幻獣を従える者

暇野無学

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104 ウルフ狩り

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 「おい、ファイヤーボールの爆発音だが、連続しているぞ」

 「ああ、相当腕の良い魔法使いの様だな」

 「お前達何を言っている。爆発音の聞こえて来る方向を良く聞いてみろ。とんでもない速さで彼方此方から聞こえて来ているぞ。こんなに魔法使いがいる訳ないだろう」

 「じゃあー何だよ?」

 「この間会った奴の幻獣だと思う。お前達も噂は知っているだろう」

 「奴の連れている幻獣は頭が良いとか、魔法を連続して使うって話か」

 「そうだ、右手から聞こえ始めたが前後に移動しながら左手に向かっている、と思う。此は何かを追い込んでいるんじゃないか」

 「それじゃ段々近づいているので、俺達の方へ追い込んでいるって事か?」

 「逃げた方が良いんじゃねぇか?」
 「いやいや、獲物を俺達の方に追い込んでくれているんだ。有り難く横取りさせてもらおうじゃないか」
 「だな、奴等が闘っている訳じゃない。追われた野獣が俺達に向かって来ているので討伐しただけだ。文句は言わせねぇよ」

 「良し! 包囲網を作れ。先ず足止めからだが、奴の幻獣も序でに片づけるぞ」

 「獲物を討伐していたら、腐れ貴族の獣が横切ったせいでの誤射だな」
 「戦闘中なので使役獣だと判らないからな」
 「此処は森の中で、使役獣のメダルも付けていないしなぁ」
 「付けていたって見える訳がない。俺達は必死で討伐しているんだからな」

 「追われてきた野獣は、俺達が全て掻っ攫うぞ!」
 「獲物から飛び込んで来てくれるとは有り難いぜ」

 「近いぞ、急げ!」

 近づいてくる爆発音を頼りに半包囲の態勢になる。
 皆が弓を手に矢をつがえると、耳を澄ませて獲物を待つ。
 包囲網より左手にズレていってるが、此なら側面から攻撃が出来ると弓を構える。

 フォレストウルフの群れを、ウルファが後ろから追いたてる。
 群れの後ろと右手側で、交互にジャンプしてファイヤーボールを爆発させる。
 左手側にはファングが群れと併走しながら、追いこむ方向からズレるウルフにアイスバレットを射ち込んで逃げる方向を修正している。

 《グレイ、聞こえる?》

 《グレイ、もう少ししでそっちに行くよ・・・グレイ、聞こえている?》

 《ファング、もう少しだから・・・ギャン》

 《ウルファ! ウルファ! どうしたの?》

 《ファング、ウルファがどうした?》

 《グレイ! ウルファが ヒュッ、カハ・・・グレ・・・・・・》

 《ファング? ファング、どうした? ママ、様子がおかしい、行ってくる!》

 * * * * * * *

 「こりゃ良いや。獲物が勝手にやって来るとはねぇ」

 「横流しに射つのは難しいが、安全に狩れるのは良いな」

 「赤い布を巻いたもいたぞ」

 包囲体勢から横にズレたが同士討ちの危険はないし、野獣とも正対しなくて済む。
 呑気に喋りながら各々の位置から目に見えるフォレストウルフに矢を射ち込む。
 群れが通り過ぎた瞬間、目の前にフォレストウルフが一頭現れた。
 走って来たのではなくいきなり現れたのだが、冒険者の性で野獣には躊躇なく矢を射ち込む。

 ウルファは群れの最後尾にジャンプしてファイヤーボールを射とうとした瞬間、横からの衝撃で足が止まり前のめりに転がった。

 《グレイ! ウルファが ヒュッ、カハ・・・グレ・・・・・・》

 * * * * * * *

 ウルファの異変に気付いたファングが、グレイに知らせ様としたときに矢を胸に受けて転がった。

 脇腹に矢を受けたウルフが前のめりに崩れ落ちたが、首に赤い物が見えた。
 奴が連れていた幻獣だと判り、ニヤリと笑って止めの矢を射ち込む。

 ウルフの群れも通り過ぎた様だし、赤い布を巻いた奴の布を取り省いて知らぬ顔をしていれば良い。
 倒れたファングの赤い布を手にしたとき、背後にグレイが現れると男が手に持つ赤い布を見た。
 矢を受けて転がっているグレイウルフからは、ファングの匂いがする。

 次の瞬間男はファイヤーボールの直撃を受けて吹き飛んだ。

 《ファング!》

 ファングに駆け寄るグレイも、ファングと同じ様に横から矢を受けて倒れ込んだ。
 前足の片方が動かない。
 顔を上げると同時に腹に矢が突き刺さり、苦痛に呻り声が出るが即座に結界を張り巡らせた。

 《ママ、待ち伏せ攻撃だ! 来ちゃ駄目!》

 《グレイ、何が起きているの》

 《射たれた。逃げる!》

 グレイはママと別れた場所にジャンプすると、ブラックを呼び矢を抜いてと頼む。

 《ブラック、矢は私が抜くから治療を早く!》

 《グレイ、治れ! 治れ! 治れ!》

 《グレイ、待ち伏せって?》

 《横から射たれた、ファングも倒れていて、バンダナを盗られていた。ウルファの声は聞こえなかった》

 《そう、もう痛みは無いわね》

 《大丈夫、ファングの仇をとってくる》

 《待ちなさい。私も連れて行きなさい!》

 《あい、ママ》

 アッシュと共にファングの倒れていた場所に戻ると、即座に結界を張り周囲を観察する。
 矢の飛んできた方向に一人、別の所にも一人立あがり弓を手に此方を見ている。
 即座にファイヤーボールを叩き込み二人とも吹き飛ばす。

 《グレイ、付いてきなさい!》

 走り出したママの後を追うと、索敵に何人か引っかかる。

 * * * * * * *

 ウルファに矢を射ち込んだ男と近くに居た仲間が、ウルフの群れが通り過ぎて安全だと油断している所へアッシュが現れた。

 「奴の幻獣だ! 殺せ!」

 矢をつがえたままの弓を即座に引き絞り放つが、アッシュの分厚い毛に阻まれて鏃が突き立つだけで致命傷にならない。
 ママの後を追ってきたグレイが即座にファイヤーボールを射ち込むと、もう一人の男はアッシュの雷撃を受けて黒焦げになる。
 遠くから近寄って来ていた男がそれを見て逃げ出したが、グレイが目の前に現れて張り倒された。
 グレイの全力パンチを受けた男は、木偶人形の様に飛ばされてピクリとも動かない。

 男を放置して急いでママの所へ戻ると、矢を咥えて抜き《ママ、治れ! 治れ!》

 《有り難う。もう良いわよ。もう一人居るので捕まえてきなさい》

 《あい、ママ》

 索敵に引っ掛かったものに向かってジャンプする。

 離れていて様子の分からなかった男が、複数の爆発と雷撃音を聞き不審に思って身を潜めていた。
 その背後に現れたグレイの気配にギョッとして振り向いたが、顔に尻尾の一撃を受けて倒れると、グレイが腕を咥えてジャンプ。
 ママの隣りに戻ると、男をママに預けて再びジャンプする。

 《ランディ、ファングとウルファが殺られた。ママが待っているので来て》

 グレイの言葉に急いでバンダナを掴むと、アッシュの所に連れて行かれた。
 アッシュが男を前足で押さえていて、踏みつけられた男は蒼白な顔で震えていた。

 《ランディ、こっち!》

 グレイがアッシュの陰に回ると、ウルファが複数の矢を受けて倒れていて、近くにバンダナが落ちていた。

 アッシュに踏みつけられて震えている男をみて誰だか判った。

 「お前とは、この間会ったよな。何故ウルファとファングを殺した」

 「なっ・・・何の事だ。何故お前の使役獣が俺を襲うんだ」

 「仲間が殺れたらやり返す。冒険者の常識だぞ、知らない訳じゃないよな」

 「仲間? 俺はウルフ狩りをしていただけだぞ」

 男に問いかけている間に、グレイがファングを咥えて戻ってきた。
 それを見た男が驚いている。

 「お前が、お前の仲間達がウルフの群れを討伐していたと言うのなら信じよう。だがな、この二頭には群れを見つけたら俺の所へ追い込めと命じていたんだ。俺達は同士討ちを避けるために首に赤いバンダナを巻いていたんだが、何故か倒れていた二頭の側に巻いていた筈のバンダナが落ちていた」

 「そっ、それがどうした、そんな事俺は知らんぞ」

 「そうか、ならそれでも良いが、仲間をやられて黙って見逃す気はない」

 「ちょっと待てよ。誰が仲間だ。ウルフ狩りをしていたが誰も殺しちゃいないぞ」

 誰かに雇われて俺を襲ったにしては不自然だし、俺を襲って失敗すれば反撃を受けるのでこんな雑な攻撃はしないだろう。
 それにこの間も会ったばかりで、此奴等が此の辺りをベースに活動していたと見るのが妥当かな。
 となると、ウルフを追い込んでいる進路上にこいつらがいて、運悪く射たれた・・・此も不自然か。

 だが、二頭が俺の使役獣と判っていて嫌がらせに射殺し、バンダナを外していたと考えるれば辻褄が合う。
 もう少し俺達が来るのが遅ければ、バンダナを隠してウルフの討伐だと惚けられただろう。

 二頭が追い込んでいたのがフォレストウルフで、ウルファもフォレストウルフ、ファングもグレイウルフなのでウルフ狩りで押し通される。
 匂いで俺の使役獣だと言っても、駄目だろうな。

 バンダナを外していたので、俺の使役獣と知りながら殺したので有罪。
 黙り込む俺を不安気に見ている男に、にっこり笑って死刑宣告を告げる。

 「殺した直後に二頭のバンダナを外しているので、お前の言葉は信じられないな。冒険者の掟に従ってもらう」

 「待てよ。それは犯罪だぞ! お前は領主だろう、法に背くつもりか!」

 「寝言は寝てから言え。仲間のところへ送ってやるよ」

 グレイがフルスイングの猫パンチを叩き込むと、顔が変形して首が折れている。
 ウルファとファングを埋め、男達も全員埋めて見なかった事にする。

 エドガ達の所へ戻る前に、矢を射ち込まれて倒れているウルフの中から、一番からだが大きい奴を選び出して連れ戻った。

 「ケイシー、此奴をテイムしてみろ」

 「ランディスさん、これって死にそうですよ」

 「気にするな。テイム出来たらグレイに治療してもらうので問題ない」

 ケイシーがフォレストウルフをテイムすると、ブラックが治癒魔法を使い治療する。

 「名前を決めているのなら、その名で呼んでやれ」

 「グレータ、お前はグレータで私の友よ」

 尻尾を振り親愛の情を示すグレータ《グレータ、聞こえるか》俺の問いかけに首を捻るグレータ。

 《彼女はお前の主で、此れから彼女の力になってやってくれ。明日から彼女と訓練を始めるが、俺の使役獣も手伝ってやるので早く覚えろよ》

 《はい・・・》

 《ランディスだ、ランディと呼んでくれ》
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