幻獣を従える者

暇野無学

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007 反撃

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 ヴエンナの街を過ぎたあたりから多くの視線を感じる様になり、マルチエの街に近づいた時に危険だと感じて、押し出される様に草原の奥に向かった。
 この頃には索敵能力も上がり、野獣なら40~50m程度の距離で発見できる様になっていた。
 その索敵に追いかけてくる数が10を越えていると判り、待ち伏せをされていたと知った。

 見知らぬ地で無闇に逃げ回れば迷子になるので、取り敢えず東に向かうことにした。
 王都方向を目指してアルベール街道を北に進んでいたので、東に向かえば戻る時は西に向かえば良いだけだ・・・多分。

 問題は誰が追ってきているのかだが、糞婆コリンヌの手先かそれとも伯爵やエラート達の手先も居るのか。
 盗賊の恐れもあるし、油断がならない。
 俺の書状と脅しの続きが無いので口封じに動いたと思うが、情報が少なすぎて絞りきれない。
 今俺を追っている奴等から生き延びたら、立ち寄る街々に張り紙をしてやると誓う。

 魔力を纏っていても素人同然の俺が森に向かったのだが、相手はベテラン冒険者達の様で確実に追いついて来ている。
 森の中を全力疾走して藪や木の陰に潜んでいても、数十分から1、2時間で索敵に引っ掛かってくる。
 森に不慣れで一人の俺には極めて不利なので、各個撃破しながら逃げるのが最善だろう。
 地理的条件の有利な場所を探しながら逃げる事にした。

 授けの日以来練習を続けてきた、隠形に魔力を纏って木の陰に潜む。
 魔法と同じスキルも授かりもので、生活魔法でも魔力を使えば強力になる。
 なら、スキルにも魔力を使えば一段と強力になると思い試して大正解。

 少し見通しの良い所だが、さして警戒もせずに現れたが11人も居る。
 4人は森に馴れていない感じで、立ち姿から騎士だろうと思われる。
 7人は冒険者だろうが、獣と違いマンハンテングなので、数で圧倒しているので反撃されることを考えてないのかな。

 木の陰に伏せていて目の前は草が生えているので、俺からはよく見えるが奴等からは俺の気配がなければ見つかる恐れはない。
 木や草の陰から俺の潜む方向へと歩いて来るのをじっと待つ。
 生活魔法の有効距離28mを切り20m程度となった時に、待つのに耐えられずに先頭の奴からフラッシュを浴びせる。

 〈ウオォー〉
 〈ギャーッ〉
 〈何だ?〉
 〈敵襲か?〉

 〈目が・・・目が見えねぇよ〉
 〈ウワッ・・・俺も目がおかしいぞ〉

 目をこする奴に近づいた男の顔をフレイムの炎で包んでやる。
 〈ウワーッッ〉
 騒いでいる隙に膝立ちになり弓を引き絞って仲間に駆け寄った男を射抜く。

 矢を受けて倒れた男を見てびっくりしている男に、二の矢を引き絞り放つと長居は無用と脱兎の如く駆け出す。
 姿を見られて良いことは何もないので、この後奴等がどう動くか観察だ。
 奴等の気配が感じられるギリギリの所で隠形を纏い、動向を探る。

 暫く一ヶ所に集まっていたが、分散して前進を始めたので本格的に戦闘の準備をする。
 こんな所で戦闘訓練の有り難さを感じるとはね。
 剣の打ち合いなら同世代に負ける気はしないが、魔力を纏っていても所詮16才の体力では大した事は出来ない。
 石ころは良い働きをしたが、それは魔力を纏って至近距離からの投擲だからだ。
 その点弓は心強い、二人張りの弓なら魔力を纏って引けば、重い鏃と相まって殺傷力の強い強力な武器になる。

 だがコンパウンドボウより少し小さいので、二人張りとはいえ有効射程は精々50m前後だろう。
 待ち伏せで一人二人を確実に射殺して戦力削減しなければ、ポーションを飲んで回復してしまうので厄介だ。

 * * * * * * *

 「なぁあんた達、そいつは本当に16のガキなんだろうな」

 「そうだが、奴が待ち伏せていたのに気付かなかったのか!」

 「ガキだと油断していたのは認めるが、あんたの言っていたガキの手際じゃ無いぞ」
 「ああ、DかCランクのシルバークラスの手際の良さだ」

 「飼い殺しのガキで、武術の訓練も早いうちに止めさせていた筈だがな」
 「余計な事を言うな!」

 「俺達は貰う物さえもらえればそれで良いが、あんた達は森の素人なので此からは俺達の指示に従ってもらうぞ。がさごそやられちゃ追跡どころか野獣を誘き寄せる様なものだからな」

 「良いだろう。だが確実に仕留められなかったら覚悟しておけ」

 「俺達は追跡と案内だ、それ以外はあんた達の仕事だろう。ガサゴソやってオークの群れでも引き寄せたら、お前等の命が先に消えるぞ。あんた達は俺達の間に一人ずつだ、此からは音を立てるなよ。行くぞ!」

 * * * * * * *

 ふむ、随分慎重になり、一列だが前後の間隔が広くなり奇襲がし辛くなった。
 次の襲撃地点をと考えながら下がっていると、別方向から接近を感知したのだが近い!
 隠形に魔力を纏っていなければ、姿を見られて不意打ちを受けていただろう。

 というか、此奴等は奴等の仲間なのか? それとも別口か?
 見掛けは冒険者だが、獲物を追っている様には感じられないし気配が薄い。
 岩陰に潜み人の歩ける場所で無かったのが幸いした。
 緊張しない様に力を抜き、口を半開きにして呼吸を楽にする。
 視線は彼等に向けずに視野の片隅におく様にして瞬きも遅らせる。

 凝視すれば幾ら隠形で姿を隠していても、心得の有る奴には悟られる。
 武術訓練で散々言われたことで、一点を注視せずに全体を見ろ、一点を見れば全体の動きが見えなくなると。
 索敵に引っ掛かったのは五人で、此方に向かって来ている奴等が11人。
 仲間なら不味いが、今は動けない。
 俺の姿が見えなくても、動けば不自然に周囲の草木が揺れて怪しまれる。

 木の陰に姿が消えるまで待ち、岩陰を利用して奴等から離れて走り出したがぞくりとした感触に思わず伏せた。

 〈シュッ〉と音がして頭上を何かが通過した。

 見つかっている!
 跳ね起きると同時にジグザグに走り、木の陰を利用して全力疾走にうつる。
 木の密集した所や薄暗い所を選んで無茶苦茶に走り、時に立ち止まって呼吸を落ち着かせて索敵で追跡の有無を確かめる。

 だが冒険者としての能力など皆無な俺と、ベテラン冒険者らしき奴等とでは鬼ごっこに勝てない。
 五度目に奴等の接近を感知した時に覚悟を決めて、反撃と逃走に都合が良い場所で待ち伏せる事にした。
 手頃な石を数十個マジックポーチに放り込み、矢をつがえた弓を手に心を落ち着かせて待つ。

 木々の隙間から追跡者の姿が見えたが、距離が遠くて索敵に引っ掛からない。
 逃げるかどうか迷い、遠くに見えた奴の姿を確認しようとしている間に囲まれてしまった様だった。
 索敵に引っ掛かったのは真後ろで、獣じゃ無く人の気配なので間違いなかった。
 それも一人の筈がすぐに三人になり、何方に逃げればと考えている間に左右と正面にも人の気配が現れた。
 何方も一人の気配に気付いた後に人数が増えて、八方塞がりの状態になっていた。

 * * * * * * *

 「何故攻撃しないのだ!」

 「何故? 状況を見ろよ」
 「完全に包囲して逃げ道は無いし、もうすぐ陽が落ちる」
 「小僧の潜む場所は薄暗くなっていて、近寄れば小僧の姿は見えづらく俺達の姿は丸見えだ。奴も俺達には気付いているだろう」
 「わざと気配を晒したからな」

 「さっさと殺してしまえ!」
 「何の為に高い金を払っていると思っている」

 「おいおい、俺達は殺しの依頼は受けていないぞ」
 「捜索と追跡の依頼は受けたがな」
 「足止めくらいはしてやるが、それ以上は御免だな」
 「あんた達が何をしようと勝ってだ。巻き添えにならないのなら隙にやればよい」
 「だが奴も覚悟は決めた様だし、腹の据わった奴の反撃は手強いぞ」
 「夜の森を逃げるのは不可能だし、あんた達は明日の朝を楽しみにしてな」
 「それに奴の隠形は中々のものだから、薄暗くなってからだと反撃を受けるぞ」

 * * * * * * *

 包囲されてから動きが止まり、周囲が薄暗くなっていることに気付いた。
 逃げるのに必死で陽が傾いていたことすら気付かなかったが、暗闇が最後のチャンスかも。
 何時もより多い魔力を纏い隠形にも魔力を乗せると、心を無にして索敵を続ける。
 包囲の輪は八箇所だが人数にして20人以上と思われるが、最初に11人居て次が5人で、今は20人以上居る。

 此処で失敗に気付いた。
 失敗というより、訓練の為に索敵スキルに魔力を使う事はしていなかったので普段通りの索敵をしていた。
 スキルに魔力を乗せて再度索敵をすると、包囲の輪は二重で人数は倍以上だが数が多すぎて正確には判らない。
 作戦変更、周囲の石ころを手当たり次第にマジックポーチに放り込んでいく。

 準備が出来たら即実行、進路を東に・・・薄明かりの中を気配を殺して匍匐前進する。
 相手の動きを索敵で探りながら慎重に前進して、包囲網が完成して野営の準備も終わり安心している様なので、俺からのプレゼントを進呈する。
 大きめの石を手に、下から放り上げる様に集団に向かって投げる。

 〈ガン〉と石が硬いものに当たった音が聞こえてくる。

 〈何だ?〉
 〈夜襲か?〉
 〈ばーか、たった一人でこの集団に夜襲などするかよ〉

 そうそう、常識で考えろよ。
 声で投げる方向を修正して再び石のプレゼント。
 
 〈ガサッ〉と聞こえたので草叢か藪に落ちた様だが、いっそ騒がしくなった。

 その声を頼りに下から掬い上げる様に第三弾を投げる。

 〈何か飛んできているぞ!〉
 〈何かって何だよ!〉
 〈知るか! でも音が近づいて来ているぞ〉

 〈ウワーッ 何だ?〉
 〈どうした?〉
 〈おい、石だぞ。其処の石が落ちてきたぞ!〉

 ん、至近弾の様なので、すかさず連続投擲に切り替えて10発ほど投げると、被害が出ているのか実況中継が始まった。

 〈ウワー〉
 〈馬鹿な〉
 〈逃げろー〉

 〈何を騒いでいる!〉

 おっ隣から怒られてやんの。
 偉そうに叫んだ奴にもお裾分けだ!

 投げる要領が判ったので偉そうな奴に向かって投げると、初段命中か〈グエッ〉て声と鈍い音が聞こえてきた。
 気を良くして連続攻撃に切り替えて10個程投げたら、匍匐前進を再開する。
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