31 / 71
31 ナンセン団長の悲劇
しおりを挟む
ナンセン団長が王城を出てユーヤの家に向かった頃、ユーヤは簡素な室内を片付けて転移魔法陣を消去しさり、商業ギルドに向かっていた。
商業ギルドの不動産部門へ行くと、前回お世話になった方にもう少し広い家を借りたいと告げる。
留守の間訪問者の相手をし、家を管理する者を住まわせる広さが必要だと告げて紹介してもらった。
希望より部屋数が多い庭付き一戸建て、ゲルアトさん宅の半分程のお屋敷で、他に自由に手を入れる事の可能な物件が無かった。
仕方が無いので2年契約で金貨240枚を支払って借りる。
管理人は不動産部門から派遣してもらい、家屋の維持管理と来客の相手で返事は不用だが、内容を正確に俺に伝える事が条件だ。
諸費用は口座からの天引きだ。
転移魔法陣設置の部屋と居室にする部屋だけを決め、入室厳禁を言い渡し後は商業ギルドに任せた。
一晩新しい家に泊まり、翌日不動産部門から紹介された管理者に留守の間の対応の指示を済ませると、夜には山麓ゲートに跳んだ。
* * * * * * * *
ユーヤが新しい借家に現れたのは2ヶ月後だった。
古い借家の賃貸契約を解除していない事を思い出し、賃貸契約解除の為に戻って来たのだ。
その日の夜にはスタートゲートに跳び、森の散策と鉱山の有る各ゲートを転々として遊んでいた。
ナンセン団長はユーヤの家の前でひたすら待ち続けたが、2ヶ月後借家の持ち主が現れて契約解除を知らされた。
一縷の望みを掛けて商業ギルドに赴くと、新たな家を借りている事が判ったがユーヤは不在で、何時帰って来るのか管理人には伝えていない。
2ヶ月間不在だったが、帰って来たその夜には再び出かけてしまい、管理人も所在無さげである。
管理人曰く、訪問者の用件を全て書面にして渡したが、一読すると返事は不用と言って捨ててしまったと聞いた。
ただ一件、ゲルアト商会の書簡だけを懐に入れたと教えてもらえた。
ナンセン団長がユーヤに会えたのはそれから一月後である。
居る筈の無い家からひょっこり現れたユーヤが、玄関から出てきてナンセン団長と顔を会わせた。
「あれっ団長、何で此処に居るの」
「やっと会えたか。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」
「この家の事は知らない筈だが、どうしたの?」
「あの阿保な宰相のせいだ。奴は罷免されたからどうでも良いが、お前と連絡が取れなくなって大変だったんだ。3月も待ちぼうけさ」
「何か用事なの」
「以前阿保な貴族連中と豪商3人を叩き潰しただろう。あれの件で何やらで話し合う予定が、間抜けな宰相の御蔭で流れて困っているんだよ。お前に連絡を取ろうと家の前で待ち続けたが、二月して借家の契約解除を知った時には目眩がしたぞ。商業ギルドで話を聞き、此処で待つようになって一月経つ。頼むから陛下と会ってくれ」
「今日は駄目だ。明日なら良いが、王城って面倒くさそうなのがウヨウヨ居そうで、嫌なんだよね」
「いやいや俺が付き添うので、面倒事はいっさい無しだ。明日の夕方には迎えに来るので必ず居ろよ!」
「あー判った、日暮れ前には居るよ」
ナンセン団長は、すっ飛んで帰って行った。
俺はゲルアト商会を訪問して、宝石を提供し四方山話で時間を潰して家に戻った。
迎えに来た馬車は王家の紋章付きで、護衛の騎馬迄居る派手なやつ。
満面の笑みで馬車から下りて来たナンセン団長。
「嬉しそうですね」
「ああ、今日からお前を待つ為に、この家に通わなくても良いと思うと嬉しくてな」
「宮仕えの哀しさですか。腐れ貴族や商人の事なら、王家の支配下なので勝手にすれば良いのに」
「お前が潰した貴族連中の財産処分や、被害者救済の為に押さえてくれた商人の財産など、王家と言えども勝手には出来んのだ」
王家の馬車なので城門を素通りし、幾つかの門を潜り城の奥深くに入って行くき、止まったのは樹木に囲まれた瀟洒な一軒家だ。
日本人の俺からしたら豪邸だが、この世界の金持ちや貴族からしたら小さな離れ程度の感覚なのだろう。
慇懃な男に案内され「ユーヤ様とナンセン団長をお連れしました」との声でドアが開く。
思わず口笛の一つも吹きたく為る様な、絢爛たる部屋であった。
「漸く会えたなユーヤ。前回の招待は失礼した、彼には宰相としての能力不足なので下りてもらったよ」
「まぁ余り進んで来たいと思わないのですが」
「俺に対する礼儀は必要無いぞ。確かに貴族や豪商共の後始末の話は有るが、俺個人として其方を招待したつもりだ」
「以前も城門近くでお茶を御馳走に為ったが、ざっくばらんですね」
「まぁ座ってくれ。面倒な話の前に食事を済まそう。最もアースドラゴンやワイバーンを食している其方から見れば、質素な食事だがな」
「いやいや素材は良いが料理の腕はからっきしですので、料理人が腕を奮った料理には及びませんよ」
食事は和やかに進みテーブルが片付けられると「ソファーも良いが書類関係も有るのでこのまま遣らせてくれ」と陛下の言葉。
先ずクルンガー公爵とエメニール侯爵が拉致し、凌辱した人達と亡くなった人達の家族への慰謝料として、クルンガー公爵とエメニール侯爵の財産を充てる事を了承する。
その際、俺が手数料だと騙って懐に入れた財産に付いては不問にすると言われたので、その他細々とした事は全て王家に丸投げした。
捕らえた貴族達だが終身犯罪奴隷、家族も同様だが14才未満は孤児院に送り市民として教育する14~16は未成年では有るが5年間犯罪奴隷とする。
貴族本人達は犯罪奴隷だが、王城内で他の貴族達の世話係として晒し者になるらしい。
他の貴族達に対する牽制と、本人達の自尊心を叩き潰す目的だろう。
貴族位の剥奪と財産没収の上、家族共々犯罪奴隷として晒し者になる恐怖に、怯える貴族も多かろうと思う。
豪商達は本人と積極的協力者は犯罪奴隷に、家族は財産没収の上僅かな生活費を与えられて追放処分。
店舗は当分王家の管理下になり、そのうち分割して売却するとの事で全て了承する。
ヘルミナ商会の地下のお宝部屋を沈めて、元のお宝部屋にダミーの床を張ったまま放置しているのを思い出した。
今夜にでも行き、証拠隠滅をしておいた方が良いかな。
商業ギルドの不動産部門へ行くと、前回お世話になった方にもう少し広い家を借りたいと告げる。
留守の間訪問者の相手をし、家を管理する者を住まわせる広さが必要だと告げて紹介してもらった。
希望より部屋数が多い庭付き一戸建て、ゲルアトさん宅の半分程のお屋敷で、他に自由に手を入れる事の可能な物件が無かった。
仕方が無いので2年契約で金貨240枚を支払って借りる。
管理人は不動産部門から派遣してもらい、家屋の維持管理と来客の相手で返事は不用だが、内容を正確に俺に伝える事が条件だ。
諸費用は口座からの天引きだ。
転移魔法陣設置の部屋と居室にする部屋だけを決め、入室厳禁を言い渡し後は商業ギルドに任せた。
一晩新しい家に泊まり、翌日不動産部門から紹介された管理者に留守の間の対応の指示を済ませると、夜には山麓ゲートに跳んだ。
* * * * * * * *
ユーヤが新しい借家に現れたのは2ヶ月後だった。
古い借家の賃貸契約を解除していない事を思い出し、賃貸契約解除の為に戻って来たのだ。
その日の夜にはスタートゲートに跳び、森の散策と鉱山の有る各ゲートを転々として遊んでいた。
ナンセン団長はユーヤの家の前でひたすら待ち続けたが、2ヶ月後借家の持ち主が現れて契約解除を知らされた。
一縷の望みを掛けて商業ギルドに赴くと、新たな家を借りている事が判ったがユーヤは不在で、何時帰って来るのか管理人には伝えていない。
2ヶ月間不在だったが、帰って来たその夜には再び出かけてしまい、管理人も所在無さげである。
管理人曰く、訪問者の用件を全て書面にして渡したが、一読すると返事は不用と言って捨ててしまったと聞いた。
ただ一件、ゲルアト商会の書簡だけを懐に入れたと教えてもらえた。
ナンセン団長がユーヤに会えたのはそれから一月後である。
居る筈の無い家からひょっこり現れたユーヤが、玄関から出てきてナンセン団長と顔を会わせた。
「あれっ団長、何で此処に居るの」
「やっと会えたか。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」
「この家の事は知らない筈だが、どうしたの?」
「あの阿保な宰相のせいだ。奴は罷免されたからどうでも良いが、お前と連絡が取れなくなって大変だったんだ。3月も待ちぼうけさ」
「何か用事なの」
「以前阿保な貴族連中と豪商3人を叩き潰しただろう。あれの件で何やらで話し合う予定が、間抜けな宰相の御蔭で流れて困っているんだよ。お前に連絡を取ろうと家の前で待ち続けたが、二月して借家の契約解除を知った時には目眩がしたぞ。商業ギルドで話を聞き、此処で待つようになって一月経つ。頼むから陛下と会ってくれ」
「今日は駄目だ。明日なら良いが、王城って面倒くさそうなのがウヨウヨ居そうで、嫌なんだよね」
「いやいや俺が付き添うので、面倒事はいっさい無しだ。明日の夕方には迎えに来るので必ず居ろよ!」
「あー判った、日暮れ前には居るよ」
ナンセン団長は、すっ飛んで帰って行った。
俺はゲルアト商会を訪問して、宝石を提供し四方山話で時間を潰して家に戻った。
迎えに来た馬車は王家の紋章付きで、護衛の騎馬迄居る派手なやつ。
満面の笑みで馬車から下りて来たナンセン団長。
「嬉しそうですね」
「ああ、今日からお前を待つ為に、この家に通わなくても良いと思うと嬉しくてな」
「宮仕えの哀しさですか。腐れ貴族や商人の事なら、王家の支配下なので勝手にすれば良いのに」
「お前が潰した貴族連中の財産処分や、被害者救済の為に押さえてくれた商人の財産など、王家と言えども勝手には出来んのだ」
王家の馬車なので城門を素通りし、幾つかの門を潜り城の奥深くに入って行くき、止まったのは樹木に囲まれた瀟洒な一軒家だ。
日本人の俺からしたら豪邸だが、この世界の金持ちや貴族からしたら小さな離れ程度の感覚なのだろう。
慇懃な男に案内され「ユーヤ様とナンセン団長をお連れしました」との声でドアが開く。
思わず口笛の一つも吹きたく為る様な、絢爛たる部屋であった。
「漸く会えたなユーヤ。前回の招待は失礼した、彼には宰相としての能力不足なので下りてもらったよ」
「まぁ余り進んで来たいと思わないのですが」
「俺に対する礼儀は必要無いぞ。確かに貴族や豪商共の後始末の話は有るが、俺個人として其方を招待したつもりだ」
「以前も城門近くでお茶を御馳走に為ったが、ざっくばらんですね」
「まぁ座ってくれ。面倒な話の前に食事を済まそう。最もアースドラゴンやワイバーンを食している其方から見れば、質素な食事だがな」
「いやいや素材は良いが料理の腕はからっきしですので、料理人が腕を奮った料理には及びませんよ」
食事は和やかに進みテーブルが片付けられると「ソファーも良いが書類関係も有るのでこのまま遣らせてくれ」と陛下の言葉。
先ずクルンガー公爵とエメニール侯爵が拉致し、凌辱した人達と亡くなった人達の家族への慰謝料として、クルンガー公爵とエメニール侯爵の財産を充てる事を了承する。
その際、俺が手数料だと騙って懐に入れた財産に付いては不問にすると言われたので、その他細々とした事は全て王家に丸投げした。
捕らえた貴族達だが終身犯罪奴隷、家族も同様だが14才未満は孤児院に送り市民として教育する14~16は未成年では有るが5年間犯罪奴隷とする。
貴族本人達は犯罪奴隷だが、王城内で他の貴族達の世話係として晒し者になるらしい。
他の貴族達に対する牽制と、本人達の自尊心を叩き潰す目的だろう。
貴族位の剥奪と財産没収の上、家族共々犯罪奴隷として晒し者になる恐怖に、怯える貴族も多かろうと思う。
豪商達は本人と積極的協力者は犯罪奴隷に、家族は財産没収の上僅かな生活費を与えられて追放処分。
店舗は当分王家の管理下になり、そのうち分割して売却するとの事で全て了承する。
ヘルミナ商会の地下のお宝部屋を沈めて、元のお宝部屋にダミーの床を張ったまま放置しているのを思い出した。
今夜にでも行き、証拠隠滅をしておいた方が良いかな。
986
あなたにおすすめの小説
のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
最強の異世界やりすぎ旅行記
萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。
そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。
「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」
バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!?
最強が無双する異世界ファンタジー開幕!
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる