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第574話 美しい……ハッ!
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「うーむ……高低差があると、なんか投げづらいなぁ」
一投目を投げ二番を抜いたものの、ヒカリは早速違和感を覚えた。
ケンゴ達とよくやっていたキャッチボールは基本的に同じ高さで投げ合う。しかし、マウントに上がり投げ下ろすのは、今までに無い感覚だ。一投目はまぐれでパネルに当たったが、次に同じ所に投げるとなると難しいだろう。
「ふっふっふ。これがボール投げ自慢がパーフェクトを取れない起因なのだよ!」
少し困惑する様に残りのパネルを見るヒカリの様子から心情を察したマリー先輩が笑う。
「一般の人はマウンドから角度をつけて投げ下ろすなんて事はしない。横から見ると簡単そうに見えるが、慣れるまで時間がかかるのだ!」
その“慣れ”を九球の中で得る事は相当に難しい。しかも、ミスは出来ない条件下にもあると精神的な負荷により手元もぶれる。
「えっと……普通に投げて上だったから……」
ヒカリは二投目は少し考える様に間を置いてから横の箱からボールを取る。
観戦している三年部員の面子も、俺もマウンドで初めて投げた時はすぽ抜けたなぁ、などと昔の事を思い出す。
「よし、イメージは出来た」
二投目。滑らかなフォームから、残りのパネルを狙ってボールを投げる。ヒカリは全身を満遍なく駆動させて直球を投げた為に、メイド服のスカートがふわりと浮き、カコンッ! と七番を撃ち抜く。
“ウォォォ! いいぞー!”
と、野球部達(男子)が歓声を上げた。
「……マリー先輩。あれ注意しなくていいんですか?」
「マウントに上がる者の宿命だ!」
「リン、大丈夫よ。中に体操服の短パン履いてるし」
と、軽くスカートを捲し立ててソレを見せる。その仕草がツボにハマる性癖の男子は、ウォォォ! 他はウォォォ……。
まぁ、ヒカリは写真に取られたり、他の人に注目されるのに慣れてるから、見られるプレッシャーは気にならないか。
「それに、パーフェクトを取ると誰か死ぬんですよね? その視線がいつまで続くのか楽しみです」
にっこりと影のある笑みが向けられると、“ウォォォォ!?” と先輩達は萎縮する。
目指させてはならないモノを目覚めさせてしまったか、と。
「そう言う価値観は麻痺してないのね」
親友に性的な目で見られるのは良い気分じゃないと言う感覚はきちんとあるようで安心した。
「二番と七番を抜いたか。しかし、それは狙ったモノではないな!」
「次も調整球ですよ!」
三球目を手に取り、自然な動作で身体が動く。パネルに当てる為の球を生み出す最適な動作を身体は既に認識している。後は意識を持って残りのパネルを――
カコンッ! とヒカリの直球がど真ん中の五番を抜いた。
狙えば良い。
「……後、六枚」
視界が澄んで見える。意識がとてつもなく目の前に集中しているが、同時に力み無くリラックスもしていた。
この感覚は……国尾さんとサウナで戦った時に覚えたモノだ。
「なんだ……なんだあの一年は……」
「可愛いだけじゃねぇ……」
「見た目以上に中身の方が……ヤバいだと……?」
「これが……『太陽』」
「――谷高……お前は……自力で入れるのか!?」
「ヒカリ……なんか変な能力に目覚めてない?」
マウンドに立つヒカリの挙動は一つ一つが無駄なく、外からの視線や声も気にならず、完全に自分とパネルのみを世界から切り離していた。
『超集中状態』。
それは生涯(現時点)で最も手強かった敵――国尾との戦いにおいて覚醒したヒカリの能力だった。
「――――」
四投目。狙うは一番のパネル。
ソレを狙い、射貫く為に必要な力加減、腕の振り、フォームは自然と導き出され、放たれた球は迷いなく一番パネルを抜く。
「――美しい……ハッ!」
マリー先輩は思わず見惚れていた様子に我に帰る。
今の投げ方は完璧だった。三年間マネージャーをやってきたが、その中でも一、二位を争う球。ソレをたった四球で……
「これは……持っていかれるか!?」
パーフェクトの瞬間が頭を過る。
ヒカリは五投目に入っていた。その動作も同に入っているかのように美しい。まるでマウンドの本来の主が彼女であるかのように、全員がその様子を当然のように受け止めていた。
カァン! と四番のパネルが弾け飛ぶ。
一番と四番のパネルは同じ縦列だが、高さの調整は難易度が高い。それを微調整無しでヒカリは当然のように抜いた。
その彼女の目は可愛らしい一学年の美少女ではない。洗練された戦士のモノである。
「……しかし……しかし! まだ越えねばならぬ壁がある!」
そう、マウンドだからこそ起こるソレにヒカリが対応できるかが、この挑戦の鍵だ。
「――」
右投げのヒカリにとって当てづらいのは正面から見て三、六、九番のパネル。
とりあえず、六投目は八番を落とした。
もはや、当然のような流れに投げた瞬間にパネルが落ちる事を疑わない。
やっべー、どうしよう……と景品を持って行かれる可能性に三年部員達は焦りが生まれる。
「後は……右三つか」
七投目。ヒカリは三番を狙って球を完璧な動作で投げる。
しかし、そこで予期せぬ不具合が発生した。ソレを引き起こしたのはマウンド。度重なる踏み込みで土が動き、フォームが僅かに乱れる。
七投目は三番の上のフレームへ弾かれた。
「「「「ふー!」」」」
三年部員達は額の汗を拭う。
このミスは決まった様なモノだ。良かった……これで誰も死なずに済む、と安堵する。
「――」
ヒカリは自分が踏み損なった地面を簡単に踏み成らすと、八投目を手に取る。
記念に全部投げるのか、とマリー先輩と三年部員達は微笑ましく見ている目の前で――
「これで、後一枚」
ヒカリは三番と六番の間にボールを当てて二枚同時に抜いた。ルール上は何ら問題ない。
リンカ以外の全員は再び汗が吹き出す。
「くっ……!」
しかし、ラスト一球を手に取る前にヒカリは片膝をついた。『超集中状態』が切れたのである。
「ヒカリー、大丈夫ー?」
「大丈夫よ、リン。この最後の一球は――」
九球目。その一球を手に取り立ち上がる。
「リンやケン兄……ダイキと培った一球だぁぁぁ!!」
「ヒカリって、たまに熱血キャラになるよなぁ」
気合いと共に投げられた運命の九番目は、ビヨンッ、とすぽ抜けてフレームに掠りもしなかった。
一投目を投げ二番を抜いたものの、ヒカリは早速違和感を覚えた。
ケンゴ達とよくやっていたキャッチボールは基本的に同じ高さで投げ合う。しかし、マウントに上がり投げ下ろすのは、今までに無い感覚だ。一投目はまぐれでパネルに当たったが、次に同じ所に投げるとなると難しいだろう。
「ふっふっふ。これがボール投げ自慢がパーフェクトを取れない起因なのだよ!」
少し困惑する様に残りのパネルを見るヒカリの様子から心情を察したマリー先輩が笑う。
「一般の人はマウンドから角度をつけて投げ下ろすなんて事はしない。横から見ると簡単そうに見えるが、慣れるまで時間がかかるのだ!」
その“慣れ”を九球の中で得る事は相当に難しい。しかも、ミスは出来ない条件下にもあると精神的な負荷により手元もぶれる。
「えっと……普通に投げて上だったから……」
ヒカリは二投目は少し考える様に間を置いてから横の箱からボールを取る。
観戦している三年部員の面子も、俺もマウンドで初めて投げた時はすぽ抜けたなぁ、などと昔の事を思い出す。
「よし、イメージは出来た」
二投目。滑らかなフォームから、残りのパネルを狙ってボールを投げる。ヒカリは全身を満遍なく駆動させて直球を投げた為に、メイド服のスカートがふわりと浮き、カコンッ! と七番を撃ち抜く。
“ウォォォ! いいぞー!”
と、野球部達(男子)が歓声を上げた。
「……マリー先輩。あれ注意しなくていいんですか?」
「マウントに上がる者の宿命だ!」
「リン、大丈夫よ。中に体操服の短パン履いてるし」
と、軽くスカートを捲し立ててソレを見せる。その仕草がツボにハマる性癖の男子は、ウォォォ! 他はウォォォ……。
まぁ、ヒカリは写真に取られたり、他の人に注目されるのに慣れてるから、見られるプレッシャーは気にならないか。
「それに、パーフェクトを取ると誰か死ぬんですよね? その視線がいつまで続くのか楽しみです」
にっこりと影のある笑みが向けられると、“ウォォォォ!?” と先輩達は萎縮する。
目指させてはならないモノを目覚めさせてしまったか、と。
「そう言う価値観は麻痺してないのね」
親友に性的な目で見られるのは良い気分じゃないと言う感覚はきちんとあるようで安心した。
「二番と七番を抜いたか。しかし、それは狙ったモノではないな!」
「次も調整球ですよ!」
三球目を手に取り、自然な動作で身体が動く。パネルに当てる為の球を生み出す最適な動作を身体は既に認識している。後は意識を持って残りのパネルを――
カコンッ! とヒカリの直球がど真ん中の五番を抜いた。
狙えば良い。
「……後、六枚」
視界が澄んで見える。意識がとてつもなく目の前に集中しているが、同時に力み無くリラックスもしていた。
この感覚は……国尾さんとサウナで戦った時に覚えたモノだ。
「なんだ……なんだあの一年は……」
「可愛いだけじゃねぇ……」
「見た目以上に中身の方が……ヤバいだと……?」
「これが……『太陽』」
「――谷高……お前は……自力で入れるのか!?」
「ヒカリ……なんか変な能力に目覚めてない?」
マウンドに立つヒカリの挙動は一つ一つが無駄なく、外からの視線や声も気にならず、完全に自分とパネルのみを世界から切り離していた。
『超集中状態』。
それは生涯(現時点)で最も手強かった敵――国尾との戦いにおいて覚醒したヒカリの能力だった。
「――――」
四投目。狙うは一番のパネル。
ソレを狙い、射貫く為に必要な力加減、腕の振り、フォームは自然と導き出され、放たれた球は迷いなく一番パネルを抜く。
「――美しい……ハッ!」
マリー先輩は思わず見惚れていた様子に我に帰る。
今の投げ方は完璧だった。三年間マネージャーをやってきたが、その中でも一、二位を争う球。ソレをたった四球で……
「これは……持っていかれるか!?」
パーフェクトの瞬間が頭を過る。
ヒカリは五投目に入っていた。その動作も同に入っているかのように美しい。まるでマウンドの本来の主が彼女であるかのように、全員がその様子を当然のように受け止めていた。
カァン! と四番のパネルが弾け飛ぶ。
一番と四番のパネルは同じ縦列だが、高さの調整は難易度が高い。それを微調整無しでヒカリは当然のように抜いた。
その彼女の目は可愛らしい一学年の美少女ではない。洗練された戦士のモノである。
「……しかし……しかし! まだ越えねばならぬ壁がある!」
そう、マウンドだからこそ起こるソレにヒカリが対応できるかが、この挑戦の鍵だ。
「――」
右投げのヒカリにとって当てづらいのは正面から見て三、六、九番のパネル。
とりあえず、六投目は八番を落とした。
もはや、当然のような流れに投げた瞬間にパネルが落ちる事を疑わない。
やっべー、どうしよう……と景品を持って行かれる可能性に三年部員達は焦りが生まれる。
「後は……右三つか」
七投目。ヒカリは三番を狙って球を完璧な動作で投げる。
しかし、そこで予期せぬ不具合が発生した。ソレを引き起こしたのはマウンド。度重なる踏み込みで土が動き、フォームが僅かに乱れる。
七投目は三番の上のフレームへ弾かれた。
「「「「ふー!」」」」
三年部員達は額の汗を拭う。
このミスは決まった様なモノだ。良かった……これで誰も死なずに済む、と安堵する。
「――」
ヒカリは自分が踏み損なった地面を簡単に踏み成らすと、八投目を手に取る。
記念に全部投げるのか、とマリー先輩と三年部員達は微笑ましく見ている目の前で――
「これで、後一枚」
ヒカリは三番と六番の間にボールを当てて二枚同時に抜いた。ルール上は何ら問題ない。
リンカ以外の全員は再び汗が吹き出す。
「くっ……!」
しかし、ラスト一球を手に取る前にヒカリは片膝をついた。『超集中状態』が切れたのである。
「ヒカリー、大丈夫ー?」
「大丈夫よ、リン。この最後の一球は――」
九球目。その一球を手に取り立ち上がる。
「リンやケン兄……ダイキと培った一球だぁぁぁ!!」
「ヒカリって、たまに熱血キャラになるよなぁ」
気合いと共に投げられた運命の九番目は、ビヨンッ、とすぽ抜けてフレームに掠りもしなかった。
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