幻獣を従える者

暇野無学

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101 ナンガスの代理人

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 ナンガスはしょぼい柵に囲まれた町で、バッファロー辺りに突撃されたら壊れそうな雰囲気で、入場門の警備兵ものんびりしている。
 冒険者ギルドのカードを提示すると「おっ、初めて見る顔だな。若いのにCランクで・・・幻獣使いか」と驚いている。

 ブラックとフラッグ以外は町の手前でお休み中なので警戒されていない。。
 俺が領主と気付いていないので、素知らぬ顔でギルドの場所を尋ねると丁寧に教えてくれた。
 グレインのサブマスは、ナンガスの方が獲物が多いので冒険者も多いと言っていたように、冒険者に馴れているようだ。

 ナンガス冒険者ギルド、グレインの冒険者ギルドの出張所だと聞いていたが、グレインの冒険者ギルドと変わらぬ大きさの建物だ。
 ブラックを表に待たせて中へ入ると、突き刺さるような視線が痛い。
 買い取りカウンターのおっさんに獲物を売りたいと告げると、頭の先から爪先まで見てから横の通路を顎で示す優しい奴。

 解体場・・・じゃないな。
 此処で買い上げた獲物や薬草は、マジックバッグに収められてグレインのギルドに運ばれてくると、サブマスが言っていたな。

 仁王立ちの査定係が「獲物は何だ!」と銅鑼声をあげる。

 「ブラウンベアとブラックベアにファングタイガー、後はハイオークとグレイウルフが七頭ばかりだ」

 「優秀な幻獣を抱えているようだな。其処へ並べてくれ」

 町の手前でグレイに出してもらった獲物を並べると、手早く査定用紙に書き込むと差し出された。

 ブラウンベア、310,000ダーラ。
 ブラックベア、220,000ダーラ。
 ファングタイガー、420,000ダーラ。
 ハイオーク、130,000ダーラ。
 グレイウルフ、七頭、365,000ダーラ。
 計1,445,000ダーラ。

 久し振りに獲物の値段をじっくりと見たが、日数を掛けて大物を狩っても、パーティー仲間で頭割りをすると危険に見合わない稼ぎだな。
 まぁ、往復でも出会った獲物を狩るのでそれなりの稼ぎになるだろうが、冒険者は辛いねぇ。

 礼を言って査定用紙をポケットに突っ込み、食堂に向かった。
 俺が獲物を査定係に渡して出てきたのを見ているので、注目度が一層上がった様だ。

 カウンターでエールと串焼き肉を受け取り、空いているテーブルに座ると声が掛かった。

 「兄さん、此処は初めてか?」

 「そうだけど、それが何か?」

 「其処はベテランが座る場所だ。幻獣使いのようだが、ソロでは大した稼ぎにもならないだろう。そう言う奴は、隅の方で大人しく飲むものだぞ」

 「へぇー、ナンガスのギルドではランクによって指定席があるのか。後学の為に、どの程度のランクでどれ位稼げば此処に座れるんだ」

 遠くの方からクスクス笑う声が聞こえてくるし〈図太そうじゃねぇか〉なんて声も聞こえてくる。

 「其処はな、Cランク以上か300,000ダーラ以上を査定に出せる奴等が座る場所だ。よーく覚えておけ!」

 「ふぅーん。それじゃーお前に能書きを聞かされる筋合いは無いな」

 揶揄い気味に言って、マジックポーチからギルドカードを取り出して見せてやる。

 「お前・・・Cランクだと!」

 ポケットから査定用紙を取りだし、おもむろに広げてじっくりと見てから丁寧に折り畳みポケットに戻す。

 「あー、稼ぎでも文句を言われる恐れはないな」

 飲みかけのグラスを掲げてそう言ってやると、渋い顔で横を向いてしまった。

 其処此処から失笑が漏れてくるが、それ以上誰からも声が掛からないのでお仲間はいない様だ。
 町の位置からして脛に傷持つ者は少ない様で、質の悪い奴等は少ない様だ。

 * * * * * * *

 二日程周辺を散策してから町に戻ったが、アッシュ達も連れて行ったので警備兵が驚いていた。
 出会う冒険者達も、アッシュやグレイを見て武器を手にするが、近寄って来ようとはしない。

 フラッグだけを連れてギルドに入り、身分証を示して「ランディス・グレインだ。ギルマスに会いたい」と告げる。
 グレインのサブマスが連絡しておくと言っていたが、話が通っているのか何も言われずに二階に案内された。

 「お待ちしておりました侯爵殿。生憎此処はグレインの出張所なんでギルマスは居ません。サブマスの私が責任者です。このギルドに何か御用ですか」

 「いえ、各町の様子と、此処から大森林に向かう拠点探しですよ」

 「拠点ですか、何度か大森林へ行かれていると聞いていますが」

 「エリンザスやハイムントから奥へ向かった事は有ります。グレインからの道も知っておきたいし、狩りに行くこともありますので。それより町の様子はどうですか?」

 「町の様子ですか・・・侯爵殿の領地になったのなら、代理人を何とかして貰えないですか」

 「代理人?」

 「グレインが王家の直轄地の時は代官がグレインを治めていたのですが、周辺の町にまでは来ません。代わりに代官が指名した代理人が町を治めています。直轄地だったので表立って悪さはしませんが、しみったれで金に執着する奴ですよ」

 「それで町の防壁があんなにお粗末なのですか」

 「防壁もですが、冒険者達が泊まる宿や飲み屋も奴の息が掛かっていて確り搾り取られています。新たな宿は作らせないし、部屋を借りても部屋代とは別に税を課せられてはね。野獣が多いので腕の良い奴等はそれでも良いが、伝の無い新人には辛い所なんで、多くが町を捨てて出て行きます」

 「この先に村が二つ在ると聞いていますが」

 「そっちは代理人が指名した村長が治めていて、上納金を取っているようですが詳しい事は判りません。まっ、この先の村も野獣は多いが薬草もそれなりに採れるので、ベテランは村で稼いで此処まで売りに来ます。新人は比較的安全なグレインやその先の街に向かいます。ギルドとして町の事には口出しできませんが、最近野獣が増えている様で気になっているんですよ。村の方でも被害が増えていると聞いていますが、何しろ冒険者達の噂でして」

 「それは何とかしますが直ぐには無理ですので、暫く待って下さい」

 人任せにして俺は監督だけしていようと思っていたが、小狡い奴は何処にでもいるか。
 執事のハリスンも代官から引き継いで間がないので、周辺の町まで手が回っていない様だ。
 残り四つの出張所の事も知りたいので、各町の不満や改善を望むことを、グレインの屋敷宛に要望書として送ってくれる様に頼んでおいた。

 * * * * * * *

 屋敷に戻る前にナルセ村に行ってみることにして、入場門を出て東に向かった。
 Y字を下から見て右手がナルセ村との事で、ナンガスから二時間程の距離らしいが馬車が何とか通れる道で見通しも悪い。
 出会う者を驚かせない様に、索敵に引っ掛かると穴の中に隠れてやり過ごす。

 ナルセ村もしょぼい柵に囲まれた村で、村人が交代で門番をしていてアッシュ達を見て驚かれたが、入村を拒否されるようなことはなかった。
 暇そうな門番に村の周辺の事を尋ねると、柵の外には時々野獣も現れるので注意しろと言われてしまった。

 この村には冒険者用の民宿とごろ寝の出来る倉庫が在るだけで、村長も指名されて仕方なくやっている様だ。
 門衛の給金は一日銅貨三枚と聞いて、辺境で農作業の片手間とはいえ安すぎるのにびっくりした。

 * * * * * * *

 「お帰りなさいませ。旦那様に各町のギルドから要望書が届いております」

 「ナンガスの町とナルセ村に行って来た。ナンガスの代理人って奴が小細工をして懐を肥やしているので代わりを用意しておいてくれ。その要望書に各町の代理人に対する不満が書かれているので、それの是正と必要なら代わりの代理人・・・代官を送ってくれ。不正があれば容赦するな。七つの村も代理人が指名して村長をやらせている様なので、村の住人の中から適任者を選んで・・・一人では無理か」

 「補佐をやらせている、ジェイコに任せてはどうでしょうか」

 「それは任せる。だが逐一報告させて時々検証しろよ。俺も時々各地を見て回るつもりだが、一人ではとても手が回らないからな。この街の統治は誰に任せた?」

 「代官の補佐と書記をしていた男レイゼンを、行政官に任命致しております」

 そうだった、代官の部下だった者を引き継いでいるので、仕事自体は変わらないのか。
 この屋敷も俺の私室以外は仕事場なのを忘れていた。
 と言うか、代官屋敷とはいえオリブィエ伯爵邸とさして変わらぬ大きさなので、俺の目に留まらなかっただけか。

 「使えるのか?」

 「代官から旦那様に変わって間もないのですが、そつなく熟しております」

 「街の者からの苦情や不満を聞き逃すなよ。上から見るのと下から見るのでは随分ずれがあるからな。レイゼンの手が空いたときで良いので会っておこう」

 * * * * * * *

 仮縫いが終わったので、出来上がりは屋敷に届けて貰う事にして、五月の魔法大会までは自由だ。
 久々にグレインの冒険者ギルドに出向くと、入り口横にヴォルグが座っていた。
 フラッグだけを連れて中へ入ると、食堂にエドガ達が飲んでいた。

 「どう、稼いでいる」

 「はい、ヴォルグに助けられています」
 「ランディスさんのお陰です。あの時は有り難う御座いました」

 「あー気にしなくて良いよ。俺の好奇心に付き合ってもらっただけだから。借金持ちの黒い牙って奴等は、未だこの街に居るの?」

 「彼処で飲んでますよ」

 カーラがこっそり指差す方を見ると、奥の壁際で暗い顔をして飲んでいる。

 「ギルドからの借金はどれ位で返さなきゃならないの?」

 「確か一年以内って聞いた覚えが有ります」

 500,000ダーラの借金なら、月に四万ちょい返せば良いのか。

 「奴等、無事に借金を返せそうかい」

 「毎月平均42,000ダーラは返さなきゃ借金奴隷なので必死で稼ぎに出ていますよ」

 「一日1,400ダーラ余分に稼ぐのって結構キツいからな」
 「以前の俺達なら、生活費を払ったらカツカツだな」
 「今じゃ月の半分以上野営で、宿代は掛からないし稼ぎも良くなったからな」
 「ランディスさ・・・とヴォルグのお陰だです」
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