ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学

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45 ピクニック

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 《相変わらず、傍若無人な物言いだな》
 
 《だって出会いが酷いものなら、フルミナに降ろされた時の恨みも未だ忘れていませんので。ヨークス様のチョー適当な性格では、他の神様方もさぞや御苦労が絶えないかと思うと・・・それよりヨークス様、地球からの転生者や転移者は多いのですか? セルーシャの様に記憶を持って産まれる者達は》
 
 《魂の転移では記憶は消える筈だがのう》
 
 《消える、筈・・・ですか。ヨークス様って相変わらず適当な性格ですね》
 
 《フォーッホッホッホッ、流石はユーヤ良く分かっておるのう》
 《まぁ言ってやるな、我々の創造神様であるからのう》
 《ユーヤ、ヨークス様の事は我々に任せておけ》
 
 《ところでユーヤよ、焼き蟹と蟹の具沢山スープは絶品であるのう。旨い酒に焼き蟹は数多の祈りを凌駕するぞ》
 
 《では、空飛ぶ蜥蜴のお肉は要らないって事で》
 
 《ユーヤ! 早まるで無い! 御主も判っておろうが》
 
 《ヨークス様も相変わらずで、独り占めは駄目ですよ。今回は蟹の持ち合わせが少々少ないので、又捕りに行って来ますからねヨークス様》
 
 《何時も済まないのうユーヤ、願いが有れば何時でも来るが良いぞ》
  
 「はい、皆様失礼します」
 
 ヨークス神像の前で平伏するボイスを、祈りに来た者達が好奇の目で見ながら通り過ぎる。
 俺はフードを深く被り、放心状態のセルーシャとボイスを立ち上がらせると、屋台で気付けの酒を呑ませてから屋敷に戻った。
 
 「少しは落ち着いたかな」
 
 「はい、日本では神様の存在を感じた事は在りませんでしたのに」
 「まさか、武闘神グラン様と魔法神ハラムニ様、二柱の加護を授かるとは。ユーヤ様には、ボイスの命ある限りお仕えさせて頂きます!」
 
 「ボイス、そんな暑苦しいのは要らなよ。妹を暫し借りるが、その間セルーシャの安全を宜しく頼む。それと授かった加護を万全にする為、訓練はしてもらうぞ」
 
 2日後にシャイニーがその翌日クルフが俺の屋敷を訪れた。
 話を聞いて二人とも快諾した。
 魔法訓練所の仕事が忙しくて、碌に休みもとれなかったので良い休養になると喜んでいる。
 勿論魔法使いの後輩で、指導者を大勢育てているので仕事に支障は無いと太鼓判を押してくれた。
 
 「セルーシャにボイス、シャイニーとクルフだ。二人が魔法と武術の訓練をしてくれる事になったから頑張ってくれ」
 
 「シャイニー子爵様とクルフ子爵様から、魔法と武術の指導をしていただけるのですか」
 
 「様は要らないわ。ユーヤと関わったお陰で子爵様と呼ばれる羽目になったけれど、元々冒険者ですからね」
 「そうそう、子爵様と呼ばれると未だに肩が凝るんだよ。気軽にクルフと呼んでくれ」
 
 「魔法の訓練なら、スタートゲートが良いと思うのだがどうかな。あそこなら魔法の撃ち放題だし、ドームの周囲は土柱で柵を作って安全な様にしておいたから」
 
 「問題在りません。久しぶりですね」
 「誰も来ないので、ゆっくり出来るから良いです」
 
 「セルーシャとボイスは、俺と共に先にスタートゲートに跳ぶので後から来てくれ」
 
 オルスクに二人は暫く帰らないからと告げて、スタートゲートに跳ぶ。
 続いてシャイニーとクルフもゲートに現れた。
 
 「凄いですね。人が現れる所を見ても信じられません」
 
 「直ぐに慣れるよ。二人とも、今日はピクニックがてら蟹を取りに行こうよ。ヨークス様が蟹が気に入っててね、又今度持って行くと約束したんだ」
 
 「良いですね、あの蟹の味は忘れられませんから」
 「蟹やエビと、伯爵様の地下室から頂いたと言っていた酒の組み合わせは絶品だよな」
 
 「セルーシャとボイスにはこれを渡しておくよ。人に話したり見せびらかさないでね」
 
 「これは?」
 
 「マジックポーチだよ。君達が泊まっている部屋位の収納力が有るよ、冒険者には必要でしょ。生物を入れても腐らないので安心していいよ」
 
 「こんな高価な物預かれません」
 
 「預けたんじゃ無い。あげるよ」
 
 二人して又々フリーズしている。
 
 「二人とも貰っときなさい。ユーヤはマジックポーチを作れるんだから遠慮しないで。落とさない様に腰に付けておきなさい」

 先ずエビ蟹ゲートに跳ぶ。
 ルーシュに二人の護衛を頼んで散策だ、谷のせせらぎの側に多数の沢蟹が居る。
 以前エビ蟹魚を纏めて捕った場所へ行くと、相変わらず多数のエビ蟹が見える。
 
 「おーいるいる。元気そうで何よりだ、ゴメンね」
 
 〈パリッドーン〉と一発落とすと、浮いてくる魚にひっくり返ったエビや蟹が多数。
 
 「シャイニーとクルフは沢山捕っておきなよ。セルーシャとボイスもマジックポーチに仕舞っときな。入れたいものに触って入れと念じれば納まるからね、出すときは出したい物に触れて出す場所に置けばよいのだよ」
 
 まごまごしている二人にじれて
 
 「ボイスそのエビの髭を握って袋に入れと念じてみて、よし二人ともエビ蟹を五匹ずつマジックポーチに入れてみて」
 
 恐々エビや蟹をマジックポーチに仕舞う、ついで魚を10匹入れさせる。
 
 「持っていれば、何かの時に役に立つからな」
 
 「そうだな。結構役に立つし、美味いものを持ってると金の心配も無くなるぞ」
 
 「何か面白そうな話だな」
 
 魔法の指導を始めて間もない頃に、教え子の親が豪商だったらしい。
 何度も招待されて断り切れずに夕食に招かれたが、結構人を見下し自慢するタイプの親だったんだと。
 教え子は恥ずかしそうにしていたが、余りにもしつこく客を見下すので、厨房を借りて蟹の足を一本焼かせ、冒険者の酒の肴ですと何も教えず食べさせたのだとか。
 客自ら料理した物を手も付けず放置する訳にもいかず、少し口に含んだが硬直して黙ってしまったと。
 残りは皆で美味い酒と共に食し、和やかに夕食は終わったのだと。
 
 後に豪商の使いの者が来て、蟹を高額にて譲って欲しいと何度も要求されたそうだ。
 クルフは冒険者の食す野蛮な物を、貴方ほどの方に売り付ける恥知らずな真似は出来ないと断ったそうだ。
 余り何度も来るものだから、欲しければ俺の所へ行けば幾らでも手に入る、と教えたら、ビタリと来なくなったって。
 流石に俺に直談判は怖くて出来なかったらしいと、クルフが笑いながら教えてくれた。
 
 捕った蟹の一匹の足を切り取り、焚火で軽く炙って酒と共に食す。
 セルーシャは、こんな大きな物は初めてと嬉しそうに食べていたが、ボイスは初めて食べる蟹の味に顔が蕩けている。
 食後はルーシュに頼んで周辺に果物が無いか探してもらう。
 見つけたのは5センチ程の大きな実が縦に7~8個付いた綺麗な薄緑の果実だった。
 鑑定では果実美味と出たので、此も沢山収穫して皆で試食する。
 葡萄の様に皮が剥け果実もシャインマスカットに似た果肉の味だった。
 
 「まるでシャインマスカットが大きくなった見たい」
 
 セルーシャの呟きに、三人は意味が解ら無いので不思議そうな顔をしていたが、俺は全くその通りだよな。
 粒のでかい、シャインマスカットそのものだと納得していた。
 三人には話さないけどね。
 テレンザの王都とミズホの街でオークションに掛けてみて、名前が無ければマスカットって名付けてやろうと密かに決めた。
 
 のんびりした一日を過ごし、スタートゲートに戻ると四人を残してミズホの屋敷に戻り、メイドを2名連れて再びスタートゲートに引き返す。
 メイド二人には柵の外には出ない事を命じて、ゲートハウスの中を案内して4人の世話を頼む。
 
 「シャイニーとクルフ後は頼んだね、時々顔を出すから」
 
 そう告げてミズホの屋敷に戻った。
あとは調理人にヨークス様用の焼き蟹と蟹出汁の具沢山スープの作り置きを頼む。
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