幻獣を従える者

暇野無学

文字の大きさ
120 / 149

120 包囲攻撃

しおりを挟む
 「のうヒューヘン、幻獣でないのなら、キングタイガーは他国に対する牽制になるな」

 「私も儀典用に最適だと思いました。ただ彼は野獣が増えているとの情報から、テイマーである冒険者達に野獣を譲っていますので」

 「だが幻獣ではないのなら、今回の騒ぎが収まれば交渉の余地はあると思うぞ」

 「キングタイガーを譲り受けた冒険者がいるのか確認させてみます」

 「それと、プラシドを含む三つの街の領主は何か言ってきているか」

 「全てフルンベルト伯爵の領地ですが、未だ何も。ただ冒険者ギルドはアルベール街道沿いのギルドに応援要請を出して腕利きを集めている様です」

 * * * * * * *

 「ヨハン、あんたも呼ばれたの」

 「有り難い事にな。向こうにはランディス殿も居るそうだ」

 「ランディスが何で?」

 「聞いた話だと野獣の群れに襲われていたパーティーを助けたそうだが、尋常じゃない数の野獣の群れだったそうだ」

 「それって、ランディスが気にしていた野獣が増えている事と関係あるのかしら」

 「多分な。ハイムントでも腕の良い奴等はアレット、ウルフレント、プラシドに振り分けて送り出しているそうだ」

 「野獣の数が多いと、防御の薄い所は大変そうね」
 「俺達とヨハンの所は攻守ともに安心なので、他のパーティーを押しつけられるかもしれんぞ」
 「変に意気がった奴等だと嫌よね」
 「その時はランディス・・・グレイの雷撃を真似て尻にきつーい一発をお見舞いしようぜ」
 「おお、あれは痛そうだからな」
 「尻も痛かろうが、股間に喰らった奴は悶絶しているぞ」
 「ヨハンは一人だから気を付けろよ」

 「フォックスは雷撃も土魔法も使えるので、グダグダ言ってきたら埋めてなかった事にしてやるよ」

 「お前さんも、ランディスに似た様な性格だな」
 「本当にね。ランディスなんて、にっこり笑ってきつーいお仕置きをするからね」

 * * * * * * *

 「侯爵殿、バッファローの群れがいるので蹴散らしてくれないか」

 「バッファロー・・・数は?」

 「アーマーバッファローが3、40頭の群れで、ブッシュバッファローは2、30頭らしい。グレイトバッファローと、バッファローはそれぞれ凄い数で数えられないそうだ。あんたには八つのパーティーを預けるので、蹴散らした後は彼等に任せてくれ」

 「判った。で、そのパーティーは何処に」

 「紹介するので食堂に来てくれ」

 サブマスに続いて食堂に行くと、何も置いてないテーブルに座る一団が一斉にサブマスと俺を見てくる。

 「お前等も噂で知っているだろうが、ランディス・グレイン侯爵殿だ。侯爵殿はテイマーで冒険者であり、今回のバッファロー討伐の指揮を執って貰う」

 「サブマス、その若造が侯爵だからって、俺達の指揮を執るとはどういう事だ。バッファローの群れを分散してくれるって話だから、この依頼を受けたんだぞ」

 「その群れを分散させる為に俺もこの仕事を受けたんだ。あんた達はグレイトバッファローとバッファロー討伐に専念してくれればよい」

 「なにかい。アーマーバッファローやブッシュバッファローの美味しい所はお前が掻っ攫おうって魂胆か!」

 「アーマーバッファローは3、40頭の群れと聞いているが、あんたが討伐出来るのなら任せるぞ。俺はあんた達が手に負えない所を受け持つ予定だからな」

 「大きく出たな。出来るのならお前がアーマーバッファロー討伐をやってみせろ!」

 「あれっ、あんたがアーマーバッファローを受け持ちたいんじゃないのか? さっきの口振りから、一番美味しいアーマーバッファローを寄越せと聞こえたんだが」

 他のテーブルで話を聞いていた奴等が鼻で笑い、離れた席で飲み食いしている奴等からも笑いが聞こえてくる。

 「何が可笑しい! お前も貴族だからって偉そうにしやがって」

 「あー、そんな話はどうでも良いと言うか、意気がるだけなら奥のテーブルに行ってエールでも飲んで法螺を吹いてろ」

 立ち上がり、真っ赤な顔で睨んでくるが、俺の肩に乗り男をにらみ返しているフラッグに、毒気を抜かれた様な顔になっている。

 「お前さんのパーティーは別な依頼を受けてくれ。残りの者で不服の有る者は此の依頼から降りてくれ」

 誰も何も言わないので、彼等の役割を説明する為に訓練場に移動してもらった。
 残ったパーティーは七組は、俺が何をするのか興味津々の様子だ。

 一つのパーティーに集まってもらい、他のパーティーは少し離れて見ていてもらう。

 シルバーを呼び中央に集まって貰っているパーティーを大きめなドームで囲ってもらう。

 「おー、土魔法か」
 「しかも一瞬だぞ」
 「強度は? 大丈夫なんだろうな」

 「アーマーバッファローの突撃にも耐えるよ。これと同じ物を各パーティーに提供する」

 「待ってくれ。相当大きな群れと聞いているが、密集していては討伐出来ないだろう」

 「それも問題ないので、最後まで黙って見ていてくれ」

 ファングを呼び、フラッグをファングに掴まらせると、離れたパーティーを指差し「彼処へジャンプして、フラッグがドームを作ったら戻ってこい」と口頭と念話で命じる。

 指差されたパーティーの者が何が起きるのかと首を伸ばした瞬間、ファングの姿が消えると、彼等の前に現れた。
 驚きの声をあげる彼等を無視してフラッグが一瞬でドームを作ると、ファングが俺の前に戻ってきた。

 「転移魔法か!」
 「馬鹿な! 幻獣で転移魔法なんて聞いた事がないぞ!」
 「それに一瞬で土魔法のドームを作ったぞ!」
 「噂以上じゃねぇか」

 「見たとおりだ。土魔法のドームが作れるのが三頭と、転移魔法を使えるのが二頭居る。それ以外に火魔法、雷撃魔法、氷結魔法も使えるので、群れを分散させるのは此方でやる」

 「アーマーバッファローを受け持つと言ったが、どうやるのか教えてもらえないか」

 「全員出入り口の所へ移動してくれ」

 皆がゾロゾロと訓練場の入り口まで移動したのを確かめてから、アッシュ達を呼ぶ。

 《アッシュ、グレイ、ブラックは、真ん中のドームに強めの雷撃を五発ずつ落としてくれるかな》

 《良いわよ》

 アッシュの返事と共に〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉と連続して雷撃音が轟いた。
 ドームの頂点に雷光と電撃が走る。
 
 驚きの声が聞こえてくるが、続いてグレイの雷撃が始まり、轟音に声がかき消される。
 次いでブラックの攻撃が続き〈バリバリドーン〉〈バリバリドーン〉と五発連続して落とす。

 静まりかえる見物人に「このギルドを吹き飛ばす程度のファイヤーボールを使えるが、此処では見せられない。あんた達は、分散させたバッファローを討伐して欲しい」

 「転移魔法に雷撃とファイヤーボールか、土魔法のドームの中から見物していて、群れが散ってからバッファロー討伐なら楽勝だな」
 「ああ、怪我の心配も無さそうだし、楽に稼げそうだ」
 「幻獣と共に闘う事になるとはなぁ」
 「雷撃は凄かったが、ファイヤーボールを此処では見せられないとは大きく出たな」

 「お前は知らないのか?」

 「何をだ?」

 「王都の魔法大会の話だよ。もの凄いファイヤーボールを空に打ち上げて爆発させたが、観客席まで爆風が届き大騒ぎになったそうだぜ」

 * * * * * * *

 二日後にバッファローの移動が止まったとの知らせで、討伐に向かう事になった。
 同行するのは七つのパーティーは、総勢46名。
 プラシドを出発すると東北方向、群れを監視していたパーティーの連絡係の案内でウルフレントよりに進む。
 夕暮れ前に合流した連絡係の仲間の説明では、各群れは草原や雑木林に数キロの距離を置いて草を食んでいるとの事だ。
 簡単な配置状況を教えてもらい、翌朝の討伐に備えた。

 * * * * * * *

 早朝薄明かりの中を移動し、最初の群れを包囲する様にドームを展開して各パーティーに待機してもらう。

 「グレイトバッファローとバッファローは、数が多くて数えられないって話だったが、確かにな」
 「七つのパーティーで包囲しても、相当射ち漏らしがでるな」
 「構わねぇさ。元々群れを分散させるのが目的だからな」
 「それをあの幻獣が手助けしてくれるんだ」

 呑気に話をしていると、群れに異変が起きたのか彼方此方からバッファローの鳴き声が上がりだした。

 グレイトバッファローの群れの周囲ではブラックとシルバーにファングが、群れの周囲を駆けながらアイスランスとストーンランスを無差別に射ち込んでいた。
 段々と異変に気付いた群れが騒ぎ出したとき。グレイがアッシュを伴って群れの中心にジャンプすると同時に、二人して無差別に雷撃を振りまく。
 その音を合図に、ブラックも群れの外周を駆けながら雷撃を撃ち込んでいく。

 グレイトバッファローの群れが恐慌を起こして走り出したのをみて、シルバーやブラックは近くのドームに飛び込んだ。

 「おいおい、あっと言う間に追い散らしたぞ」
 「それよりも俺達の獲物が逃げ散ったらどうするんだ!」
 「その心配は無さそうだぞ」
 「相当数が手負いで動きが鈍いな」
 「雷撃音が消えたぞ」
 「よーし。俺達の出番だ、稼ぐぞ!」

 彼方此方のドームから歓声が上がり、やる気満々の冒険者達が手負いの群れに向かって行く。

 * * * * * * *

 「此を侯爵様の幻獣がやっているのか?」

 「ランディスだ。今はただの冒険者なので侯爵様はいらないぞ」

 群れを監視していた奴等とドームの中から状況を観察していると、ファングが各ドームにジャンプして、ブラックとシルバーを連れ戻ってきた。

 「転移魔法は初めて見たな」
 「しかも幻獣がだぞ」
 「転移魔法を使って、幻獣が幻獣を連れて来るなんて」
 「誰に話しても信用されないだろうな」

 アッシュとグレイが戻ってきたので「アーマーバッファローとブッシュバッファローの討伐をして来る」と伝えて、俺達は次の群れに向かった。

 「行っちまったぜ」
 「此処で待ってろって言ってたが、此処の片付けだけで何日掛かることやらだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

神様の人選ミスで死んじゃった!? 異世界で授けられた万能ボックスでいざスローライフ冒険!

さかき原枝都は
ファンタジー
光と影が交錯する世界で、希望と調和を求めて進む冒険者たちの物語 会社員として平凡な日々を送っていた七樹陽介は、神様のミスによって突然の死を迎える。そして異世界で新たな人生を送ることを提案された彼は、万能アイテムボックスという特別な力を手に冒険を始める。 平穏な村で新たな絆を築きながら、自分の居場所を見つける陽介。しかし、彼の前には隠された力や使命、そして未知なる冒険が待ち受ける! 「万能ボックス」の謎と仲間たちとの絆が交差するこの物語は、笑いあり、感動ありの異世界スローライフファンタジー。陽介が紡ぐ第二の人生、その行く先には何が待っているのか——?

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...