幻獣を従える者

暇野無学

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108 魔法大会

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 グレインに戻りシルバーとファングの魔法の練習を本格的に始めたが、暇を見つけて冒険者ギルドに出向く。
 エドガ達への伝言を頼むつもりだったが、入り口横にクロウを見つけてマイルズ達の所へ向かう。

 「フリッツとマイルズ、調子はどう?」

 「ランディスさん! クロウは良く遣ってくれていますが、無理をしない様に気を付けています」
 「以前に比べて稼ぎが増えているので、楽になりました」

 「エドガ達と会う?」

 「一度会いましたが、彼方は野営が多いので会えません」

 「そう、見掛けたら頼みたい事があるので、ハリスンに会う様に伝えておいてくれないか。俺は来月には王都へ行かなきゃならないので頼むよ」

 * * * * * * *

 五月になる前日に、アッシュを含めた全員で王都に向けて旅立った。
 今回はジェイコやメイド達は連れずに王都に行くと告げたときの、ハリスンの反対は強固だった。
 侯爵家の体面がーとか、冒険者の姿では他の貴族に侮られますと散々責められた。
 護衛の騎士や冒険者を引き連れての馬車旅は、一度で懲りたので一人で行くと押し通した。

 大体アッシュとグレイに、フラッグ、ブラック、シルバー、ファングと、六頭もの幻獣が居れば、下手な護衛は邪魔なだけだ。
 三日目の夕暮れ時には王都カンタスの南門に到着した。
 貴族用通路を五頭の幻獣を従えて通る俺は注目の的で、警備兵の敬礼を受けて通路を抜けると迎えの馬車が待っていた。

屋敷に到着すると執事のオルヴァが出迎えてくれたが、アッシュを初めて見たので顔が引き攣っていた。
 居間に腰を下ろすとお茶が運ばれてきたが、同時に書類の束が横に置かれた。

 「旦那様の王都到着をヒューヘン宰相閣下にお報せ致しましたところ、明日魔法大会の説明をするので来て欲しいとの事です。此方は、十二月から四月迄の収支報告書で御座います」
 飲みかけたお茶を吹き出す寸前で何とか耐えたが、噎せてしまった。

 収支報告書の使用人一覧を見て、思わず天井を睨んでしまった。
 執事のオルヴァ以下、補佐と見習いの3名。
 護衛騎士20名に屋敷の警備と使用人達の護衛の者が20名。
 メイド長とメイドで15名に下働き5名。
 料理人4名と下働き2名。
 馬車の御者と馬丁で4名。
 此れだけで73名居て、此に馬車や屋敷の維持管理に別途費用が掛かる。

 執事のオルヴァの金貨10枚から下働きで金貨2枚、平均金貨4枚として金貨252枚、25,200,000ダーラ。
 年金として金貨6,000枚を貰っても、月平均500枚。
 使用人達の食事から衣服に雑費まで含めると余り残らないし、屋敷の維持管理などを含めると足りなくなる恐れがある。
 年金は王都屋敷の維持費だったのかと納得した。

 足が出たら領地を返納してやろうと思ったが、教皇と大教主達から毎年金貨8,000枚が上納されるんだった。
 貴族街に屋敷を賜れば、領地だけの収入で維持するとなるし大変だろう。

 * * * * * * *

 昼食後王城へお出掛けだが、アッシュとグレイにブラックを連れて行く。
 王城に到着して控えの間で待つ事暫し、従者の迎えを受けてヒューヘン宰相の執務室で面談するが、魔法大会の概要説明と魔法師団の連絡係からのアッシュ達の魔法披露の確認だが、アッシュとグレイにブラックのみを出場させると押し切る。

 未だ訓練が終わっていないシルバーとファングや、小さすぎて観客席が見えないフラッグを出しても意味がない。

 * * * * * * *

 「宰相閣下、グレイン侯爵家執事からの報告書です」

 鑑定使いをグレイン侯爵家に送り、屋敷に残っている幻獣を鑑定させた結果の報告が届いた。
 その報告書を読んで思わず溜息が漏れる。

 〔鑑定、フラッグ、♀、14才、テイルフェレット、(ランディスの使役獣)土魔法・結界魔法、魔力91〕
 〔鑑定、シルバー、♂、2才、シルバーフォックス(ランディスの使役獣)土魔法・水魔法・収空間納魔法・転移魔法、魔力92〕
 〔鑑定、ファング、♀、8才、フォレストウルフ(ランディスの使役獣)氷結魔法、転移魔法、魔力117〕

 フラッグは以前の報告と変わらずだが、残り二頭は新しい幻獣だ。
 以前の報告書にはファングとウルファ二頭のウルフが記載されていたがそれが無い。
 変わってシルバーフォックスと、ファングと名は同じだがフォレストウルフが加わっている。

 あの男は、いったい幾つの幻獣を従える気なのか。
 ランディス・グレイン、彼は〔幻獣を従える者〕として、後世に名を残す幻獣使いとなるのは間違いないだろう。

 * * * * * * *

 魔法大会までの間、アッシュ達の運動がてら毎日王都の外へ出ていたが、南門は冒険者達と住民が見物に集まり一騒動。
 アッシュは以前殆ど王都に入る事が無かったし、一度に五種の使役獣が見られので人気が出た様で、アッシュとファング以外は馬車の中に逃げ込んでいるので、不満の声が聞こえてくる。

 その点冒険者達や、貴族のお抱えとみられるテイマーが草原にまで付いてきて遠巻きに見物している。
 こんな時は侯爵という身分は有り難い。
 まっ、幾ら見られても自由に遊ばせているだけなのだが、貴族のお抱えテイマーと思しき奴もチラホラと見受けられる。

 ただ、ホルセン村近くで使役獣の訓練をしていた事が知られている様で、その話をしている者がいるとアッシュが教えてくれた。
 テイマーと思しき奴等は、使役獣の訓練方法を探りに来ているのだろう。
 ハイムントでも使役獣を寄越せと言ってきた奴が割といたが、どうせ噂が広まるのなら、此を利用しない手はないし侯爵という身分は利用できそうだ。

 * * * * * * *

 魔法大会当日、俺達の出番は魔法部隊の最後なのだが、冒険者や他の幻獣の魔法を見る為に早朝から出掛けて貴族席に陣取った。
 ガラガラの貴族席のなかで、侯爵席の俺の所だけが複数の幻獣と共に見物しているので、遠くからも目立っている様だった。

 まぁ魔法大会の開会式の時だけは国王以下多数の貴族も臨席したが、一般部門が始まると姿が消え、優秀な者を探してスカウトする勧誘係だけが貴族席に残っている。

 一般の部は攻撃魔法使い達が、火魔法・氷結魔法・雷撃魔法・土魔法の順に出場し、定められた標的に魔法を射ち込んでいく。
 規定数の魔法を射ち、一定水準に達する者は結界魔法使いが展開した障壁を攻撃して終わり。
 規定に達しない者は途中でも出場者の列から外されていく。
 合格した者だけが結界の障壁を攻撃するが、障壁が簡単に破られると結界魔法使いの姿が消えていく。
 規定の攻撃数と命中率に合格した者だけが残る中々厳しい審査で、大半の者が途中で消えていった。

 幻獣を従えた部門の出場者は極端に少なく、その中でファルを従えたフェリスを見た時にはずっこけた。
 ホールデンス公爵様に出場を依頼されたなと思っていたら、ヨハンとフォックスが控えの席に座っている。
 火魔法では30mの位置から全ての標的を撃ち抜き、続く雷撃用の標的も全て命中。
 攻撃力を抑えているとはいえ威力十分な魔法なので、観客席からは拍手喝采を浴びて照れている。

 最後に結界魔法のドームを展開すると、ヨハンがフォックスを連れて現れた。
 ファイヤーボールから始まり、ストーンアロー、アイスアロー、雷撃と全ての標的を撃ち抜き、最後にファルの設置した結界のドームに向けて魔法を射ち込む。

 ファイヤーボールから雷撃まで五発ずつ、計20発全ての攻撃を防ぎきり万雷の拍手を受けるが、攻撃したフォックスも同様の拍手を受けていた。
 貴族席に座る勧誘係は、ホールデンス公爵家の所属とアナウンスされた時点で、勧誘を諦めて実力を見定める事にした様だが、結果に驚いていた。
 最後にフォックスが設置した土魔法のドームを、フェリスがファルに攻撃させたが、此方もファルの攻撃に耐え抜いた。

 ふと視線を感じて顔を向けると、ホールデンス公爵様とヘイラートが貴族席に座って俺達を見て笑っている。
 こんな時にも力の誇示とは、貴族とは因果な商売だなと苦笑いが出る。

 * * * * * * *

 午後からは貴族お抱えの魔法部隊と幻獣の魔法披露が始まったが、俺は国王陛下と王族達が座る観覧席の隣りの升席に呼ばれて、其処から魔法部隊の攻撃披露が終わるのを待つ事になった。

 ちょっと嫌な視線にアッシュやグレイのご機嫌が悪くなる。
 王族達からすれば、俺が侯爵位を賜っていても所詮は冒険者で流民だとの意識が抜けないのだろう。
 晩餐会の時は離れていたので見向きもされなかったし、捨て置かれるのに何の文句もないが、侮蔑と敵意を含んだ視線は俺も気分が悪い。

 彼奴らは離れた所から見ていて気付かれていないと思っている様だが、嫌な視線や敵意には敏感なんだよ。
 視線の先を見ると、干からびたゴブリンが髭を生やして服を着た様な男と目線が合ったが、あからさまに鼻をフンと言わせて目を逸らしやがったが、額から汗が流れている。
 まあ、俺の視線と言うより、アッシュとグレイの視線に耐えられなかったのだろう。

 貴族部門が終わると、王国軍魔法部隊の精鋭が標的から40m以上離れて待機する。
 貴族席や一般の見物席から騒めきが起きるのは、何時もと違うせいだろう。

 魔法部隊の指揮官が国王陛下に向かって一礼したので、俺も陛下に一礼してグレイのバンダナを掴み彼等の正面にジャンプ。
 魔法部隊が整列している正面に現れたグレイと俺を見て、魔法部隊の者達がびっくりしている。
 次の瞬間グレイの姿が消えたので会場がざわめくが、ブラックを連れて現れると同時に、結界のドームを展開する。
 騒めきが一層大きくなるが、俺は魔法部隊の指揮官に攻撃開始の合図を送った。

 魔法部隊指揮官の合図で、ファイヤーボール、ストーンランス、アイスランス、雷撃と、全ての三連続攻撃を防ぎきる。
 攻撃が終了すると、魔法部隊の指揮官が陛下に一礼して魔法部隊を下がらせた。
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