺でも弁護は難しいぞ!」
「あ、いや……ダイヤの件はLOVEじゃなくてLIKEだったので……」
「ほっほう? じゃあ流雲嬢が本命か? 姉貴も雑誌で流雲嬢を見て、BPは195と言っていたぞ! 鬼灯の姉御意外にブルーウォーターに迫る生物は初めてだと言っていた!」

 BPってなんだろ? まぁ、国尾家は同じ日本語でも彼らにしか通じない言葉も多々ある。コレもその類いの話だろう。樹さんも世界と直結してるところあるし、深く考えると精神がヤられる。スルー安定。

「ただ頼まれて一緒に居るだけです。明日には何とか出来ると思うので」
「ほっほう? 俺たちとは別で何か動いてるのか?」

 あ、口が滑った。『ハロウィンズ』の事はなるべく控えねば。

「こ、これからショウコさんに色々と聞けばわかりますよ! オレも話してくれるように説得するんで!」
「ほっほう! 頼むぜぇ!」

 何とか誤魔化せた様だ。するとアパートが見えて来た。
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