幻獣を従える者

暇野無学

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149 それぞれの使役獣

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 食堂に行くと、エドガ達がニヤニヤと笑いながら迎えてくれた。

 「ランディスさんが、凄い数の野獣を従えているって噂になってますよ」
 「ランディスさんを守るように、綺麗な隊列を作っていたって評判になってます」
 「いったいどれ位の数を連れ帰ったんですか?」

 「18頭だ、これくらいの数がいれば、当面は足りるかなと思ってな」

 「18頭・・・それに元の幻獣を9・・・10頭入れたら28頭ですか」
 「それは噂になるわねぇ」
 「並みじゃないのはよく判っているけど、一月少々でそれって」
 「凄すぎですよ」

 「ケイシー達の訓練は終わり、パーティーだけで討伐に行ってますが、ぼちぼち戻ってくる頃です」

 「三日後に使役獣を求めて来た奴等に引き渡そうと思うので、引き続き訓練を頼めるかな」

 「それは良いですけど、凄い人数になりますよ」

 「ケイシー達〔血槍の誓い〕にも頼むつもりだ。それに基礎訓練が終わったパーティーから実戦訓練だが、元々使役獣無しで闘っていたのだから2、3日で良いだろう」

 「それでも大変ですよ」

 「だから使役獣を引き渡したテイマーだけを屋敷に残して、動かし方の基礎訓練をして欲しいんだ。自由に動かせるようになったら、草原に出て仲間達との行動訓練だ。その後で実戦だが、使役獣を使っての討伐を理解したら放り出すよ」

 「それじゃー、実戦訓練の後は無理のない相手から討伐をするように言っておく必要がありそうですね」

 「そこを判ってくれないと死ぬけど、それは自分達の判断ミスだから仕方がない」

 ケイシー達が間に合ったら、三日後に屋敷に連れて来る様にと頼んでギルドを後にした。

 * * * * * * *

 テイマーやテイマーを伴ったパーティーが、続々と通用門から入って来る。
 パーティー名とテイマーの名前を名乗ると、執事補佐ジェイコの指示によって、訓練場の一角に案内される者達と通用門脇で待機されられる者達に分けられた。

 通用門脇で待機させられた者達から疑問や不満の声が上がるが、警備兵に一喝されて静かになる。

 ファングドッグの牙と血槍の誓い二つのパーティーが到着し、警備兵の敬礼を受けて訓練場に向かおうとしたが、待機させられている者達から彼等に不満や恫喝の声が発せられた。
 その声を合図に、物陰から警備兵の一団が殺到し短槍を突き付ける。

 「黙って聞いていれば好き勝手を言っているが、おのれ等は此処をを何処だと思っている。気に入らないのなら、即刻当地より立ち去れ!」

 ジェイコの一喝により、待機させられていた者達は屋敷から連れ出された。
 彼等はエドガやアデーレ、ケイシー達から不適格と判断された者達で、警備兵の護衛付きで街から放り出されてしまった。
 その際に警備兵から「お前達の名前は判っているので、この街と領地に来るのなら、それなりの覚悟がいるぞ」と言われてしまった。

 一方屋敷裏の訓練場に案内された者達は、野獣達が寛ぐ柵の中に入れられててビクビクしていた。

 ブラックキャットとブラックタイガー、レッドフォックスとグレイフォックスがそれぞれ一頭。
 フォレストウルフとファングウルフにグレイウルフが多数いては、幾らテイム済みの野獣とはいえ迂闊に近寄るのが憚られた。
 と言うよりも、腰が引けてしまっていた。
 何せこの柵は自分達の肩ほどの高さで、しかも出入り口は扉もなく出入り自由だ。
 其処へスリーとフォーがやって来ると、収納から野獣の死骸を取り出してお食事タイムとなり、驚くと同時に肝を冷やしていた。

 程なくしてアデーレやケイシー達がやって来たので、皆ホッとしていた。
 だがアデーレやケイシー達は、彼等には見向きもせずに柵内の野獣達を見て目を輝かせている。

 自分達の使役獣を柵の外に座らせると、中に入り寛ぐ野獣達をじっくりと見てはコソコソと話しあっていた。

 「どれか判る?」
 「無理、ランディスさんも教えてくれなかったし」
 「おりゃー、ウルフとフォックスの見分けはつくが、ウルフだけでもこんなにいたらさっぱりだぞ」
 「だいたい幻獣かどうかなんて、見分ける方法があるのか?」

 「私に聞かないでよ。ランディスさんがもう一頭って言ったら、お父ちゃんが是非もらえって必死だったのよ」

 「当たり前だ! 幻獣を譲ってもらえるなんて、一生に一度あるかなしか・・・無い事だからな」

 「それよりも、赤い紐からぶら下がっている札に何を書いているのかしら」

 そう言いながらケイシーが寛ぐフォレストウルフの側にしゃがみ、赤い紐から下がる札を見ている。

 「なに、此?」

 「どうしたの?」

 「フォレのフォー、そっちはファンのツーよ」

 「あー、それってフォレストウルフの四番目と、ファングウルフの二番目って意味よ。私のワンとツーも、ブラックウルフを沢山テイムして名付けが面倒だと言って番号をつけていたわよ」

 「アデーレのワンとツーって変わっていると思ったけど」

 「そういう事よ。私もいきなり名前をつけろって言われて思いつかなかったので、そのままワンとツーにしちゃったわ」

 「おい、ランディスさんが来たぞ」

 * * * * * * *

 スリーとフォーから知らない人族がたくさん来ていると連絡を受けて、ジェイコと共に訓練場に向かった。

 「お早う御座います、ランディス様。凄い数ですね」

 「まぁな。少し余りそうだけど、テイマーはもっと沢山いるからな」

 柵内で一塊になっていた者達が一斉に頭を下げるので、ちょっと決まりが悪いのでジェイコに予定通りにしろと命じる。
 ジェイコが申し込み用紙を見ながらテイマーの名を呼び、箱に入れた捻り文を一つ取らせるとその場で開封させて読み上げる。

 「グルのスリー」

 それを聞いた俺が「グルのスリー、来い」《グルのスリー、此処へお出で》と呼び、引き当てた者の側に座らせる。

 「フォレのツー」
 「ファンのフォー」
 「グルのツー」

 捻る文を読み上げるジェイコと、その度に俺が呼びかけるとやって来る獣を、文の持ち主の隣りに座らせる。
 呼ばれて並ぶテイマー達と、その隣りに大人しく座る獣は11頭。
 幻獣を引き当てたのは一人だけで、使役獣の半数以上のテイマーが居るのに、幻獣を引き当てたのは一人だけとは、くじ運の悪い連中だと苦笑いが出てしまった。

 「貴方達の隣に座る野獣のテイムを外すので、それをテイムしてもらう。練習はしているはずだと思うが、テイム出来なければ諦めてもらうのでそのつもりで。何か質問は?」

 「あのう、此は侯爵様の使役獣では」

 「そうだが、俺のテイムを外して貴方達にテイムしてもらう。テイムを外す方法は極めて危険だし、誤って伝わると他所で被害が出ても困るので教えられない。それとテイム出来たら、アデーレとケイシーから使役獣の扱いの基本動作を教えてもらえ。その間は此処で野営をしてもらう」

 騒めく彼等に一々説明するのは面倒なので、フラッグに小振りなドームを作らせて一頭ずつ中に呼び、足を固定し薬草袋を被せてからテイムを解除する。
 主となる者を呼びテイムを命じるが、緊張で何度か失敗する者にはアドバイスをして手助けをする。
 テイム出来れば呼び名を決めさせて、その呼び名で呼びかけさせる。
 11人にテイムさせ終わった時には流石に疲れたが、此処までくれば後はアデーレとケイシーにお任せだ。

 それぞれがテイムした使役獣を従えて仲間の所へ戻るが、一人目の色がブルーに変わった者がいて、仲間達の所に向かうと歓声が上がってる。

 幻獣の四頭はテイムした時から魔力操作をやらせているので、幻獣を引き当てた者は基礎訓練が終われば別メニューの実戦訓練をしなければならない。
 幸い今回は一頭だけなので、アデーレを補佐につけてケイシーにやらせる事にした。

 * * * * * * *

 野営用の簡易椅子にふんぞり返り、11頭の基礎訓練を眺めるのも悪くない。
 右に左に曲がり引き返したり伏せたりと、基礎訓練を眺めながら俺も念話で同時に指示を出す。
 基本的な指示を覚えたら、グレイとフラッグを除く八頭がそれぞれの使役獣に付き添い、彼等のパーティー仲間を加えて攻撃の位置取り訓練だ。
 此が終わると草原に出て実戦の予行演習、その後は実戦となるので皆真剣に取り組んでいる。

 * * * * * * *

 全員で冒険者ギルドに寄り、11頭の使役獣登録を済ませてから草原に向かった。

 此処からは個別指導となるので、アデーレ達とケイシー達に俺の三組に分かれて野獣を探す事になる。
 残りの者達はその間ドームの中でお留守番で、夕暮れ前に戻ってきたパーティーから討伐の様子や注意点等を真剣に聞いている。

 ただフォレストウルフを引き当てた者と、ブラックタイガーを従えた者では闘い方の基本は同じだが、若干闘い方が違ってくるのでそれぞれの使役獣にあった闘い方を考えろと言っておいた。

 訓練が終わった者からそれぞれの根拠地に戻っていくが、もう少し鍛えたいと残るパーティーもいて、グレイン冒険者ギルドのテイマー率が高くなってしまった。

 各パーティーとお別れする前に使役獣獲得のノウハウとして、待ち伏せして弓などで攻撃して動けなくしてからテイムし、その後で上等なポーションを飲ませれば健康な使役獣が手に入ると教えておいた。
 それぞれの地でテイマーを増やしてくれれば、俺達の負担が軽くなるので頑張ってもらわねばならない。

 幻獣を引き当てたパーティーが訓練を終えてお別れの挨拶に来てくれたときに。俺の配下を示す身分証を与えておいた。
 彼等が戻っていくのはラッヒェルの隣りファブリスと聞いたので、ツアイス伯爵なら無理は言わないだろうと一安心。

 全てのパーティーが手を離れたので、ファングドッグの牙と血槍の誓いを屋敷に招いてお疲れ会を開いた。
 メイン料理はとっておきの蛇の肉とゴールデンゴートの肉で、酒は消滅した伯爵家秘蔵の酒を振る舞って馬鹿騒ぎ。

 また少し大きくなったグレイに凭れて、酒のグラスを片手にのんびり出来る事に感謝。

 * * * 完 * * *

 次作「神様の不手際」はカクヨムの投稿が終わり次第アルファポリスに投稿する予定ですが、30話程度しか発表されていませんので・・・当分無理かな (^-^*)

 同時進行で投稿しようとすれば、ややこしくなって無学の頭がパンクしますのでご容赦下さい。
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