幻獣を従える者

暇野無学

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087 ヨハンの驚愕

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 この日テイム出来た幻獣の一頭目は〔鑑定、・・・、♀、11才、ファングドッグ(ランディスの使役獣)、水魔法・風魔法、魔力36〕なので解除してマジックバッグの中へ移動。

 二頭目のブラックキャットは〔鑑定、・・・、♀、21才、ブラックキャット(ランディスの使役獣)、氷結魔法・雷撃魔法・治癒魔法、魔力167〕

 魔法は魅力的だし魔力も多かったので手放すのは惜しく、名前をブラックとして仲間に加える事にした。
 此で俺の使役獣は六頭になり、今後の実験のためにもう少し増やしたいが、取り敢えず自己鑑定をしてみた。

〔ランディス、18才、♂、魔力28、隠形スキル中級上・索敵スキル上級下・気配察知スキル上級下・魔力操作スキル上級下・体術スキル中級上・躁剣スキル中級中・短槍スキル中級上・弓術スキル中級下・テイマースキル上級(会話・上書き・解除)・使役獣グレイ・使役獣アッシュ・使役獣フラッグ・使役獣ファング、使役獣ウルファ、使役獣ブラック〕

 テイマースキル上級に(会話・上書き・解除)が付いたのと、使役獣にブラックが増えただけだ。
 あの時はテイマースキルのみを鑑定して(会話・上書き・解除)と判ったが、今回は普通に鑑定しても見えている。

 ブラックをテイムしたのを見て、俺が何をしていたのか理解したヨハンが首を振っている。
 グレイがブラックをテイムしたのを見て拗ねたのか、森の奥へ行こうとごねだしたので移動する事にした。

 * * * * * * *

 野営地でグレイとブラックを並べてみると、ブラックキャットの名の通り体高体長ともグレイの2/3程度で、大きな猫そのもの。
 タイガーキャットは名前のとおりタイガー種の大きさだし、この世界の名付け基準に思わず笑ってしまった。
 例に依って魔力操作をグレイにお願いしておいたが、俺とブラックの間に割り込みちょっと威嚇している。

 お前の妹分なので、確り鍛えてやれよとご機嫌を取っておく。
 魔力操作や魔法を教えるのが面倒なので、グレイに丸投げ出来るのは有り難い。

 森の奥に行く程に、獲物は大きくなるが魔法を授かっている獣がいない。
 ファングタイガーとシルバータイガー、レッドベアにそれぞれ一頭魔法持ちが居たが、魔力が30以下なのでグレイに任せると収納に収まった様だ。
 ブラックに魔力操作を教えながら常に連れて歩き、どうだと言わんばかりにタイガー種やレッドベアを屠るグレイ。
 よっ、お兄ちゃん、格好いいよ! と、心の中で声援を送っておく。

 そう言えば、熊ちゃん達やシャムの様な大型獣で、魔法攻撃をしてきた奴はいなかったな。
 相手をしているのはグレイだけど、そんな事を聞いた覚えがない。
 人族対野獣では、体力的に弱い人族が魔法を必要としているので、野獣でもウルフ程度までが魔法を必要として授かる率が高いのかな。

 アッシュやグレイなんて例外中の例外かも知れない。
 それにアッシュなんて、お年を召されているだけに魔力が溢れるほどだし。
 そんな事を考えいると、アッシュに尻尾で叩かれた。

 《痛いなぁ》

 《良からぬ事を考えていたでしょう》

 《えー、アッシュの魔力の多さと年齢についてだよ。もう溢れる事も無い様だけど、未だ増えているのかな》

 《さあ、溢れる感じになったら捨てているし、鑑定が使えるのは貴方だけでしょう》

 《魔力が多いと長生きだと聞いたけど、どの程度影響するんだろう》

 興味を無くしたのか、大あくびをしたあと伸びをしている。

 * * * * * * *

 ヨハンが、少し索敵が出来る様になったので前を歩かせる。
 東に向かって歩けと言っておき、フラッグが護衛についているので命の危険はないだろう。
 というか、アッシュにファングとウルファが背後にいるので、死ぬ方が難しいだろう。

 ヨハンが見つけた野獣はグレイがブラックを連れて討伐に向かう。
 その間はファングとウルファにヨハンの護衛を任せているが、此方も慣れたもので油断なく周囲を警戒している。
 東に向かって十日以上、グレイが前回ゴールデンゴートを追い回した岩山に着くと、ブラックをお供に俺達を残してお出掛けしてしまった。

 こうなるとグレイが満足するまで留まる事になる。
 フラッグに結界を作らせると、少し離れた場所に撒き餌をして幻獣探しだ。
 大物に幻獣が少ないようなので、撒き餌も小振りの肉片をばら撒き大物の食欲を刺激しない様にする。

 今回鑑定に引っ掛かったのはグレイフォックスで、鑑定結果を見て驚いた。
 火魔法。土魔法、氷結魔法、雷撃魔法と攻撃魔法の全てを持っていて、その上魔力が174ときた。

 久々にアッシュの水魔法で包んでもらい、水死寸前で解除してもらう。
 餌を食いに来ていた他の野獣をウルファのファイヤーボールで蹴散らし、ぐったりしているグレイフォックスを結界の中に引き摺りこみ、四肢を縛り薬草袋を被せて一息つく。

 「何をやっているんだ?」

 「ちょっとした実験だよ。ヨハン、此奴に手を当てて、テイムと二回呟いてみてよ」

 「おいおい、俺はテイマースキルなんて授かってないぞ」

 「判っているよ。実験だと言っただろう。言われた様にしてみてよ、早く!」

 ヨハンがぶつくさ言いながら、びしょ濡れのグレイフォックスに掌を置き「テイム・テイム」と呟くが変化なし。
 そらみた事かといった顔で俺を見てくるが、黙って交代してテイムする。
 何時もの様にテイム出来たので、ここからが本番だ。
 〔鑑定、・・・、♀、46才、グレイフォックス(ランディスの使役獣)、火魔法・土魔法・氷結魔法、雷撃魔法、魔力174〕

 ん、狐にしては年寄りだなと思ったが、今はそんな時ではない。

 《聞こえるか、お前を殺さずに解放するので、今から見せる男が(テイム・テイム)と呟くので彼に従え。従わなかったら殺すからな!》

 《・・・》

 《聞こえているか? 嫌か?》

 《従います》

 即座に(テイム、解除・解除)と呟き被せていた薬草袋を取り去りヨハンを見せる。

 「ヨハン、もう一度さっきと同じ様にテイムと呟いてくれ。早く!」

 「おっ、おう」
 「テイム・テイム。んあぁぁぁん?」

 「どうした?」

 「何か光る紐の様なものが見えたぞ!」

 〔鑑定、・・・、♀、46才、グレイフォックス(ヨハンの使役獣)、火魔法・土魔法・氷結魔法、雷撃魔法、魔力174〕

 やはりな、上書きはテイムされている使役獣だけでなく、俺がテイムして解除した直後の野獣なら、テイマースキルが無くてもテイム、上書きが出来る。
 テイムを解除して時間が経った野獣を、スキル無しの者がテイム出来るのかどうかは、何れ判るだろう。

 「・・・ディス・・・ランディス! 聞こえてるか!」

 「あっ、ああ、聞こえて・・・何だ?」

 「さっきの光る紐の様なものは何だ?」

 「ヨハンが此奴をテイムしたんだよ」

 「はぁー・・・、俺はテイマースキルなんて無いぞ」

 「それはさっき聞いたよ。でも実際テイム出来ているぞ。此奴はグレイフォックスで、御年46才だ」

 俺の言葉を聞いたヨハンの顔こそ見物だった。
 物に動じない男が、不味いポーションを無理矢理飲まされたような顔で唸っている。

 「鑑定結果を教えてやるから良く聞けよ。グレイフォックス、御年46才で雌だ。モテる男は違うねぇ(ヨハンの使役獣)、火魔法・土魔法・氷結魔法、雷撃魔法と攻撃魔法四種持ちだ、極めつけは魔力が174もあるぞ」

 返事が無いのでヨハンを見ると、頭を抱えて唸っている。
 仕方がないのでグラスに酒を半分ほど注いで差し出すと、黙って受け取り一気にあおった。

 「ヴゥファー。何じゃこりゃー」

 「おー、現世に戻って来たかい」

 空のグラスに水を入れてやると、又一気にあおっている。

 「お前って、無茶苦茶な奴だな」

 「最近テイマースキルが上達したので色々と考えていたんだ。そこへヨハンが現れたので、冒険者になるのなら使役獣がいれば役立つだろうと思ってね」

 「で、此奴を狙ったのか」

 「鑑定して見たら、攻撃魔法四種持ちだと判ったからな」

 「テイム出来たからって、俺が此奴を操れるとは思えないんだが」

 「それは教えてやるし、グレイ達を使って魔法の使い方も仕込むさ。但し、人に聞かれてもベラベラと喋るなよ」

 「こんな事を喋っても信用されると思えんがな」

 「もしも聞かれたらテイマースキルが有ったらしいとでも言っておけば良いさ。取り敢えず、此奴の呼び名を決めなよ」

 ヨハンが名付けで悩んでいる間に、四肢を縛っていたロープを解き外でブルブルさせて水を切らせてから綺麗に拭いてやる。
 身体を拭いているときに気付いたが、筋肉はしなやかで毛並みも良くて、とてもお婆ちゃんとは思えないので、此も魔力量に関係するのかな。

 ヨハンは命名センスゼロで、フォックスと命名。
 俺の教えに従って「お前はフォックスな」と、聞いているこっちが恥ずかしくなるが、当人がそれで良いのならと黙っておく。

 アッシュの視線を感じて振り向くと、じっと見下ろされていた。

 《どうしたの?》

 《出会った時から私達を怖がらなかったし不思議な子だと思っていたけれど、自分がテイムしたものを他人にテイムさせる事が出来るなんて、初めて知ったわ》

 《最近色々とテイムしていただろう。それでテイマースキルが上級になっているんだ》

 《上級?》

 《あー、テイマーとしての腕が最高だって事さ。それで何が出来るのか色々と考えていた事の一つを試したんだ》

 《それがテイマースキルの無い者にテイムさせる事なの》

 《まぁね。誰にでもテイムさせる気はないよ》

 《フォックス、お前の主はヨハンって名で、俺はランディス。ランディと呼んでくれ》

 《ランディ・・・ヨハン、何も言わない?》

 《ああ、ヨハンはお前と話が出来ないので、指や腕の動きで色々と指示をする事になる》

 戸惑っているフォックスに、俺や他の仲間達が教えるからと言って安心させてから、魔力溜りの事から教えていく。

 グレイが戻ってきたのでフォックスを引き合わせて、ヨハンの使役獣だけどブラックともども魔法の事を教えてやってとお願いしておく。
 ブラックはグレイの後ろに控えていて、随分仲良くなっている。

 翌日からフォックスには、常にヨハンの左横に付いて歩く事から教えていくが、主従両方に教えなければならないので面倒くさい。
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