懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第364話 そこまでだぜ

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 オレの登場にリンカはくたっとした。
 そんなに驚かせたとは思わなかった。それにしても、相当に症状は重い様だ。

「今が風邪のピークだと思いますから」

 えっと、保険医の優しそうな老婆――土山先生がそう告げてくる。土山? どっかで聞いた事ある様な……

「大丈夫か? 鮫島」

 箕輪さんがリンカの肩に手を乗せて語りかける。
 これは動かして良いものか。オレとしても来た手前、リンカの症状を重くしては本末転倒である。

「……大丈夫です」

 リンカの弱々しい声。これは大丈夫じゃないな。

「……背中……貸せ」
「アイアイサー」

 オレはリンカの前に背を向けてしゃがむ。すると力なくもたれかかり、胸の潰れる感覚が背中を襲う。イカンイカン。

「帰る……」
「了解」

 聴覚が聞き取ったその声を確かに受け取り、オレは立ち上がった。

「おっと、鞄……」
「タクシーまで持っていきますよ」
「お願いします」

 箕輪先生の助けも得て、いざタクシーへ。
 授業中な事もあり、保健室を出て裏門のタクシーに乗るまで生徒には会わなかった。





「社長。これからお迎えするのは、海外でも貴族の爵位を持つ人間だ。くれぐれも無礼の無いように」
「わーかってるよ! この荒谷蓮斗に任してりゃあ、万事解決だぜ!」

 空港の国際便ファーストクラスのゲート前にて、荒谷蓮斗あらたにれんと久岐一くきはじめは一人の人間を待っていた。
 二人はスーツを着て、可能な限りの清潔感を維持しているが、蓮斗に関しては着なれなさが明らかに露呈していた。

「……いいか? これは烏間顧問、直々の依頼だ。相手の機嫌を少しでも損ねると顧問に迷惑がかかる」
「大丈夫だって! ハジメは少し心配が過ぎるぜ!」
「会話は全部私がする。社長は私が良いと言うまで黙っててくれ」
「おい! それじゃ、この俺様は何のためにここに居るんだぁ!?」
「荷物持ちだ」

 その時、ロビーの雰囲気が変わった。ファーストクラフの客は専用のゲートから出てくる事もあり、誰もが上流階級の人間である。
 一人一人が並みならぬオーラを纏い、常人とは一線を画する雰囲気を纏う。

 その中でも飛び抜けた雰囲気を持つ女性がゲートをくぐった。
 それは他の客が陰る程の気品を纏い、それでいて近寄り難さは感じない。
 彼女が歩む先を人々は開け、つい眼で追ってしまう程に混じり気の無い美しさを持ち合わせていた。

「――――」
「おい、ハジメ。あの姉ちゃんか?」
「ハッ!」

 ハジメは蓮斗の言葉に我に帰る。一つの完成された芸術品のような美しさに思わず見とれてしまった。仕事をせねば。念のため、もう一度写真で顔を確認する。

「なんだぁ? 男と一緒だぞ?」
「そんなハズはない。お迎えするのは女性一人のハズだ」

 急に変わったと言う報告も受けていない。
 しかし、目的の女性は横から声をかけられて足を止めると会話を始めた。

「知り合いかもしれないな。お迎えする方は世界でも有数の上流階級の人間だ。その辺りで接点は多々あるのだろう」

 社交的な会話なのかもしれない。ハジメは失礼の無い様に少しだけ声をかけるのは待つことにした。

「……いいや」
「あ、おい――」

 しかし、蓮斗はハジメの静止を聞かずに彼女へ歩み寄る。





「いやー、本当にお美しい! 『白鷺の姫君』とは比喩ではありませぬな!」
「お上手ですね。しかし、それは周りの方が仰られてるだけで、何の意味はありません」
「いえいえ! 私は貴女様の美しい“音”を的確に感じ取りましたぞ!」

 困った……どうしましょう。
 御父様に言われて、問題が起こりにくいファーストクラスの個人部屋にて旅程を済ませたが、その最後で少々難しい事になってしまった。

「私はヴァン・ベネディクト・ノーツと申します。本日帰国する予定でしたが、この出会いは本当に奇跡と言えますな!」

 ノーツ……確か、世界の音楽業界でも三指に入る名家。過去に社交場にて当主の方と御父様が親しく話をしていたと記憶がある。無下にはできない。

「大袈裟です、ノーツ様。貴方様の家柄に比べれば私など陰るのも良い所でしょう」
日本ジャパンでは“謙遜”と言うのですかな? 確かに我がノーツに釣り合う者は世界でも有数でしょう。しかし! 貴女の出す、“音”は紛れもなくその有数に含まれる! どうでしょう? この後、ティータイムでも――」
「そこまでだぜ、兄ちゃんよ」

 どうやって場を納めるか笑顔で対応しながら考えていると、横から大柄な方が割り込んで来た。

「ん? なんだ君は。誰かの護衛シークレットかい?」
「しーくれっと? 俺はそんな旨そうな菓子の名前じゃねぇ。荒谷蓮斗! 俺様は世界で唯一無二だぜ!」
「ふむ。実に雑な“音”だ。彼女が皆を魅了する音階とすると、君はその辺りの石が転がる音となんら変わらない」
「なんだぁ? どういう意味だ?」
「つまり、目障りと言うことだよ。私は彼女と会話をしている。割り込みはマナー違反だと思わないかい?」
「マナーだぁ? 俺様は困ってる様子を見て声をかけただけだぜ」
「ほぅ。君は私がヴァン・ベネディクト・ノーツと知っての狼藉かな?」
「あん? ノートだか、ノームだか知らねぇけどな。乗り気じゃない女を口説く時ほど、不毛な時間はねぇぜ」
「どうやら君には会話が通じない様だね」
「失礼」

 すると今度は女性の方が割り込んで来た。

「なんだい? 君も邪魔を――」
「この方は『神島』とえにしのあるお方です。この言葉の意味をノーツ様は把握されておられますでしょうか?」

 『神島』。その名前は易々と出てくるモノではない。そして、ソレを口にする者は『神島』の縁者であり、日本では決して手を出してはならない存在であると言うことを――

「あ! そう言えば……次の講演があるんだったよ! すまないね、レディ。ティータイムは次の機会で良いかな!?」
「楽しみにしておきますね。ヴァン様」

 忘れてたなぁ~、参った参った。と言いながらヴァンは逃げるように機内へ乗り込んで行った。

 ハジメは、上流階級の人とトラブルが起こりそうなら『神島』の名を出すように烏間から言われていたのだ。それにしても――

「滅茶苦茶効いたな……」

 『神島』とは一体なんなのだろうか……
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