懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣

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第660話 じっ様でも良いぞ

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「なんだ? ジィさん。ここは関係者以外立入禁止だぞ!」
「なら問題ないな」

 老人は後ろ手で事務所の扉を閉める。手に下げている『バームクーヘン(大袋小分けタイプ)』の入った袋がガサガサ音を立てた。

「ワシは関係者だ」

 なんだ? このジジィ……

 セナへ“制裁”を目論む店長は、従業員しか入れない事務所に入ってきた老人に怪訝な顔を向ける。すると、バイトが、

「ちょっと、ちょっと、ジィさん。駄目だって入って来ちゃ――」
「座っとけ」

 老人がそう言って視線を向けると、バイトは唐突に転びそうになり、思わず近くのパイプ椅子を掴んだ。

 な、なんだ!?

 一瞬、足が動かなくなった。痺れたとか怯えたとかじゃない。まるで、前に進むのが間違いだと脳が認識したような感じだ。
 その様に混乱するバイトの横を老人は抜けると、セナと店長と、机の上にある魚醤を見る。

「万引きか?」
「濡れ衣ですよ~」
「ああ。解っとる」
「お爺さん、ここは入ったら駄目な所ですよ――」

 店長は椅子から立ち上がる。身長は老人と同じくらいだが、店長の方がそれなりに小山な雰囲気を感じる体躯をしていた。彼は最初の正義を成した後に、抵抗する者を屈服させる為に身体を鍛えて来たのだ。

 最初はジム『ライトマッスル』へ行ったが、君の筋肉は救えない、などとワケの解らない事をインストラクターに言われて入会を拒否された。

 以降は別のジムに通い、家でも筋トレを続け、今ではリフト無しでも荷物を運べる程のマッスラーだった。

「ワシを助けた者が何かしらの疑惑をかけられた様だったのでな。話をしに来た」
「もう、家に帰りなさいってお爺さん。これは不法侵入ですよ?」

 店長は老人の肩に手を置くと、ミシ……と力を入れて、簡単に捻り潰せるぞ? と筋肉で伝える。

「不当に罪を着せられる者を放っておけるか」

 しかし、老人は怯まない。怖いもの知らずか……それともただボケているだけなのか。

「不当ね……まるでこっちが悪いみたいですが?」
「彼女に非は無い。ならば、そっちが悪いのだろう?」
「は? つまり……店側の過失だと言いたいのですか?」
「そうなる」

 このジジィ……めんどくさく居座りやがって……

「万引き疑惑は、その魚醤か?」
「そうですよ」
「机に置いたのはお前か?」
「……そうだが?」

 お前、と言われて店長はイラッとして口調が変わる。こんなジジィ、踏み潰すのは簡単だ。しかし、ここで手を出せば全て終わる。
 次に老人はセナを見て、

「事務所に来てから魚醤に触れたか?」
「いいえ~」
「なら、手っ取り早く万引きしたかどうか証明できる」
「なに?」

 思いもよらない老人の言葉に店長とバイトは視線を向けた。

「この魚醤に彼女が触れたなら当然指紋が着いてるハズだ。警察を呼んで調べて貰えばいい」

 魚醤を指差しながら告げる老人に店長とバイトに電撃が走る。
 この魚醤はセナが触れたモノではなく、バイトがそっと忍ばせた別のモノだ。そして、事務所に連行してから、セナの目の前で鞄に入っていた所を取り出して追求している。
 故に、この魚醤にセナの指紋がついていなければ辻褄が合わないのだ。

「そう言う事なら~警察の人を呼びましょ~」

 スマホも鞄に入っているのでセナは手を伸ばすと、店長はソレを阻止するように鞄を取る。

「あら~?」
「こ、これは証拠品だ! 触るのは駄目だ!」
「まだ事件が確定していない以上、証拠品もクソもない。鞄を彼女に返せ」
「返してください~」
「う、うるさい! この店では俺の言葉が一番だ!」
「それなら、窃盗罪だな」
「な、なに?」

 老人の言葉に店長は更に焦る。

「持ち主が返却を催促し、正当な理由もなくソレを拒否するならそれは立派な窃盗だ」
「な!? 無茶苦茶だ!」
「なら警察を呼べ。それで全部終わる」
「そ、それは……そんな必要はない! この女が盗んだ証拠はあるんだ!」
「ワシは彼女が盗んでないと証言出来る。カメラはセルフレジにもあるな?」
「と、当然だ!」

 セルフレジは入り口の近くにある。ブザーを鳴らすタイミングを図る為にも角度は完璧に映っていた。

「その映像を見せろ。彼女とワシが映っておる。そして、その鞄もカメラの範囲に入ってたハズだ」
「――――」

 そう。魚醤を忍ばせるタイミングは、セナが老人にセルフレジを教えている間だけだった。その時、近くに置かれた鞄は監視カメラにもバッチリ映っている。
 店長はバイトが鞄に魚醤を入れる様子をバッチリ観ていた・・・・。ベストなタイミングでブザーを鳴らすために。

「今から全員の前でその時の記録を見せろ」
「か……監視カメラは……録画式じゃない」
「そうなの~? さっきは私が盗った映像があるって~言ってませんでしたっけ~?」
「あ、あれは……言葉の彩だ! お、俺が直接映像を観てたからな!」
「正式は記録に無いのなら、それは戯言だ」
「た、戯言だと!? この俺の……正義が戯言だとぉ!?」

 これまでの行いを侮辱された様に感じて店長は老人に掴みかかりそうな勢いで迫る。

「座ってろ」

 その時、老人より向けられた言葉により、膝の力が抜けるとパイプ椅子に体重を預けるように座った。

 な!? なんだ? 足が動かな――

「余計な時間を取らせるな。ぐだぐだ言うなら警察を呼べ。それで、全部はっきりと解る」
「呼んでください~」

 老人の見下ろしてくる視線に押し潰されそうな圧を感じる。

「い、いや……だから……」
「……ふん」

 老人は店長の持つ鞄を取り返すと本来の持ち主であるセナに渡した。

「犯行を証明できん。警察も呼ばん。それなら彼女がここに居る意味はないな」
「帰りますね~」

 セナは立ち上がり、扉へ向かう。

「あ……ちょっ……待――」
「おい」

 それでも呼び止め様とする店長へ老人は再度、言葉で圧をかける。

「安い正義を振りかざしてる暇があったら、セルフレジに店員の一人でも置いとけ」
「この店には二度と来ません~」

 そう言って老人とセナは呆ける店長とバイトを尻目に事務所を後にした。





「ありがとうごさいます~」
「気にするな」

 スーパーを出たセナは老人へ深々と頭を下げた。

「これで相子だ」
「ふふ。とても紳士ですね~」
「歪んだ物事は好きでは無くてな。ブザーが鳴った時にそんな予感がしていた」

 老人はゲートのブザーが鳴った事に引き返すと、セナが事務所に連行されている様子を目の当たりした。
 そして、セルフレジの所のカメラと、彼女が触った魚醤が、和菓子の所に置かれている事を確認しつつ助けに行ったのである。

「次は気を付けろ」
「私は鮫島瀬奈です~」

 セナは自分の名を名乗る。ここまで助けてもらい“他人”とはなりたくなかったのだ。

「ワシは……譲治だ」
「譲治さんですね~」
「ジョーとでも呼んでくれ。それかじっ様でも良いぞ」
「ふふ。ジョーさんは~怪我してる手の代わりが欲しかったりしません~?」

 セナは遠回しに、ジョーがこれから行く先のサポートを願い出る。それだけ助けられて嬉しかったのだ。
 セナの意図をジョーは察する。

「……面倒事を回るだけだぞ?」
「構いませんよ~今日は暇なので~。差し支えなければ~」
「セナ、お前も物好きだな」
「ふふ。ジョーさんには言われたくありません~」

 なんやかんやで、片腕を不便に感じているジョーは、セナと共に旧友の所へ歩き出した。
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