幻獣を従える者

暇野無学

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107 血塗れの牙

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 結界の周辺に群がっていたフォレストウルフが、落雷の嵐に巻き込まれて倒れている。
 死んだ訳ではないので、ピクピク痙攣している奴からふらつきながらも逃げようとする奴まで様々。

 突然グレイが俺の前に現れて咥えていたウルフを置いて姿が消える。
 少し離れた所から〈バシーン〉と音がして、又一頭咥えてくる。
 一頭も逃がすつもりはなさそうだが、魔法も索敵や気配察知も上達しすぎじゃないの。

 グレイ達の好物だからと狙われる、ゴートやシャムが可哀想になって来る。
 周辺からウルフの気配が消えたので、フラッグがフェリス達を降ろして側にくるが、フェリスの腰が引けている。

 「凄いわねぇ。ファル一頭の雷撃でも凄いのに、四頭の一斉攻撃って寒気がしたわ」
 「嫌々、凄まじい何てものじゃないな」
 「フォレストウルフが可哀想になってくるぞ」

 呑気に感想を述べてくれるが、俺は鑑定で忙しいので黙っていて欲しいよ。
 魔法を持っていないウルフは、短槍で一突きしてマジックバッグにお引っ越し。
 風魔法と火魔法を持っていた奴は、魔力が26なのでマジックバッグ行き。
 水魔法と氷結魔法に雷撃の三つを持っていたのも、魔力が37なので此もマジックバッグに直行。
 氷結魔法に転移魔法を持った奴が、魔力117だったのでテイムして《ファング》と名付けておいた。

 26頭を刺殺して一頭をテイムしたので、27頭いて魔法持ちが3頭。
 ファル達をテイムした時と似た様な結果に終わった。
 俺のやる事を黙って見ていたアルカン達は、微妙な顔で俺の傍らに座るファングを見ている。

 「その子だけが魔法を持っているのね」

 「ああ、氷結魔法と転移魔法を持っているよ」
 「26頭・・・27頭で一頭のみか。あの時二頭居たのはは幸運だったんだな」
 「幻獣を手に入れるのが、如何に難しいのかよく判るよ」
 「一度に大量捕獲して、鑑定で幻獣を探し出すなんてランディス以外には無理だ」
 「そして弱っている奴を治癒魔法で元の元気な状態に戻す」
 「無敵の幻獣使いだぜ。他の奴等がそれを知ったからって真似できないだろうな」

 色々と言ってくれるが、アッシュとグレイに遭遇した幸運と話が通じるが故の結果なので、同格のテイマーは先ずいないだろうな。
 幾ら幻獣をテイム出来たとしても、魔力操作や使っていない魔法を使える様に教える事が出来るだろうか。

 二代目ファングを改めて鑑定して見る。

 〔鑑定、ファング、♀、8才、フォレストウルフ(ランディスの使役獣)氷結魔法、転移魔法、魔力117〕

 一頭だけだが、何とかウルフが手に入ったので満足してハイムントに向かった。

 * * * * * * *

 五月には魔法大会の為に王都へ行かねばならない。
 ファングの訓練はシルバーと共に基礎訓練や魔力操作を、ブラックやフラッグに丸投げしておく。

 久し振りのハイムント冒険者ギルド、用が済んだらグレインに向かうのでアッシュ達も連れて街に入ったが、やっぱり騒ぎになる。
 二代目ファングはウルファと入れ替わっているので気付かれないが、ブラックとシルバーが目立っていて、以前俺達を見た事のある者達が彼此と噂し合っている。

 ギルド入り口横にはフォックスが座っていたので、ファルを隣に座らせると反対側にアッシュ達を座らせたが、目立つねぇ。

 一人で飲んでいたヨハンに手を振ってから、解体場に入らせてもらう。
 アルカン達が獲物を並べ終わった隣りに、フォレストウルフ13頭を並べてアルカン達の獲物だと伝える。

 少し間を開けて、残りのフォレストウルフを並べているとサブマスが飛んで来た。

 「よう、侯爵様。大物を頼むぞ」

 「野暮用で森に入っていたので、大して獲物は持ってないよ」

 「それでも少しは持っているんだろう。一頭ずつで良いから出してくれよ。良い話を聞かせてやるからさ」

 「良い話?」

 「おお、聞きたいだろう。だから大物をたっぷりと頼むぞ」

 「最近狩りなんてしてないので、タイガー系やウルフしか持ってないぞ。後は熊が1、2頭だったはずだ」

 「だった筈って覚えてないのか」

 「此のマジックバッグは時間遅延が360なのさ。一年や二年で腐る心配がないので数まで正確に覚えていないよ」

 「仕方がない、それで辛抱してやるよ。侯爵様」

 「サブマス、俺を馬鹿にしているだろう」

 「とんでもない! ホールデンス王国一の武闘派と名高い、ランディス・グレイン侯爵閣下を馬鹿にする様な度胸はないぞ」

 「思いっきり揶揄っているじゃないか」

 ブランウベアとレッドベアにファングタイガーを含むタイガー類五頭を、フォレストウルフの隣りに並べ後はホーンボアやオーク類を並べてお終い。

 「たったこれっぽっちかよ」

 「ん、文句があるのなら、此れからハイムントに立ち寄っても一頭も出さないからな。此れからも時々森の奥へ遊びに行くつもりだけどなぁ」

 「判ったよ。以前お前のギルドカードを取り上げた、エグモントのギルマスは解任されたぞ。何でもお前と揉めた奴等を探し出して取り調べた結果、其奴等から相当甘い汁を吸わせてもらっていたそうで、解任されたな」

 「解任だけなの?」

 「自白だけで証拠がない以上、仕方がないさ。お前を襲った奴等は、全て犯罪奴隷になっているので良しとしろよ」

 * * * * * * *

 食堂に行くと、アルカン達とヨハンが馬鹿話をしていた。

 「御領主様になったと聞いたが、なんで冒険者をしているんだ」

 「煩い奴等から身を守る為に、侯爵という名の防壁だな。自由な生活の為に不自由に耐えている、面倒だよね。ヨハンはどうなんだ」

 「今の生活が気に入っているので、冒険者を引退したら門番にでも雇ってくれ」

 「ヨハンを門番なんて勿体ない。侯爵と言えば聞こえが良いが、領地はグレインの街一つなので、末席の子爵と変わらないぞ。ヨハンも、テイマースキル持ちが居たら俺の所へ知らせてよ」

 「それな、何人も俺の所へ弟子にしてくれとか、テイムする秘訣を教えて欲しいと言ってくるぞ」

 「そうなのよね。でも大概は偉そうに教えろとか、貴方を紹介しろと煩くせがむ奴なので、身分証をちらつかせて無視しているわ」

 「テイマースキル持ちがいたらどうするつもりなんだ」

 「グレインの領地には五町七村が含まれるのだけれど、最近野獣が増えているらしいんだ」

 「増えている?」

 「サブマスと幾つかのパーティーから聞いた話だけど、らしいってね。領地をもらったけれど、代官の代理人が治めていた町や村の防壁は、バッファローの突撃で崩れそうなんだ。防壁を作り直すまでの間は、冒険者が頼りなので戦力アップだな」

 「そんな簡単に幻獣なんて居ないのにか」

 「タイガー系とかウルフ系なら、使役獣にするのは簡単だろう」

 「まぁ、ランディスなら簡単なのは判るが」

 「ヨハンやアルカン達のお眼鏡に適う奴を頼むよ。ウルフ種とかタイガー種を従えられれば、一端の戦力になるので迂闊な奴には預けられないからな」

 「そういう奴は自分から売り込みには来ないぞ」

 「だから、テイムの事や使役獣の事を聞きに来る奴を見定めてさ」

 「それが一番難しいのよね」
 「冒険者になって解ったが、性格に難がある奴ばかりが生き残っているので難しい注文だぜ」

 「まぁ、居ればって事で」

 「兄さん、俺もテイマースキルを授かっているんだが、そんなに簡単に野獣を手に入れられるのか」

 一つ隣のテーブルに座る男から声が掛かったが、長年冒険者を続けている様で、敵意は無いが抜け目のなさが見て取れる。
 アルカン達とヨハンに目を走らせると、フェリスの目がスーと外れていく。
 ヨハンは苦笑いで俺の顔を見ているが、タイラント公爵邸で見た面白がっている時の顔になっている。
 推薦する気は無いが、俺が此奴等をどう扱うのか見物する気満々って事だな。

 「テイマースキルを授かっているのなら、此までに一度や二度は野獣をテイムした経験がある筈だが、テイムした野獣はなんだ?」

 「よせやい。使役獣に使えそうな野獣を無傷で捕まえる事なんぞ出来るかよ」
 「野獣相手に手加減すれば、俺達が怪我をするからな」
 「えらく気軽に野獣をテイム出来る様に囀るので、それならと声を掛けたんだが」
 「テイマー二人と話しているのでそれなりの腕だと思ったが、ただの知ったかぶりか」
 「人のテイム能力を聞くのなら、お前はどうなんだ?」

 「フラッグ、肩に乗りな」《フラッグ、肩に乗りな》

 フラッグがフードの中から出て来て肩に乗ると、フェリスが吹き出した。
 ヨハンは微妙な顔で、フラッグを見て溜息を漏らしている。
 俺のテイム能力を聞いてきた男が、肩に乗るフラッグを見て呆れた様に顔を顰めている。

 「いやいや、確かに立派なテイマーの様だ。ゴブリンとハウルドッグをテイムした経験はあるが、ゴブリンは臭くて耐えられなかったしハウルドッグはキャンキャン煩くて、それ以来テイムしていない」

 「テイムした時の詠唱は?」

 「此処であの恥ずかしい台詞は勘弁してくれ」

 「野獣を従える時には、テイムを二度呟くだけでテイム出来るぞ。恥ずかしい詠唱を聴いてみたいが、ドッグ系で試してみなよ」

 「今度の討伐の時に試させてもらおう」

 「その時には野獣に対して〔お前より自分の方が強いので従え〕との気持ちでやってみな」

 「タイガーキャットを従えていると聞いたが」

 「表に居るよ」

 「ライドだ〔血塗れの牙〕のリーダーでテイマースキルを授かっている」

 「ランディスだ、グレインの街に来たら、ヴォルグと名付けられた使役獣の居るパーティーに声を掛ければ、俺に知らせが来る。五月は王都に用があるので居ないが、それ以降なら野獣をテイムするのを手伝ってやるよ」

 「有り難い。必ず行かせてもらう」

 「本当にタイガーキャットを連れて居るのか?」
 「そのちっこいのも魔法を使うと噂だが、本当か?」
 「ちと、タイガーキャットを拝んでくる」

 ドタバタと四人ほどが食堂から出て行くと、フェリスが意味有り気に俺の顔を見てくるので、肩を竦めておく。
 スレてはいるが、悪意を持って声を掛けて来た様には見えなかったからな。
 それに敵に回る様なら、上書きをして使役獣の支配を奪うだけだ。
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